トヨタ全車併売化の裏で、高級ミニバン「エスクァイア」なぜ選ばれる? 兄弟車同士の違いとは
くるまのニュース / 2020年6月22日 18時10分
トヨタは2020年5月に全車種の全店併売化を開始しました。同じ販売店で兄弟車同士を比較検討できるようになりましたが、そのなかで「エスクァイア」と「ヴォクシー/ノア」にはどのような違いがあるのでしょうか。
■トヨタ「エスクァイア」の「ヴォクシー/ノア」に対する違いとは
トヨタは2020年5月に、これまでチャネル別に販売車種を住み分けてきた体制をやめ、全販売店での全車種併売化をスタートしました。トヨタは自社ラインナップに兄弟車が多く存在しますが、現在は同じ販売店で兄弟車同士を比較検討できるかたちになっています。
そして同社のミニバンラインナップのなかには3車種が兄弟関係という「ヴォクシー/ノア/エスクァイア」の事例が存在するのですが、そのなかでもっとも高価格な車種なのがエスクァイアです。
同じ販売店で兄弟車同士を比較できる環境のなか、安価なヴォクシー/ノアに対してエスクァイアを選ぶ意味は、どのような点にあるのでしょうか。
トヨタが2020年現在ラインナップするミドルサイズミニバンが、ヴォクシー/ノア/エスクァイアの3車種です。
以前はミドルサイズミニバンとして、後部ドアにヒンジ式を採用する「ウィッシュ」や、助手席側にセンターピラーレスのドアを採用した「アイシス」なども存在しましたが、どちらも販売終了してしまいました。
現在は、ヴォクシー/ノア/エスクァイアより小型のミニバンとして「シエンタ」、そして大型のミニバンとして「アルファード/ヴェルファイア」が存在します。
基本設計を共有する兄弟関係の車種が多いトヨタといえ、同メーカー内で3車種が兄弟関係というモデルはヴォクシー/ノア/エスクァイア以外ではありません。
ヴォクシー/ノア/エスクァイアは内外装の一部デザインが異なることが差別化要素となっていますが、そのほかの違いとしてはかつての販売チャネルの違い、そして価格の違いが挙げられます。
まず全車種併売化以前の販売チャネルの違いとしては、ヴォクシーはネッツ店、ノアはカローラ店、そしてエスクァイアはトヨペット店とトヨタ店で販売されていました。
また価格に関しては、ヴォクシーとノアには仕様や価格が共通した“兄弟グレード”といえるグレードが設定され、価格帯が似通っている一方、エスクァイアは価格帯が若干高めで、独自性が見られます。
これは、トヨタのポジショニングとしてエスクァイアが「新上級コンパクトキャブワゴン」に位置づけられていることが理由で、同社は「5ナンバークラスミニバンにワンランク上の高級感を付与し、高級車の新たな選択肢として開発しました」と説明。従来のミドルサイズミニバンであるヴォクシー/ノアより高級なモデルという立ち位置が与えられています。
実際、エスクァイアでは全グレードにメッキ加飾付きのドアハンドル、内装では合成皮革の表皮が随所に用いられ、高級感が演出されています。また、高級感があるだけでなく上質な雰囲気です。
ユーザーがヴォクシー/ノアではなく、エスクァイアを選ぶ場合の決め手について、トヨタの販売店スタッフに聞くと「高級感のある外観に惹かれ、それを重視して選択されるお客さまも多いです。また、乗り込んだ際にシートやパネルの質感が高いことも好評です」と話します。
またエスクァイアがあることで、ユーザーがトヨタから他メーカーに移ることを防ぐことができた例もあったようです。
2020年5月以前にエスクァイアを購入したという70代のユーザーは、次のようにコメントします。
「50代後半からトヨタのウィッシュに乗り続けてきました。
ウィッシュの乗り換えの際には、趣味のゴルフのために『多人数乗車できる』『荷物も積める』という条件を考慮し、再びミニバンから選ぶということに決め、まず付き合いのあるネッツ店のミドルサイズミニバンから探しました。
しかし(ネッツ店扱いの)ヴォクシーのデザインが若者寄りに感じてしまい、選びにくいと感じてしまいました。結局、仕事で付き合いのあったトヨタ店を訪れ、70代の自分にも合うと感じた上質で落ち着いた雰囲気のエスクァイアを選びました」
■全車種併売化の先では、クルマの買い方・選び方も変わる?
全車種併売化によって、外観の違う兄弟車同士を比較できるようになりましたが、この体制もあまり長く続きそうにはありません。
トヨタは、2020年代の半ばには現在販売している車種を半減させる方向で調整しているといいます。
これは、単に消滅する車種があるだけでなく、兄弟車同士の統廃合も含まれると見られ、前出のヴォクシー/ノア/エスクァイアやアルファード/ヴェルファイアのほかにも、コンパクトカーの「ポルテ/スペイド」、セダンの「プレミオ/アリオン」なども対象となる可能性があります。
兄弟車同士のトヨタ「ポルテ」(写真左)と「スペイド」(写真右)
それぞれ、デザインの違いを中心に差別化が図られているほか、プレミオ/アリオンの例については、トヨタの歴史あるモデルとして知られる「コロナ」や「カリーナ」の血筋がここで途絶えてしまうことにもなります。
自分の愛車の車種が統廃合で消滅する可能絵があることについて、前出のエスクァイアのユーザーは、「自分が購入したタイミングで好みのデザインの愛車を選べたのは良かったものの、車種がなくなってしまうかもしれないことがあると聞き、残念に感じました。とても複雑な気持ちです」とコメントします。
※ ※ ※
トヨタは販売チャネルを統合することを決断した理由について、「販売の体制を『チャネル軸』から『地域軸』へと見直し、より地域に密着したディーラーとすることです。
たとえばお客様の家の隣にトヨタの販売店があっても、いまのチャネル体制ではそこで希望する車種が買えるとは限りません。それでお客さまに不便をおかけすることもあると思います。それを解消できるのが、まずはお客さまのメリットとなると考えています」と説明します。
しかし、トヨタの狙いは販売網の整理だけではなく、「クルマを所有しない」という社会に向けた変革でもあるといいます。
クルマを取り巻く環境は今後、所有するものから必要な時だけ使うものへと移り変わっていくと予測されており、その社会変化への対応として、トヨタ自身がサブスクリプションサービスやカーシェアリングサービスを立ち上げています。
その実施にあたっての準備が全販売店全車種併売化といえるのです。
前出のトヨタは、次のようにも説明します。
「販売店の見直しで、より地域に密着し、地域社会をより豊かにすることを目指します。具体的には、モビリティサービスを提供する前提として、お客さまの求める商品やサービスをどの店舗でも提供できる体制を整えることが狙いです」
※ ※ ※
サブスクリプションサービスやカーシェアリングといった新たなサービスが盛り上がりをみせるなか、さまざまな車種のなかから自分の愛車を選択するという楽しみは、少しずつ過去のものになり始めているのかもしれません。
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