アルファ ロメオ8Cにまつわるアナザーストーリー3選
くるまのニュース / 2020年6月18日 19時10分
2003年に綺羅星の如く登場したアルファ ロメオ「8C」のコンセプトカーは、ほぼそのままのデザインで市販化された。しかし、「8Cコンペティツィオーネ」が実現化するまでには、複雑なお家事情やそこから派生したストーリーがあった。
■ストーリー1:キーワードは“スポルティーヴァ・エヴォルータ”
アルファ ロメオ「8Cコンペティツィオーネ」は、第二次世界大戦の前後に栄華を築いたアルファ ロメオの伝統を復活させたスーパーカーだ。
そのストーリーが幕を開ける前夜には、プロローグともいうべきコンセプトカーの存在があった。1996年パリ・サロンにおいてアルファ ロメオが発表した「ヌヴォラ(Nuvola)」である。
アルファ ロメオ博物館に展示されている「ヌヴォラ」
このプロジェクトを具現化すべく開始されたのが、アルファ ロメオ社内で「Sportiva Evoluta(スポルティーヴァ・エヴォルータ)」と名づけられた、市販スーパースポーツカーのプロジェクトである。
ヌヴォラ以来となるフロントエンジン後輪駆動/2シーターという基準のもと、アルファ ロメオは複数のカロッツェリアやデザインスタジオに、プレゼンテーションへの参加をもちかけた。
しかしデザインコンペを勝ち抜いたのは、当時デ・シルヴァ氏の後継としてチェントロスティーレを率いていた、アンドレアス・ザパティナス氏による社内デザイン案だった。これが「8Cコンペティツィオーネ」となった。
8Cコンペティツィオーネは、2003年9月のフランクフルト・ショーに、まずはコンセプトカーとして出品。その名称は、戦前/戦後を挟んだ時期に製作されたアルファ ロメオの至宝「8C」シリーズにオマージュを捧げたものである。
ショーデビューの際に公表されたスペックによると、アルミ+コンポジット製のスペースフレームに、カーボンファイバー製ボディを組み合わせ、フロントミッドに搭載するV型8気筒4.2リッター(排気量から判断すればマセラティ用?)+機械式スーパーチャージャーを組み合わせた400ps超級エンジンで後輪を駆動。最高速度は300km/hを超えると謳われていた。
ところが、カロッツェリアへの供給を前提としていた専用スペースフレームの計画は、理由も明かされないままキャンセルされることになる。そのためか、社内デザインである8Cコンペティツィオーネの生産化プロジェクトも、一時期は棚上げになってしまったかに見えた。
アルファ ロメオ博物館に展示されている「8Cコンペティツィオーネ」
それでも翌2004年の「コンコルソ・デレガンツァ・ヴィラ・デステ」コンセプトカー部門で金賞を得たことによって、再び力を得た8Cコンペティツィオーネは、2006年のパリ・サロンにて「500台限定生産、2008年からEU圏内でデリバリー開始」という生産スケジュールとともに、ついに生産バージョンの正式なワールドプレミアにこぎつけた。
生産型の8Cコンペティツィオーネは、スティール製のプラットフォームと総カーボンファイバー製パネルを組み合わせたボディに、マセラティのV8と基本が同じとなる450psを誇る4.7リッターV8を搭載。シングルクラッチ式6速ロボタイズドMT「Q-セレクト」を組み合わせ、最高速290km/h、0-100km/h加速4.2秒以下という高性能を標榜する、正真正銘のスーパーカーとなった。
そして全世界で500台という限定枠を巡って、世界中のアルフィスタの間で争奪戦が展開された上に、現在のコレクターズカー国際マーケットにおいても、新車時の販売価格(日本国内では2259万円)を遥かに凌ぐ高値で流通しているようだ。
加えて、2005年の北米「ペブルビーチ・コンクール・デレガンス」にてコンセプトモデルがデビュー。翌2006年にはクーペ版と同様ヴィラ・デステで金賞を獲得していたオープン版「8Cスパイダー」も、8Cコンペティツィオーネの生産が終了した2009年からシリーズ生産されることが決定。同じく世界限定500台のみが製作・販売されることになったのである。
■ストーリー2:一度は消えた……? ブレラ・コンセプト
ところで、2003年のショーモデル発表当時には「スポルティーヴァ・エヴォルータ=8Cコンペティツィオーネ」といわれていたが、この時代のメディアや識者の間では、デザインコンペで競ったライバルの存在も噂に上っていた。
