なぜ個性的な車が減った? 似たような車種が同じ時期に登場する事情とは
くるまのニュース / 2020年7月15日 7時10分
軽自動車やコンパクトカーなど、同じカテゴリで同じようなモデルが次々と登場しています。意図的ではないようですが、似たようなモデルが連続でデビューするのはなぜなのでしょうか。
■軽・コンパクトからSUVまで、同じようなモデルが次々に登場
最近発売された新型車を見ると、同じカテゴリに属する似通ったクルマが目立ちます。SUV風の軽自動車では、2020年1月にスズキ「ハスラー」がフルモデルチェンジし、同年6月にはライバル車と見られるダイハツ「タフト」も発売されました。
背の高い軽自動車では、2019年7月にダイハツ「タント」がフルモデルチェンジし、2020年2月には日産「ルークス」・三菱「eKスペース/eKクロススペース」が登場しています。
コンパクトカーでは2020年2月に、トヨタ「ヤリス」とホンダ「フィット」がほぼ同時に新型になり、コンパクトSUVは、2019年11月にトヨタ「ライズ」とダイハツ「ロッキー」、2020年6月には日産「キックス」がデビューしました。
これらのフルモデルチェンジや新車投入は、意図的に時期を近付けたわけではありません。例えばタントは2代目が2007年、3代目は2013年に発売され、6年ごとにフルモデルチェンジをおこなうため、4代目の現行型が2019年に登場しました。
ヤリスとフィットは両車とも2020年2月に発売されましたが、本来の予定では、フィットは2019年中の登場になっていました。同じホンダの「N-WGN」が電動パーキングブレーキの不具合で納期が遅れたことにより、フィットの発売が2020年2月に延期されています。
事情はさまざまですが、似通ったクルマが同時期に発売されることが増えました。この理由をメーカーの商品企画担当者に尋ねると、次のように説明します。
「いまは複数のメーカーが、同じ市場をねらって、同時期に商品開発を進めています。そうなると同じ時期に同じような発想が生まれ、企画が立案されます。
相手の情報を探ったりしなくても、結果的に似ているクルマが登場するのは避けられないでしょう」
クルマの市場が成熟して、市場調査能力が高まったことも一因でしょう。いまはメーカーがユーザーの用途や好みを正確に把握しているので、必要なクルマも明らかになり、似通ったクルマが増えるのです。失敗を避けるため、冒険的な商品を開発しない影響もあります。
たとえばファミリー向けのミニバンは、1990年代中盤に普及を開始した後、20年以上にわたり進化を続けてきました。大量に売れるカテゴリとあって競争も激しいです。
そのため、トヨタ「ヴォクシー/ノア/エスクァイア」、日産「セレナ」、ホンダ「ステップワゴン」は、ボディサイズやスタイル、基本的な機能、価格などが横並びでそろっています。独自の価値も追求していますが、おおむね同じ時期に似たミニバンが投入されます。
SUVはオフロードモデルを中心に昔から存在したカテゴリですが、欧州のプレミアムブランドまで含めて普及を開始したのは2000年以降です。
SUVが海外を含めて安定的に売れる有望な市場だと認識されたのが2005年頃で、そこから各メーカーとも商品開発を活発化させました。商品開発には4年から7年を要するため、2010年代に入り、SUVの新型車が世界中のメーカーから登場してきました。
マツダは2012年に発売した先代「CX-5」を始めとして、幅広いサイズのSUVをそろえています。
トヨタはレクサス「RX」の日本仕様だった「ハリアー」を2013年に別車種として独立させ、2016年には「C-HR」も加えています。
このように、いまは各メーカーがSUVを充実させる時代なので、同じ時期に似た車種が登場します。
ハスラーのライバル車となる新型タフトをダイハツが投入したのも当然の成り行きですが、登場タイミングは遅かったようです。
初代ハスラーの発売は2014年ですから、2018年には発売する必要がありました。それが新しいDNGAプラットフォームの開発スケジュールも影響して、結果的に2代目ハスラーに近い時期に新型タフトが登場しています。
■最近のクルマは個性がなくなった
各メーカーの組織や開発プロセスが似ていることも、商品が似る理由です。歩行者保護など全車に適用される各種の法規も、車両開発に大きな影響を与えています。
ひとつの下請メーカーが、複数の自動車メーカーに、共通の部品やユニットを供給している事情もあります。
タイで発表・発売されたトヨタ新型「カローラクロス」
過去を振り返ると、1990年頃までは、いろいろとユニークなクルマを選べました。クルマが熟成された現在では、あの時代のような際立つ個性は求められませんが、少なくとも内外装のデザインはもう少し多彩でも良いでしょう。
たとえば軽自動車では、N-BOX、タント、スズキ「スペーシア」、ルークスのエアロパーツ装着車が似てしまうのは、市場の好みに沿った結果でもあるから仕方ありませんが、別の選択肢も欲しいです。
ダイハツ「ムーヴキャンバス」には、エアロパーツを装着したグレードや外観をSUV風にアレンジした仕様や、ターボエンジン搭載車がないものの人気が高く、届け出台数は「ムーヴ」全体の半数かそれ以上を占めます。
軽自動車に限らず、求めやすい価格帯で、このような新しいコンセプトの車種を投入することが大切です。
また今後はSUVの新車投入がしばらく続きます。この動向は、「ヤリスクロス」と「カローラクロス」を発表したトヨタのSUVラインナップを見ると明らかでしょう。
トヨタのコンパクトSUVは、スポーティなシティ派がヤリスクロス、野性味を伴うアウトドア派は「ライズ」です。それらより少し大きいSUVでは、シティ派がC-HR、アウトドア派はカローラクロスになります。そして、ミドルサイズはハリアーと「RAV4」という具合です。
このようにSUVは、同じサイズにシティ派とアウトドア派など複数のキャラクターをそろえられます。日産はいまのところ、コンパクトサイズはキックス、ミドルサイズは「エクストレイル」のみです。
以前はミドルサイズのシティ派が「デュアリス」、アウトドア派はエクストレイル、ラージサイズも居住性の快適な「ムラーノ」とスポーティな「スカイラインクロスオーバー」をそろえましたが、日産はSUVの人気が高まる前に大半の車種を廃止しました。
今後は再び充実させる必要が生じています。そのひとつが近々概要を披露する電気自動車SUVの「アリア」です。
ホンダは以前からコンパクトな「ヴェゼル」が人気で、フィットと「フリード」にも、SUV風のグレードとして「クロスター」を用意しました。そのほかは売れ筋価格帯が300万円を超える「CR-V」のみです。
今後はヴェゼルとCR-Vの中間に位置する250万円から300万円のSUVが少なくとも1車種は投入されるでしょう。
これらの新型車を、既存の商品の後追いではなく、個性的に仕上げることがユーザーのメリットに結び付くといえます。
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