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「ボクサー」と呼ばれる水平対向エンジン なぜポルシェとスバル以外のメーカーは作らないのか

くるまのニュース / 2020年6月10日 19時10分

かつては多くのクルマに搭載された水平対向エンジンだが、いまではポルシェとスバル(とスバルからOEM供給されたトヨタ)しか、水平対向エンジンを搭載した4輪車はない。それはいったいなぜなのだろうか。

■ピストンが水平に往復する動きからボクサーと呼ばれる

 1本のクランクシャフトをはさんで水平位置にシリンダーを左右に配置し、ピストンを向かい合うように対に置くレイアウトを採用したのが、水平対向エンジンである。

 ピストンが横に、水平方向に往復するから「ボクサー」エンジンと呼ぶ人も多い。このピストンの早い動きが、パンチを打ち合うボクサーの動きに似ているからだ。

 当然、2つのシリンダーで一対になる構造だから、気筒数は2の倍数になる。トヨタの初代パブリカやトヨタスポーツ800の水平対向エンジンは2気筒だった。スバルとポルシェは4気筒と6気筒を採用するなど、すべて気筒数が偶数のエンジンだ。

 バンク角を左右に広げ、水平になるようにした180度V型エンジンもある。これも水平対向エンジンの仲間だ。

 だが180度V型エンジンは、向かい合ったピストン同士が同じクランクピンを使っている。そのためピストンの動きは左右対象にはならない。水平対向エンジンと違って対向するシリンダーの間で振動を打ち消せないため、8気筒以下だと大きな振動が発生する。だから普及しなかった。

 水平対向エンジンの歴史は古く、19世紀の末にはダイムラー・ベンツを創設したカール・ベンツが世に出したのが始まりといわれている。

 戦後、西ドイツの復興に大きな役割を果たしたフォルクスワーゲン「タイプ1」は、今も「ビートル」のニックネームで愛されている。これは水平対向4気筒エンジン搭載モデルの代表だ。このエンジンがあったから、ポルシェは名車「356」を生んだし、水平対向エンジンにこだわるようになった。

 イタリアのランチアやアルファロメオも採用したし、映画にもなった伝説のタッカーも水平対向エンジンを積んでいる。

 日本でも水平対向エンジンを積むクルマは少なくなかった。

 ダイハツが戦後間もなく発売した3輪乗用車の「BEE」は、日本で初めて量産車に搭載した水平対向2気筒エンジンだ。

1951年に発売されたダイハツ「BEE」。804ccの水平対向2気筒OHVエンジンを搭載1951年に発売されたダイハツ「BEE」。804ccの水平対向2気筒OHVエンジンを搭載

 今は家具メーカーになっている岡村製作所も、「ミカサツーリング」に水平対向2気筒エンジンを搭載した。1960年代になるとトヨタは「パブリカ」に空冷の水平対向2気筒エンジンを積み、1965年には「トヨタスポーツ800」にも拡大採用している。

 2輪車に目を向ければ、BMWは今なお「Rシリーズ」に水平対向2気筒エンジンを使っているし、ホンダもゴールドウイングに水平対向4気筒と水平対向6気筒を採用する。レーシングカーにも、水平対向エンジンを積むマシンが少なくない。

■メリットも多いがコスト面などデメリットもある

 水平対向エンジンの存在を多くの人に知らしめたのは、スバルだ。

スバル「EJ20」型水平対向4気筒エンジンのカット図スバル「EJ20」型水平対向4気筒エンジンのカット図

 1966年5月、日本の量産エンジンとして初めて水平対向4気筒を積んだ「スバル1000」を送り出している。スバルは中島飛行機をルーツとする自動車メーカーだから、慣れ親しんだ航空機用の星形エンジンと共通項の多い水平対向エンジンに注目し、開発に着手したのかもしれない。同じ歴史を持つ、「スカイライン」を生んだプリンス自動車も、同じ時期に水平対向エンジンを開発し、試作していた。

 水平対向エンジンの魅力は、V型6気筒エンジンなどのマルチシリンダーと同じように回転バランスに優れ、振動も少ないことだ。向かい合ったピストンが対になって動くとともに180度反転する。

 だから理論的には振動を打ち消すことができ、2気筒や4気筒でもバランサーを必要としない。クランクシャフトを中央に配置することによりケース剛性を高められるのも美点のひとつだ。

 また、同じ気筒数ならば直列エンジンより全長と全高を低く抑えることができる。当然、重心は低くなるし、左右対称だから重量バランスも良いなど、スポーツモデルにはメリットが多い。

 ハンドリングや安定性の向上を期待できるから、ポルシェやスバルは現在も採用し続けているのだろう。エンジン高を低くできることは、衝突時にエンジンをフロア下に落としやすいから安全性においても有利に働く。

 ただし、デメリットもある。生産性やコスト面において、水平対向エンジンは直列エンジンより不利だ。

 カムシャフトなどの数は増えるし、排気系の取り回しにも制約が出る。排気系の効率を高めようとなると、邪魔になるオイルパンはレーシングエンジンのようにドライサンプにしなければならない。また、横方向に広いエンジンだから補機類の収納にも苦労させられる。その構造上、オイル漏れなどのトラブルも出やすい。

 また、横方向にエンジンが広いから、コンパクトカーに搭載しようとすると設計に苦労させられる。FF車だとステアリングの切れ角も制約され、取り回し性は悪くなりがちだ。

 設計レイアウトに苦しめられ、シャシやトランスミッションまでも専用設計になるため生産コストも高くなる。今の時代はC02削減のための燃費向上にも水平対向エンジンは向いていない。だからポルシェとスバル以外の自動車メーカーは、手を出さないのである。

ポルシェ992型「911カレラ4S」ポルシェ992型「911カレラ4S」

 だが、クルマ好きにとって水平対向エンジンは魔性のパワートレインだ。

 排気サウンドは個性的だし、パワーフィールも独特で、味がある。とくにマルチシリンダーのボクサーエンジンは、他のエンジンにはない魅力を持ち、官能の世界へと誘う。だから何台も乗り継ぐ熱狂的なマニアが、ポルシェとスバルには多いのだろう。これは2輪車の世界にも当てはまる。

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