誰もが道を譲った!? バブル時代に憧れた極悪メルセデスとは
くるまのニュース / 2020年8月29日 19時10分
いまでは考えられないが、バブル期の東名高速道路では、日中でも常にハイビーム&キープライトで爆走するメルセデスによく遭遇したものである。そうしたメルセデスのなかでも「別格」扱いだった2台のAMGとは、どのようなクルマだったのだろうか。最新オークションでの落札価格とともに解説しよう。
■「ちょいワル」どころじゃない「極悪」仕様のAMGとは
毎年8月、北米カリフォルニア州モントレー半島で開催される「モントレー・カーウィーク」においては、複数のクラシックカー/コレクターズカーのオークションが半島各地で開催される。なかでも規模・格式ともに最高ランクとなるオークションは、RMサザビーズ社の「MONTELEY AUCTION」とされてきた。
ところが2020年は、新型コロナウイルス感染拡大の影響で「カーウィーク」ともどもキャンセル。RMサザビーズ社は、代わりに「SHIFT MONTLEY」と銘打った、オンライン限定オークションを開催することになった。
しかし、たとえオンライン限定とはいえ、RMサザビーズ社にとってもフラッグシップ的なイベントとなるモントレーの代替えということで、「SHIFT MONTLEY」は出品車両の台数・内容ともにトップクラス。車種や年代のバラエティも、とても豊富であった。
今回はそのなかから、1980-1990年代に現在の隆盛を確立した、メルセデス・ベンツとAMGの伝説的なコラボモデル、「ワルな」雰囲気を横溢させる2台をセレクトし、VAGUE読者諸賢にオークション「レビュー」を届けよう。
●1989 メルセデス・ベンツ 560 SEC AMG 5.6 ワイドボディ
グリルやスリーポインテッドスターがブラック化され、異様な出で立ちだった1989年式メルセデス・ベンツ 560 SEC AMG 5.6 ワイドボディ(C)2020 Courtesy of RM Sotheby's
まず紹介したいのは、1970年代中盤から現在のシュトゥットガルト近郊アファルターバッハに本拠を移し、地理的にもダイムラー・ベンツ社との関係を急速に深めていたAMGが手掛けた、1980年代アイコン的モデルだ。
バブル期の日本では、なぜかAMGのことを「アーマーゲー」と呼んでいたが、この時代に並みいるスーパーカーたちと同じくらいに憧れの対象となったのが、メルセデス・ベンツ「560SEC AMGワイドボディ・バージョン」である。
まだダイムラー社傘下に収まる以前の1980年代初頭、AMG社はメルセデス製V8 SOHCユニット「M117」に合わせるDOHCヘッドを開発。ボアアップにより排気量を6リッターまで拡大した「6.0」では、385psという大パワーをマークすることに成功した。
ただ筆者は寡聞にして、この32Vヘッドが「6.0」専用と思いこんでいたのだが、実は当時のメルセデス・ベンツのスタンダードである5リッター/5.6リッターV8ユニットに組み合わされた車両も、顧客からのオーダーがあれば製作されていたとのこと。今回のオークション出品車両は、後者にあたる「5.6」とされている。
また「ワイドボディ」を成す、FRP製ながら極めて作りの良いブリスターフェンダーは、この時代「560SEC」ベースのAMGがすべて装着していたわけではなく、あくまでオプションだったとのこと。これは現代のクラシックカー・マーケットでも、相場価格を大きく左右する要素となっているようだ。
RMサザビーズが公開しているWEBカタログによると、今回の「SHIFT MONTLEY」に出品された560SEC5.6ワイドバージョンは、長らく日本に生息していた個体とされている。
2016年に、イギリスで1990年代のハイパフォーマンスカーを数多く取り扱うスペシャリストのもとで大規模なリフレッシュが施されたのち、2019年にアメリカに渡ったとのことである。
メルセデス560SECAMGは、日本国内はもちろん、海外でもクラシックカー・マーケットにFor Saleとして出される事例は決して多くなく、もし出たとしても「Price on Ask(価格応談)」となる場合がほとんど。
しかしここ数年の国際マーケットを振り返ってみると、日本円換算にして2000万円から、場合によっては3000万円近い価格で推移していたようだ。
RMサザビーズ社が現オーナーとの協議の上で決定したエスティメート(推定落札価格)は、このモデルを代表する人気色「ブルーブラック」であることも加味してであろうか、20万ドル−25万ドル(邦貨換算約2100万円−2670万円というなかなか強気なものだったが、実際のオンライン競売が始まると、23万ドルまで上昇したところで締め切りとなった。
さらに、オークショネアに支払われる手数料も含めれば、エスティメート上限を超える25万3000ドル(邦貨換算約2700万円)に達し、たとえ世界が新型コロナ禍のさなかにあっても、依然としてこのモデルがカリスマ的な人気を誇っていることを再確認させられたのだ。
■ポルシェが手掛けた「500E/E500」をAMGがさらにチューン!!
