古くて新しい「F40」は、エンツォが遺した最後のフェラーリ【THE CAR】
くるまのニュース / 2020年8月11日 19時10分
エンツォによってフェラーリ創立40周年を記念して制作された「288GTO」をベースにしたロードゴーイングモデルカー「F40」。登場から30年以上経過したいまなお、色褪せないF40の魅力とは、一体何なのだろうか。
■創業者エンツォが開発を指示した最期のフェラーリ
たとえば、1960年代半ばに生まれたランボルギーニ「ミウラ」は、1950−1960年代の美しきイタリアーナ・ベルリネッタ・スポルト時代に別れを告げるモデルであった。と同時に、華のスーパーカー時代の始まりを告げる節目のクルマでもあったのだ。
それからおよそ20年後の1980年代半ば。フェラーリはグループBカテゴリーのレース&ラリー参戦を目標において、「GTO(288)」を限定生産する。これをベースに、フェラーリ社創立40周年を記念して発売されたのがフェラーリ「F40」であった。
「288GTO」が、スーパーカー時代の跳ね馬のエピローグであったとすれば、F40こそは、1970−1980年代の華麗なる、けれどもビジネス的には低迷したスーパーカー時代に別れを告げた、21世紀の現代に繋がる、スーパースポーツカー時代のプロローグだったと思う。
「308GTB&S」シリーズの骨格をベースに特別仕立てされた288GTOは、結局、モータースポーツシーンに登場することはなく、わずかに272台を生産するに留まった“悲劇のコレクターズアイテム”であった。それでもフェラーリ社は、その黎明期によくあったように、否むしろ、その頃を懐かしむように、レース×公道のミクスチュアを諦めることはなかった。
エンツォ・フェラーリが最後にゴーサインを出した市販車という事実にも、F40誕生に向けた原動力の在処がうかがえるだろう。
そして、そのこと自体が、F40をフェラーリのなかの、さらなる特別な存在へと昇華せしめた。F40を語るとき、もはやフェラーリと断らずともいい。
F40には、もちろん、スーパーカー時代の名残もしっかりと残っている。
モノコック+サブフレームのミドシップレイアウトそのものは、1970年代スーパーカーの常套句であるし、真横から見たスタイリングは、スーパーカー時代のフェラーリそのものだ。
サイドインテークの造形などに、ディーノに始まったレオナルド・フィオラバンティ(ピニンファリーナ)の香りが残っている。ロングノーズ/スモールキャビン/ハイデッキのスタイリングは、それまでのイタリアーナ・ベルリネッタの真骨頂でもあったのだ。
加えて、そんなフィオラバンティ・シルエットに、決して新しくない手法でエアロデバイスが追加されたあたりが、F40の魅力かも知れない。それはあたかもスーパーカー世代に並行して興隆したシルエットフォーミュラ(グループ5)のようであり、それゆえところどころにアンバランスなライン構成があって、逆につかみどころのない機能美をこのクルマに与えるに至った。
そんな、いってみれば、古いスタイリング&パッケージングであったにも関わらず、F40から、後々のスーパースポーツカー時代へと連なる未来をそこはかとなく感じることができるのは、このクルマにカーボンファイバーやケブラー、アルミニウムといった、“当世流行り”の軽量素材がふんだんに使用されているからだといっていい。
外身は古くて中身は新しい。性能はエキセントリックながらターボ全盛時代のレーシングカーそのもので超一級。そんなアンバランスさこそが時代の節目に生まれた証であり、今なお多くのファンを魅了してやまない理由だろう。
F40の登場を境にして、古式ゆかしきスーパーカーは、徐々にその姿を消していく……。
■「F40」は、本当に雨の日は危険なのか?
代わりに、サーキットと高速道路を平然と、しかも最高性能レベルで行き来できるようなスーパースポーツカーが続々と現れだしたのだ。マクラーレン「F1」などは、さしずめ、その頂点というべきモデルである。
「F40」は、最終的には1311台が生産され、日本へは60台前後が輸入された
F40は、現代スーパースポーツカーの起点だ。だからこそ、オーナーをして、“次に欲しいクルマもF40”と言わしめるに十分な魅力が詰っている。
今でも思い出すのが、1995年4月におこなわれた「F50」のデビューを兼ねた第1回フォルツァ・フェラーリ(フェラーリ社公認の国内最大級規模でおこなわれたフェラーリのイベント)in鈴鹿サーキットにおける、1シーンだ。
大雨のさなかに開催されたデモンストレーションで、全日本級のドライバーが各種フェラーリを、はためにも怖々とゆっくり走らせているなかを、水しぶきをあげて狂気の走りをみせる、ノーマルF40の姿があった……。
日本のGT選手権に出場しているレースマシンのF40でも追いつけない。それを駆っていたのは、アンドレアス・ニコラウス“ニキ・ラウダ”だった。
雨のF40。人はそれを禁忌のようにいうけれども、超プロフェッショナルにとっては、さほど困難なモデルではないようだ。逆に、基本ポテンシャルのすさまじいまでの高さを物語る。
キーを捻り、脇のスターターボタンを押すと、ランチア「LC2」由来の3リッターV8ツインターボエンジンが、一瞬、猛々しい叫びをあげ、目覚めた。
走り出す前に、これほど深呼吸をしたくなるクルマも珍しい。何度も何度も呼吸を整えずにはいられない。
そう、それが、F40の魔力。
それが、人を惹き付けるのだ。
路面が荒れていた。
プロの腕前を自認する、とでもいうならともかく、決してそうではないと知る筆者は、ターボを利かさないよう細心の注意を払ってアクセルペダルをコントロールし、低回転でゆっくりと走り出した。ターボさえ利かせなければ、ただの3リッターV8エンジンだ。
車体が軽く、クラッチリリースですっと発進させているかぎり、危険があるはずもない。低回転域のスカスカなライドフィールにイライラしながら街をクルーズする。身体がクルマに慣れ、タイヤが路面に慣れ、エンジンが空気に慣れて、すべてが暖まるのを待つのだ。
心と身体とマシンの暖機運転。これは、1970年代スーパーカーの所作にも近い。そう、F40のもつ、ターボの危険以外は……。
準備が整った。
F40のノーズが、まるで路面に食い込むかのように、高速道路への進入路を駆けあがる。車体が真っ直ぐになっていること、そして、路面に妙なアンジュレーションがないことを、何度も何度も確認してから、右足を、アクセルペダルをじわりと踏み込んだ。
高速道路で解放されたF40のターボパワーのフィールは、絶対的な加速感で最新のスーパースポーツに決して劣らず、むしろ恐ろしさでは完全に上回っていた。車体がふわりと浮くような、ボディパネルが紙細工でできているかのような、そんな圧倒的な軽さは、スリルというよりもむしろ、下界とは紙一重という恐怖を生み出すのだろう。
前方からの、目に見えぬ何かからいきなり、ぐいっと引っ張られたかのような劇的な加速は、未来、即ち21世紀の今を、確かに向いていたのだった。
古くて新しい。だから凄いのだ。
* * *
●FERRARI F40
フェラーリF40
・全長×全幅×全高:4430×1980×1130mm
・エンジン:V型8気筒DOHCツインターボ
・総排気量:2936cc
・最高出力:478ps/7000rpm
・最大トルク:58.8kgm/4000rpm
・トランスミッション:5速MT
●取材協力
DREAM AUTO
ドリームオート/インター店
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