前席に3人座れた!? 個性的だった「フロント3人掛け」のクルマが絶滅した訳
くるまのニュース / 2020年6月26日 17時10分
以前は、クルマの前席(1列目)に3人が座れるクルマが存在していました。しかし現在では、一部のトラックやバンなど商用車に「フロント3人掛け」が残っている程度で、乗用車では絶滅状態です。なぜ消滅してしまったのでしょうか。
■前席の快適性を3人で味わえる「フロント3人掛け」
以前は、前席(1列目)に3人が座れるシートを装備したクルマが存在していましたが、現在ではトラックやバンといった商用車の一部に残っているのみで、乗用車においては絶滅状態です。
フロント3人掛けのクルマの代表格といえば、アメリカ車です。これはトラックを日常の足としても活用するアメリカならではのクルマ文化が大きく寄与しているといえます。
トラックやバンは「多くの荷物や人を移動させる」ための働くクルマなので、限られたスペースで多くの人を乗せるため、フロントに3人分のスペースを確保したベンチシートを採用するのが定番となっていったといえます。
このフロントがベンチシートのモデルは、助手席側から運転席への移動はもちろん、荷物をすぐ横に置けたり、便利に使えることが特徴となっていました。その利便性のひとつとして、前列に3人座ることができたというわけです。
また、以前は多く存在していた、ステアリングの根元にシフトを配置した「コラムシフト」とも関連していて、センタートンネルなどシフトを配置するスペースを省略できたこともフロント3人掛けには都合が良かったといえます。
現在でもアメリカではトラックを乗用車として利用するケースも多く、そのような文化が背景にあって、映画やドラマなどでもトラックの前列に3人座っているシーンが多く使われています。
国産車でもフロントベンチシートを採用した乗用車はいくつか存在しましたが、必ずしも3人掛けではありませんでした。
フロント3人掛けとするモデルには、ベンチシートのほかに、中央部分を少しオフセットして配置した車種や、逆に運転席を中央に配置し左右に助手席を設けたモデルなどもありました。
なぜフロント3人掛けのモデルは減少してしまったのでしょうか。
もっとも大きい理由が、『衝突安全性』の問題です。現代のクルマは、ぶつからないための「予防安全」と、いざというときに乗員の命を守る「衝突安全」を両立させる必要があります。
中央の座席にも3点式シートベルトやヘッドレストの装着が義務付けられたこともあり、フロントに3つ配置するためには大幅に車内幅を広げる(=クルマの全幅を拡大する)必要があります。
最近のクルマは年々大型化しているとはいえ、単純に広げればいいというわけにもいきません。
しかも乗車定員を増やすためなら、3列目シートを配置するほうが現実的ですし、実際に5ナンバーボディでも3列シートのクルマはあります。
またベンチシートのメリットである凹凸の少ないシート形状は、しっかり体をホールドできないというデメリットもあります。
さらにミニバンでは可能な前後シートのウォークスルーが、フロントベンチシートではできないこともあって、無理してフロント3人掛けにこだわる必要がなくなった結果、採用するクルマが自然淘汰されたというのが実情のようです。
それでも独特の魅力とベンチシートならではの利便性に慣れたユーザーはアメリカには多く、数年前まではトヨタの海外専用車種「タコマ」や「タンドラ」といったピックアップモデルに採用されていました。
■日産やホンダが発売したフロント3人掛けモデルとは?
そんな絶滅危惧種ともいえるフロント3人掛けモデルですが、どのようなモデルがあったのでしょうか。
●日産「ティーノ」
1998年に登場した日産「ティーノ」は、フロントをベンチシートにした「5+1」というコンセプトのモデルです。
日産「ティーノ」
ティーノはフロント3人掛けを目指したというより、いざとなれば3人乗車もできるフロントベンチシートを装備し、当時でも珍しかった3人掛けできるクルマとして、新しいファミリーカー像を提案していました。
日産の小型ファミリーセダン「サニー」(9代目)のプラットフォームを採用し、フロントベンチシートをより活かすためにシフトをコラム化させたのも特徴です。
ティーノのボディサイズは全長4270mm×全幅1760mm×全高1610mmで、角を落とした柔らかなラインで構成したデザイン。エンジンは1.8リッターと2リッターの2種類、4ATとCVTが選べました。
車内空間の広いトールワゴンスタイルで、日産初のエンジン&モーターのハイブリッドを搭載した「ティーノ ハイブリッド」が100台限定で生産された歴史を持っています。
乗りやすく実用性も高い割には人気に火がつかず、2003年に生産終了しました。
●ホンダ「エディックス」
フロント3人掛けがセールスポイントとして開発されたトールワゴンとして2004年にデビューしたエディックス。
7代目「シビック」をベースとしたミニミニバンともいうべきモデルで、前席3名+後席3名の6名乗車が可能です。
しかもこの6座席がすべて独立していることに加えて、フロント・リア中央の座席はスライドすることができ、エアバッグの干渉を回避しながら、ほとんどのチャイルドシートが安全に取り付けられるようになっています。
ボディサイズは全長4285mm×全幅1795mm×全高1600mmと、幅が広く前後に短い5ドアワゴンともいえます。
エンジンは1.7リッター、2リッター、2.4リッターを搭載しましたが(のちに1.8リッターも搭載)、中途半端な排気量やグレードごとに変わる税金もあって、市場での人気を獲得できませんでした。
2009年に生産が終了してしまいましたが、トールワゴンとしての実用性の高さや、すっきりしたスタイリングなどは現在でも十分魅力的だといえます。
●フィアット「ムルティプラ」
フロント3人掛けのクルマのなかで、もっとも個性的なスタイリングとして有名なのがフィアット「ムルティプラ」です。
前期型は、ロービーム用のヘッドランプを通常のフロントマスク部分に配置するとともに、ハイビーム専用をAピラーに埋め込んだ両生類のようなデザインで、2008年にイギリスの新聞「デイリー・テレグラフ」が企画した「史上もっとも醜いクルマ100選」で2位を獲得するなど、非常に個性的なモデルでした。
良くも悪くも1度見たら忘れられないスタイリングで、全長3995mm×全幅1870mm×全高1670mmという超幅広ボディ。1.6リッター、1.9リッターエンジンを搭載し、5速MTのみというのも珍しい設定です。
前後3人掛けシートを採用したインテリアは、6座席すべてが独立しており、運転席以外は個別に折りたたむことも取り外すことも可能と、こちらも個性的でした。
不評だったスタイリングも、2004年に「プント」に似た落ち着いたデザインに変更され、逆に主張が感じられずセールス的には不作になってしまいました。
いま見ても超個性派な前期型ムルティプラは、ほかの人とは違うクルマを探している人は一見の価値アリです。
※ ※ ※
フロント3人掛けのクルマは現在の安全基準には満たない部分もありますが、前席に3人乗れるという個性は捨てがたいものがあります。
中古車なら、いまでも貴重なフロント3人掛けモデルを購入することが可能です。興味のある人は、中古車をチェックしてみてはいかがでしょうか。
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