ディーゼル車が明暗分けた!? 輸入車1位がVWからメルセデス・ベンツへ入れ替わった訳
くるまのニュース / 2020年9月6日 7時30分
かつて輸入車ブランドの販売台数トップはフォルクスワーゲンでしたが、2015年以降は2位以下になり、メルセデス・ベンツがトップになりました。VWとメルセデス・ベンツの順位が入れ替わった背景には、どのようなことがあるのでしょうか。
■2015年の不正発覚からVWは輸入車ランキング2位以下へ
フォルクスワーゲン(VW)は、かつて輸入車の販売ナンバーワンブランドでしたが、2020年1月から7月の累計登録台数では、メルセデス・ベンツに次いで2位になっています(日本自動車輸入組合のデータ)。
輸入車の登録台数を振り返ると、2000年から2014年まではVWが一貫して1位でした。
ところが2015年に、VWのディーゼルエンジン車に関する排出ガス検査の不正問題が北米で発覚。
当時日本国内でVWのディーゼルエンジン車は正規導入されていませんでしたが、不正が発覚した直後の2015年10月には、VWの国内登録台数が前年同月比で52%まで下がっています。
もともとVWのクルマづくりは、高い技術力と上質感を備えながらデザインなどは控え目です。ひけらかさない、信頼性の高い品行方正な商品開発が、日本でも多くのユーザーから共感を得ていました。
守るべきルールを破る不正が生じたので、日本のVWブランドも失墜したのです。VWの日本におけるブランド構築が成功していたからこそ、ユーザーの落胆が大きく登録台数も半減したといえるでしょう。
この後もVWの国内登録台数は、2015年11月が対前年比で32%のマイナス、12月も39%減り、2015年暦年では19%の減少で5万4766台になりました。
一方、メルセデス・ベンツは2015年に7%増えて6万5162台を登録。そのため、1位と2位が入れ替わったわけです。
2015年以降、輸入車登録台数の1位は、メルセデス・ベンツが守り続けています。
2位については、2016年、2017年、2019年にはBMWが入り、この3年間のVWは3位でした。
直近となる2020年1月から7月の累計台数は、1位がメルセデス・ベンツ(2万9595台)、2位がVW(2万525台)、3位がBMW(1万8318台)です。
なお、4位はアウディ(1万761)、5位はBMWミニ(1万143)ですが、上位5ブランドはすべてドイツ車で、登録台数を合計すると、正規輸入車全体の68%を占めています。
VWは、不正が発覚した2015年から2位以下という順位なので、いまだに不正問題の悪いイメージから抜けられない、ともいえるでしょう。
しかしVWが一貫して2位以下の理由は、それだけではありません。2010年以降、メルセデス・ベンツの国内登録台数が急増した影響も大きいといえます。
メルセデス・ベンツの国内登録台数は、2010年は3万936台でしたが、2015年には前述の6万5162台ですから、5年間で2倍以上に増えました。
VWの場合は2010年が4万6707台、国内販売がピークに達した2014年は6万7438台ですから、4年間で1.4倍には増えましたが、メルセデス・ベンツの倍増には及びません。
つまりメルセデス・ベンツの登録台数が急増している最中に、VWは不正問題で売れ行きを下げたため、明暗が大きく分かれて輸入車販売ランキングの1位と2位も入れ替わったわけです。
そして2010年から2015年に掛けて、メルセデス・ベンツの国内登録台数が2倍に増えた一番の理由は、売れ筋の新型車を積極的に投入したからです。
この時期のメルセデス・ベンツ販売に大きく貢献したのは、2013年に発売された先代型の3代目「Aクラス」です。それまでのAクラスに比べてルーフが低く、スポーティな5ドアハッチバックになりました。
2013年にはAクラスがVW「ゴルフ」やBMW「3シリーズ」に次ぐ売れ行きとなりました。
2014年には現行「Cクラス」も発売され、2015年はゴルフに次ぐ売れ行きとなりました。さらに2014年にはコンパクトなセダン&ワゴンの「CLA」も登場するなど、2015年には登録台数を伸ばしています。
