日産「MID4」はなぜ市販されなかったのか!? 幻に終わった和製スーパーカーを振り返る
くるまのニュース / 2020年7月13日 14時10分
日本が好景気に湧いていた1980年代の終わり、日産は日本初のスーパーカーを開発するプロジェクトを進めていました。しかし、そのプロジェクトは、バブル絶頂期には消滅してしまいます。そこで、幻となった日産「MID4」について振り返ります。
■本格的な和製スーパーカーのデビュー
日産は1980年代の中頃、『1990年までに走りにおいて世界一を狙う』というスローガンを掲げ、これを「901活動」と名付け、プロジェクトをスタートさせました。
この901活動実現に向けて開発されたモデルが、日本市場をターゲットとした「R32型 スカイラインGT-R」、北米市場をターゲットとした「Z32型 フェアレディZ」、そして欧州市場をターゲットとしたのが「P10型 プリメーラ」です。
この3台は、いまも語り継がれるほどの優れた性能とデザインによって、実際にヒット作になりました。
一方で、これら3車種と並行するように、あるプロジェクトが日産社内で動いていました。それが本格的な和製スーパーカーである日産「MID4(ミッド・フォー)」の開発です。
エンジンをリアミッドシップに搭載した4WDのスポーツカーを意味するMID4は、1980年代におこなわれていた研究開発の成果を、モーターショーの場で発表することも目的とした実験車両として製作されたコンセプトカーです。
実際に1985年のフランクフルトモーターショー、そして第26回 東京モーターショーの日産ブースでお披露目され、来場者の目を釘付けにします。
この東京モーターショーでは、日産だけでなく各メーカーも4輪操舵や4WD、DOHC4バルブエンジンなど、次世代の新技術を発表していましたが、日産はMID4だけでなく、後に市販された「Be-1」を展示するなど、話題が豊富でした。
FRPでつくられたMID4のボディは、フェラーリ「512BB」をイメージさせるスーパーカーのフォルムで、高性能車では定番だったリトラクタブルヘッドライトを採用した「クサビ型」のシャープなデザインを採用。
ボディサイズは全長4150mm×全幅1770mm×全高1200mmと当時としては大柄で、車重は1230kgと比較的軽量でした。
エンジンはリアミッドシップに横置きに搭載された、最高出力230馬力を発揮する3リッターV型6気筒DOHC24バルブで、このエンジンは後の「VG30DE型」のプロトタイプです。
駆動方式はセンターデフにビスカスカップリングを組み合わせたフルタイム4WDを採用。サスペンションは4輪ストラットの独立懸架とし、リアにはR31型 スカイラインに採用した後輪操舵機能「HICAS(ハイキャス)」を搭載することで、低中速域でのシャープなハンドリングと、高速域での安定性を両立していました。
また、ブレーキは4輪ベンチレーテッドディスクとし、タイヤは205/60VR15と、いまでは小径ですが当時としては大径かつ低扁平率のスポーツカーらしい足まわりとなっています。
※ ※ ※
こうして、センセーショナルなデビューを飾ったMID4は、東京モーターショーの話題を独り占めしましたが、2年後の第27回 東京モーターショーには、大きく進化したMID4が再び現れることになります。
■市販化に向かって動き出したMID4 IIだったが……
MID4の発表から2年後、1987年に開催された第27回 東京モーターショーの日産ブースに、大幅に進化した「MID4 II」が出展されました。
見た目もメカニズムも大きく進化した「MID4 II」
MID4 IIの外観は、ややクラシカルだった先代から変貌し、未来感のあるフォルムとなっています。ボディサイズは全長4300mm×全幅1860mm×全高1200mmと、ひとまわり大きくなり、車重も1400kgと重くなっていますが、これは後述するエンジンの変更や補機類の追加によるものです。
また、外観以上に変化したのがエンジンとシャシで、最高出力330馬力のV型6気筒DOHCツインターボエンジンの「VG30DETT型」を、リアミッドシップに縦置きに搭載。ラジエーターとふたつのインタークーラーをエンジンの横にレイアウトしたことで、ボティサイドにはエアインテークが開いています。
5速MTのトランスミッションはエンジンの前方に配置され、駆動方式はビスカスカップリングとセンターデフを組み合わせたフルタイム4WDを踏襲。
サスペンションはフロントにツインダンパー式のダブルウイッシュボーン、リアにはHICAS付きのマルチリンクを採用し、路面の追従性向上と運動性能が飛躍的にアップしています。
ブレーキは4輪ベンチレーテッドディスクを採用し、タイヤサイズはフロントが235/55ZR16、リアが255/50ZR16の前後異径サイズです。
内装もモダンになり、乗員を包み込むようにドアからコクピットまでラウンドするパネル形状となり、スイッチ類をメーターナセルに集中することで機能的に配置。
再び東京モーターショーで話題をさらったMID4 IIは、展示されるより前にジャーナリスト向け試乗会がおこなわれ、高性能ながらじゃじゃ馬的な操縦性ではなく、スムーズに乗れるスーパースポーツと評されます。
内外装の仕上がりはいつ市販化されてもおかしくないほどのクオリティで、実際に1985年頃から市販化に向けた検討が始まっており、MID4 IIは初期のプロトタイプという位置づけでした。
※ ※ ※
こうして市販化に向けて動き出したMID4は、開発と同時に生産についても綿密な検討がおこなわれ、1980年代の終わり頃には現実味をおびていました。
しかし、さらなる検討の結果、市販化は中止という経営判断が下されます。
その理由としては、当時、日本は好景気にわいていましたが、日産の財務状況は過剰な設備投資のため悪化し始めており、MID4の市販化による莫大な開発費用と工数の捻出は難しいということでした。
バブル崩壊で開発中止となったクルマはいくつもありますが、MID4はバブルの真っ最中に中止となったということです。
ファンの期待に反して市販には至らなかったものの、MID4の開発で確立した技術の多くは、フェアレディZやスカイラインGT-Rなどの市販車で生かされ、日の目を見ることになります。
MID4とMID4 IIは、神奈川県座間市にある展示施設「日産ヘリテージコレクション」に保存されており、現在は新型コロナウイルス感染拡大の影響で見学を中止していますが、再開されれば実車を間近で見ることができます。
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