駅前になぜ無料駐車場が存在? クルマと鉄道を活用する「パーク&ライド」とは
くるまのニュース / 2020年7月19日 14時10分
首都圏郊外の駅では、駅を運営する鉄道会社によって無料駐車場が設けられています。とても便利な駐車場ですが、どのような理由で、どのような人が利用しているのでしょうか。
■利用者数が減少する都市圏郊外の鉄道、その取り組みとして
首都圏郊外の駅では、鉄道会社によって駅前に無料駐車場が整備されているケースがあります。
例えば、茨城県取手市から筑西市まで約50kmにわたって運転している関東鉄道常総線では、石下駅に101台、下妻駅に106台、そのほかの6駅にもそれぞれ10台以上の無料駐車場を備えています。
また、群馬県内に鉄道網を持つ上毛電気鉄道においても、江木駅に40台、新里駅に46台、大胡駅に32台など、複数の駅に無料駐車場が設けられています。
鉄道会社がこうした取り組みをおこなっている理由には、郊外を走る鉄道会社の思惑と郊外に住む人々のニーズが合致したという背景があります。
郊外を走る鉄道の多くは、高度経済成長ともに整備されてきましたが、その後日本の人口減少が進むにつれて、近年では利用者数は年々下落傾向にあります。
そのため、少しでも鉄道需要を喚起する必要があり、自社保有または賃貸する駅前の土地を整備し、駐車場として開放するというアイデアが登場しました。
駐車場であればそれほど整備費がかからないうえ、そもそも土地が安いことからる鉄道会社にとってはリスクの少ないというメリットがあります。
一方で、利用者側にも事情があります。経済的な事情や子どもの子育て環境の問題などから、郊外に居を構える人は少なくありません。
しかし、その多くが、東京をはじめとする首都圏へ通勤しています。郊外に住む人は、日常の移動のほとんどがクルマになっている場合が多い反面、首都圏の企業ではマイカー通勤を認めているところはそれほど多くないため、クルマで駅まで行き、そこから電車で通勤するというケースが多いという実態があるのです。
こうした両者のニーズが合致した結果、郊外では鉄道利用者のために駅前に無料駐車場を設置するという取り組みが実施されています。
この取り組みは利用者にとってもメリットが大きく、例えばクルマに比べて定刻に到着する可能性が高いことや、移動距離が長くなるほどクルマよりも電車のほうが経済的ということから、利用者からの評判は上々のようです。
茨城県から東京の会社に務めている会社員は「のびのびと子育てをするために田舎に引っ越したいと考えていましたが、駅まで片道数km、しかも会社がクルマ通勤を禁止していたため、当初は駅の近くに月極駐車場を借りていました。現在はそれがなくなり非常に便利になりました」と話します。
※ ※ ※
郊外は都市部に比べてのびのびと子育てができることから、子育て世代の進出が進んでいます。実際に、総務省の発表する「住民基本台帳 人口移動報告」では、神奈川県や埼玉県などで0歳から14歳の年少者が増加しているとされています。
都市での仕事と郊外での生活を実現する無料駐車場ですが、鉄道会社によればコロナウイルスによる緊急事態宣言によって、予期せぬ影響を受けているようです。ある鉄道会社の社員は次のように話します。
「コロナウイルスの影響が出る以前は相当な数の無料駐車場利用者の人がいましたが、緊急事態宣言の発令や、緊急事態宣言後も県をまたぐ移動の自粛要請があった影響で、利用者数は激減したと各駅から報告されています」
※ ※ ※
緊急事態宣言中における公共交通機関の利用率は、首都圏主要駅では7割から8割も減少したとされています。県をまたぐ移動の自粛要請が出たことで、常総線のように無料駐車場を整備することで東京都への移動需要を創出してきた鉄道にとっては大きなダメージとなりました。
しかし、バスや電車などの公共交通機関の密度が低い郊外において、自家用車と電車で都市部へアクセスできる無料駐車場の存在は欠かせないものといえます。そのため、今後もこの仕組みは多くの人に必要とされるでしょう。
■海外では一般的な「パーク&ライド」
日本では鉄道利用を促すために整備されている無料駐車場ですが、こうしたクルマから公共交通機関に乗り換える交通スタイルは海外にもあり、「パーク&ライド」と呼ばれて一般にも浸透しています。
パーク&ライドは、その名の通りクルマを駐車(パーク)し、、公共交通機関に乗る(ライド)もので、クルマによる移動を最低限にできることから、排気ガスの排出量を低減させ大気汚染対策につながるとされてます。
関東鉄道常総線の駅に併設されている利用者向けの無料駐車場(利用にはいくつかの条件がある)
また、都市部へのクルマの流入を減らして渋滞を緩和させたり、英国やスウェーデンなどヨーロッパの国々では渋滞緩和や環境対策のひとつとされています。
実際に、英国では「コンジェスチョン・チャージ」と呼ばれる「渋滞税(または混雑税)」が課せられており、クルマの渋滞による社会問題解消のために、ロンドン市内などのある区間を走行する場合は事前に渋滞税を支払わなければならない仕組みが存在。
アメリカのニューヨーク州でもマンハッタン中心部の慢性的な渋滞解消に向けて同様の制度を導入が決定されています。
※ ※ ※
日本では鉄道利用を促すために無料駐車場を整備していますが、海外では深刻な交通渋滞対策の一環としてパーク&ライドが注目されているようです。
コロナの影響でリモートワークが推進されると、自然が多く経済的にもメリットのある郊外に住む人が増える可能性があります。アフターコロナの今後、郊外における移動スタイルがどのように変化していくのか注目です。
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