RMサザビーズ「SHIFT MONTLEY」オークションに出品されたもう1台のAMGは、1990年代を代表する「E60AMG」である。
1990年代に入った時期、慢性的な経営危機にあえいでいたポルシェを救済するために、開発と初期モデルの生産をポルシェに委託したことでも知られる、メルセデス・ベンツの伝説的名作「500E/E500」をベースに、ダイムラー・ベンツ社の傘下に収まった直後のAMGが仕立てた、これまた伝説のチューンド・リムジーネ(セダン)である。
●1994 メルセデス・ベンツ E60 AMG
もともと人気の高いW124型の「E500」がベースとなる1994年式メルセデス・ベンツ E60 AMG(C)2020 Courtesy of RM Sotheby's
E60AMGでは、V型8気筒32バルブエンジンの排気量を、スタンダードの500Eの5リッターから6リッターに拡大。最高出力は326psから381psにアップ。最大トルクも、480Nmから580Nmまで増強されている。
しかし、これだけのスーパーセダンとはいえ、クラシックカー・マーケットにおいては、4ドア車の価格相場は2ドア車に比べると低めに推移するのがセオリーである。ところが、E60AMGほどのカリスマ的モデルとなると話は別のようだ。
これまで日本国内であっても海外であっても、比較的リーズナブルな個体でも1000万円超えは当たり前。最終期の「E60AMGリミテッド」など、特に希少なモデルでは2000万円前後で取引されてきた事例もあるようだ。
ところで、目ざといVAGUE読者諸賢はお気づきかもしれないが、このクルマの写真をよくよく見ると、背景として東京某所の情景が写り込んでいる。実は、こちらも日本に生息していた個体。つい先ごろ、2020年4月に日本から流出したばかりの1台なのだ。
1994年型というこのE60AMG、生産翌年におそらくは新車並行車として日本に輸入され、以来四半世紀にわたって東京都某区で使用されていたと推測される。
また、W124系メルセデスでは有名な、東京の某スペシャルショップの発行による複数の記録簿も添付されており、日本を出る直前まで入念なメンテナンスを受けていたことも良くわかる。
エスティメートは近年の人気を受けて、また洋の東西を問わず人気カラーである「サファイアブラック」であることも加味してだろうか、12万5000ドル−15万5000ドル(邦貨換算約1300万円−1650万円)という、なかなか強気な値付けがなされていた。
しかし、オンライン上での入札はいまいち振わず。8万5000ドル(邦貨換算約910万円)という、オーナーからすれば不本意な価格で終了となってしまった。
それでも今回の出品に際して、オーナーとRMサザビーズ社ではリザーヴ(最低落札価格)を設けていなかったのか、手数料込み9万3500ドル(約1000万円)で落札されることになったのだ。
●VAGUEからひとこと
今回オークションレビューした2台のAMGは、奇しくも日本で長らく乗られていた個体だった。時代はちょうどバブル期で、AMGだけでなくケーニッヒ仕様のメルセデス・ベンツも数多く輸入されていた時代である。
1980年代から1990年代初頭に日本に持ち込まれた欧州の名車たちは、次々と日本から流出しているのが現状である。
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