そのうちの最右翼と目されたのが、先立つこと一年前の2002年のジュネーヴ・ショーにて、イタルデザイン-ジウジアーロのデザインスタディとして初公開された「ブレラ・コンセプト」である。
フロントマスクのデザインなど、ほぼ市販モデルが踏襲した「ブレラ・コンセプト」
8Cコンペティツィオーネと同じく、マセラティ系のV8ユニットをFRレイアウトで搭載したブレラについては、スポルティーヴァ・エヴォルータのデザインコンペでザパティナス(チェントロスティーレ)案に敗退したのち、イタルデザイン社が自社ブランドとしてショーデビューさせたという経緯があった……?とされている。
ところが、くだんのジュネーヴ・ショーで予想以上の人気を博したこと、それに加え翌月に開催された「コンコルソ・デレガンツァ・ヴィラ・デステ」にて、初めて設定されたコンセプトカー部門の初代金賞に輝いたことから、ブレラに対する風向きは大きく変わることになる。
この2002年のヴィラ・デステには筆者も臨席し、ブレラ・コンセプトとイタルデザインの受賞が場内にアナウンスされた際には、まったくの偶然でファブリツィオ・ジウジアーロ氏のすぐ傍らにいた。
そして父ジョルジェット・ジウジアーロ氏とともに、フィアット・グループ首脳陣たちの輪の中心に迎えられ、ヴィラ・デステではあとにも先にも見たことがなかったほどの熱い拍手喝采が贈られる親子の姿を目の当たりにし、ブレラはこのまま終わらないことを直感的に確信したものだ。
さらに、ザパティナス氏が突然チェントロスティーレから退職してしまった(のちに日本のスバルに移籍)こともあって、当時のアルファ ロメオCEO、ダニエッレ・バンディエラ氏はイタルデザインに再接近。次期主力ベルリーナ(のちの「159」)の総合デザインを待たずして、「156」/「166」のフェイスリフトもジウジアーロへと委託するに至る。
そして、一度は消える運命にさらされたブレラにも、再び光が当てられることになる。
FFおよびAWDレイアウトへと転向した生産型ブレラが、2005年のパリ・サロンにて正式デビュー。より安価な量産クーペ「アルファGTV」の後継車となったのである。
■ストーリー3:独自の発展を遂げた、名門ザガートの異色作
2010年の「コンコルソ・デレガンツァ・ヴィラ・デステ」において正式発表された、カロッツェリア・ザガート製のレーシングベルリネッタ「アルファ ロメオTZ3コルサ」もまた、実はその遥か以前にスポルティーヴァ・エヴォルータ計画のデザインコンペに参加していたコンセプトモデルから発展したものでは……? とする見方も、これまで根強く語られてきている。
1台のみ制作された「TZ3コルサ」
TZ3コルサは、1960年代に製作されたアルファ ロメオの純レーシングGT「ジュリアTZ/TZ2」のデザイン様式とボディラインを引用し、21世紀初頭における最新のメカニズムとV8エンジンを投入して製作したコンペティツィオーネである。
車体構成は、モノシェル構造を成すカーボン製チューブラーシャシに、同じくアルミ製のチューブラーフレームと、ザガート社のチーフスタイリストを長年務めてきた、原田則彦氏のデザインによるボディを組み合わせたとのことだった。
「チューブラー」をことさらに強調しているのは、往年のジュリアTZ/TZ2が鋼管スペースフレームを採用していた故事に倣ったもの。つまり「TZ」の名に正統性を持たせるためだったと思われる。
一方、フロントミッドシップに搭載されるパワーユニットは「ドライサンプ潤滑システムを備える4.2リッターV型8気筒」と発表されたものの、その詳細については明らかにされなかった。
しかしこの排気量から推測すると、マセラティ製の4.2リッターV8がベースとされていると見て間違いない。
ところが「スポルティーヴァ・エヴォルータ」各案に共通するマセラティV8はさておき、独自のチューブラーフレームなどの車体構成は、たとえスーパーカーといえどもコストや生産性の面で折り合わないと判断されたことは、想像するに余りある。
結局TZ3プロジェクトは「スポルティーヴァ・エヴォルータ」とは別のプロジェクトとして、ドイツのザガート・コレクターMartin Kapp氏の求めに応じて製作された1台のTZ3コルサのみに終わってしまった。
しかし、2012年にダッジ・バイパーのシャシやメカニズムを流用した「TZ3ストラダーレ」として、TZ3プロジェクトは完結。近年のザガート少数製作モデルの慣習にしたがって、9台が生産されたといわれている。
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