なぜトヨタが自ら免許返納を高齢ドライバーに提案? 高齢者事故のイメージでよくある「勘違い」とは
くるまのニュース / 2020年8月12日 9時10分
トヨタモビリティ基金は、高齢者に適した安全運転と円満な免許返納に関する情報をユーザーに提供する「高齢ドライバードットコム」を2020年8月5日に開設しました。自動車メーカー自らが免許返納を促すという異例の事態ですが、なぜトヨタはこのようなウェブサイトを開設したのでしょうか。
■なぜここまで踏み込む? トヨタが高齢者事故について情報提供する理由とは
「高齢者に適した安全運転と円満な免許返納のために」
これは、トヨタモビリティ基金が2020年8月5日に立ち上げた「高齢ドライバードットコム」というウェブサイトのトップページにある一文です。これは、国内自動車最大手のトヨタが、状況によっては免許の自主返納も真剣に考えてください、とユーザーに提案しているということになります。いったいなぜ、トヨタはこのような提案をしているのでしょうか。
これを見て筆者(桃田健史)は、時代は大きく変わったのだと痛感しました。
このサイトを作成したトヨタモビリティ基金は、「世界のどの地域に住む人もより豊かな暮らしができる真のモビリティ社会の実現を目指す」(豊田章男社長)という目的で2014年に設立されました。
それにしても、なぜいま、トヨタが免許返納まで踏み込んだ情報発信を自らおこなうことになったのでしょうか。
まずは、高齢ドライバードットコムの中身について見ていきましょう。
基本的には、行政、学識者、保険会社、自動車メーカー等が発表したり提唱している高齢ドライバーに関するさまざまな情報を網羅しています。
コンテンツは「高齢ドライバー本人向け情報」と「家族向け情報」の大きくふたつに分かれています。
高齢ドライバー本人向けの情報では、高齢になると運転能力が具体的にどう変化するのか、そうした状況になった人が実際にどのような事故を起こしているのか、詳しい事例を紹介しています。
例えば、交差点の手前で一旦停止しているつもりが停止していない、ギアをパーキングに入れたつもりが入っておらずクルマが動き出す、といった「思い込み運転」があります。
より詳しい情報を知りたい人は、行政機関や道路事業者のサイトを参照してください。
また、自分の運転能力のチェック方法や、日本自動車工業会の「交通脳トレ3か月」などの運転能力の維持・向上のためのトレーニングも紹介。
クルマの技術面では、サポカーの全般的な紹介や、ドライブレコーダーの活用方法を詳しく紹介しています。
さらに、状況に応じて「マイカーの運転をあきらめることも考えなければなりません」として、運転免許の自主返納について触れています。
以上は、ドライバー本人向けの情報ですが、家族向けの情報も概ね同じ内容で、加えて「高齢ドライバーとの接し方」について専門家の意見を掲載しています。
※ ※ ※
高齢ドライバードットコムを開設の背景には当然、近年とても目立つようになった、高齢ドライバーに関する事故を少しでも減らしたいという、トヨタの思いがあります。
そうしたなか、多くの人がドライバーの高齢化について勘違いしているように感じます。
市街地を暴走して多数の死傷者が出たり、コンビニやスーパーにクルマごと飛び込むような事故がテレビやネットのニュースで報道されるたびに、「今後は高齢化社会になるので、こうした事故は増える」というコメントや解説を見たり聞いたりすることがよくあります。
正確には、こうした表現は正しくありません。
厚生労働省の予測データでは、65歳以上の高齢者の数は、2020年から2060年まで見ると3600万人から3800万人程度で伸びが止まります。
対して、15歳から64歳の年齢層が大きく減少することで人口全体も減少し、結果的に人口全体に占める65歳以上の割合である高齢化率が上がります。高齢者の実数が今後、右肩上がりになるのではありません。
一方、免許保有者の高齢化がますます進みます。
免許保有者数は8000万人強ですが、1960年代後半から70年代以降にマイカー所有が増えました。それから40年から50年後の2010年代から、免許保有者が一気に高齢化しているのです。
警察庁によると、2007年と2018年を比べて、75歳以上と80歳以上の運転免許所有者数は約2倍と一気に伸びています。また、女性は男性より免許取得が一般化した時期が遅いため、今後は高齢女性ドライバーの数も増加していきます。
こうした社会情勢を踏まえて、トヨタとしては運転免許所有者に対するメーカーとしての責任として、高齢ドライバー問題に真剣に取り組むべき時期だとの認識があるのです。
■トヨタが考える免許返納後の交通手段とは
トヨタとしては、高齢ドライバーとその家族向けに情報を発信しながら、高齢ドライバーに少しでも長い期間、安全に運転を続けられるように、技術的には予防安全技術の普及を進めています。
トヨタセーフティセンスの新車標準装備化と機能の高度化、また既販車向けに踏み間違い加速抑制装置の後付けキットを販売しています。
オンデマンド交通「近助(きんじょ)タクシー」
さらに、免許返納後の交通についても、さまざまなトライをしています。
例えば、福井県永平寺町でおこなっている、オンデマンド交通「近助(きんじょ)タクシー」。
トヨタが開発・製造している「ウェルジョイン」と、それを使った運用システムをトヨタが提供して、福井県内のトヨタ販売各社と永平寺町が連携する取組みです。ドアtoドアの送迎サービスで、運転するのは地元住民です。
福井のトヨタ販売店幹部は「社会が大きく変わっていくなか、我々としてお客さまや地域とこれからどう向き合っていくべきなのか。この取り組みを続けながら、しっかり考えていきたい」と話します。
自動車メーカーと社会との関係が変わっていく。
高齢ドライバードットコムは、時代変化の象徴に思えます。
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