昨今流行りのSUVでは、「GLA」なども販売促進に貢献しています。このように2010年代には、メルセデス・ベンツの新型車が日本でも活発に発売されました。
BMWも国内で販売する車種を増加。2010年にはコンパクトSUVの「X1」が導入され2015年にはフルモデルチェンジ。2011年と2019年の「1シリーズ」フルモデルチェンジしています。
さらに、「2シリーズアクティブツアラー」(2014年)や「X2」(2018年)、などFFベースのコンパクトモデルも導入され、売れ行きを着実に伸ばしています。
■ディーゼル車の有無でVWとメルセデス・ベンツに差が生じた
メルセデス・ベンツやBMMに比べると、VWは不正問題の前から新型車の投入が乏しかったです。
当時のVWのSUVは「ティグアン」とLサイズの「トゥアレグ」くらいで、ほかのドイツブランドに比べると、SUVの流行に乗り遅れている印象がありました。
VW「ゴルフ」(ディーゼルモデル)
そしてメルセデス・ベンツとBMWは、クリーンディーゼルを割安な戦略価格で投入しています。同排気量のガソリンターボと比べて、20万円程度の上乗せに抑えた車種も多かったです。
しかもクリーンディーゼルは、日本ではクリーンエネルギー自動車とされるので、購入時に納める自動車取得税(現在は環境性能割)や自動車重量税は非課税となります。
クリーンディーゼルターボの価格が約20万円高くても税金の差額で取り戻すことができ、実質的な出費はガソリンターボと同等になります。
とくに高価格な輸入車は自動車取得税も高額になるので、非課税のメリットは大きいといえます。
クリーンディーゼルターボは実用回転域の駆動力が高く、燃料となる軽油は安いです。購入時の出費がガソリンターボと同等なら、明らかにクリーンディーゼルターボが買い得で、車種によっては販売総数の7割から8割前後をクリーンディーゼルターボが占めました。
ところがVWは、北米で不正問題を生じたため、日本でクリーンディーゼルを発売するタイミングを逃してしまったのです。
当時、VWの販売店スタッフからは、次のような話が聞かれました。
「ディーゼルの不正問題が発覚し、商談が途中で立ち消えになったり、お客さまからVWのロゴさえ見たくないといわれたこともありました。
お客さまの信頼失墜は、販売現場の頑張りである程度カバーできますが、いまの時代にディーゼルがないのは辛いです。
輸入SUVでは、ディーゼルであることを条件に車種を決めるお客さまも多く、ガソリンだけでは購入の候補にもあがりません」
結局、不正問題でVWがクリーンディーゼルを導入するタイミングが遅れ、「パサート」に搭載して日本国内で発売したのは2018年2月でした。
VWはメルセデス・ベンツに比べると、SUVを含めた車種の充実と、クリーンディーゼルの搭載で差を付けられたのです。
※ ※ ※
メルセデス・ベンツの世界販売台数は、2010年は127万台、2015年は187万台、2019年は246万台と増えており、車種数も増加して日本国内の売れ行きも伸びています。
ただし販売規模が拡大するに従って、メルセデス・ベンツのブランドイメージも変わってきました。
コンパクトなAクラスや「Bクラス」、SUVは「GLA」「GLB」「GLC」「GLCクーペ」と増えて、車種構成も分かりにくくなりました。
いまはまだ、「Sクラス」「Eクラス」「Cクラス」を柱にしていた時代の高級な印象が残っていますが、今後はメルセデス・ベンツの位置付けが変わる可能性もあります。
売れ行きを急増させながら、プレミアムブランドの位置付けをいかに守るのか、「選択と集中」がキーワードになる時代に、メルセデス・ベンツは興味深い展開を見せています。
一方、VWもこのまま国内販売の2位、3位に甘んじているわけにはいかないでしょう。次期ゴルフでは1位奪回をねらって、新しい展開を見せるかも知れません。
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