なぜヒストリックカーのボンネットは逆開きが多い? 理由を解明
くるまのニュース / 2020年9月4日 8時10分
フロントにエンジンを搭載したクルマでは、エンジンフード(ボンネット)の開き方が数種類ある。しかも、時代によって主流となる開閉方法があるようだ。どうして現在はかつて主流だった「逆アリゲーター式」が採用されないのだろうか。
■ボンネットの開き方で整備性は変わる?
オイル量の点検や、ウィンドウウォッシャー液の補充など、メンテナンスをするときにはかならず開けることになるのがボンネットだ。
フロントにエンジンを搭載している現代のクルマにおけるボンネットの開き方は、ヒンジがAピラー側にあり、フロントバンパー側を持ち上げて開ける方式が一般的となっている。
ボンネットを開けたクルマの姿を真横から見ると、ちょうどワニが口を開けたように見える、ということからこの方式は「アリゲーター式」と呼ばれている。
ところがかつては、後ろ側を持ち上げることでボンネットを開けるクルマが主流だったことをご存知だろうか。
たとえば国産車であれば、KPGC10/PGC10型「スカイラインGT-R」、いわゆる箱スカや、S30型「フェアレディZ」をイメージすると分かりやすいだろう。
ダッシュボード下にあるボンネットロック解除ノブを引くと、ボンネットの後ろ側が持ち上がり、ノーズのヒンジを支点にしてボンネットを開けることができた。
欧州車でいえば、ノイエクラッセ時代から1980年代ぐらいまでのBMWや、アルファロメオ「スパイダー・ヴェローチェ」なども、同じようにボンネットを開けることができる。こういう開けかたのことは「逆アリゲーター式」、もしくは「チルト式」と呼ばれている。
しかしこの逆アリゲーター式ボンネットは、いまでは一部車種を除いて絶滅危惧種といえるほど、ほぼ見なくなってしまった。それはなぜなのだろうか。それを知るために、まずはアリゲーター式と逆アリゲーター式の、メリットとデメリットをそれぞれ説明しよう。
●逆アリゲーター式ボンネットのメリット・デメリット
逆アリゲーター式ボンネットは、ノーズ側にヒンジがあるため、走行中に何らかのトラブルが起き、ボンネットキャッチが機能しなくなった場合でも、ボンネットが風圧によって開いてしまうということはない。
クルマは走行中、空気を押し分けて走っているのだが、Aピラーの付け根付近ではその力が強く掛かっているために、ボンネット後端にあるキャッチが外れてしまっても、大きく開いてしまうことはないのだ。そのため過去のスポーツカーやレーシングカーは、こぞって逆アリゲーター式ボンネットを採用していた。
ところが、逆アリゲーター式ボンネットには致命的な弱点がある。整備性がすこぶる悪いという点だ。
逆アリゲーター式ボンネットはフロントノーズを支点にしてボンネットが開くため、ヒンジ部分の設計を工夫すれば、ボンネットを大きく立ち上げることができる。そのため作業スペースを大きく取ることは可能なのだが、しかしボンネットそのものが前方を塞いでしまうために、メカニックはボディの側面からしか、エンジンルームにアクセスできない。
これは、公道を走行するスポーツカーならまだしも、1秒でも速く整備作業を終わらせたいレーシングカーにとっては、大きなハンデキャップとなってしまう。
また、逆アリゲーター式ボンネットはヒンジが前にあるため、正面衝突をした場合に後方のキャッチが外れてしまい、ボンネットがそのままフロントガラスを突き破って車室内に飛び込んでくるということが容易に想像できる。さらに頑丈なヒンジが前方にあるということは、対人安全性という面でも不利となる。
そこでアリゲーター式ボンネットへの移行が進むこととなった。
■どうしてアリゲーター式ボンネットが普及したのか?
アリゲーター式ボンネットのデメリットは、なにかのトラブルでフロント側にあるキャッチが外れた場合、風圧でボンネットが大きく開き、ドライバーの視界を遮ってしまう恐れがあるという点だ。
しかし、ダブルロックシステムの発明により、その危険性は大きく減少する。
●アリゲーター式の普及で整備性もアップ
アリゲーター式にボンネットが開くと、エンジンルームに3方向からアクセスすることが可能となり、作業効率が上がる
ここでぜひ、ご自分のクルマのボンネットを開けてみていただきたい。
ボンネットロック解除のノブを引っ張ると、ガチャっとロックが外れてボンネットが持ち上がるが、しかしその状態のままではボンネットを完全に開くことはできないはずだ。ボンネットを開けるためには、ボンネットとボディの隙間に手を入れて、ノブやレバーを操作して、ロックを外さなければならない。
BMWなど一部の車種では、足もとにあるボンネットロック解除レバーを、2回操作しなければロックを完全に外すことができない、というものもある。
これらの機構はつまり、キャッチのトラブルによって風圧でボンネットが開いてしまわないようにするための工夫である。このダブルロック機構が一般的になったことによって、ボンネットの開きかたはアリゲーター式がスタンダードになったのである。これにより、エンジンルーム内の作業性もアップした。
さらに、ボンネットは時代に合わせて進化を続けている。ボンネットも丈夫さが一番だということで、裏骨をしっかり配置して作っていたというのは昔の話。現代のボンネットは、前方からの衝撃を吸収するように折れ曲がりやすく、かつフロントガラスを突き破って車室に入ってこないよう、設計されている。
ベテランドライバーが「最近の車はボンネットが閉めづらい」というのは、昔のクルマのボンネットは、とにかく頑丈で重かったために、自重でロックが掛かるケースが多かったからだ。
現代のクルマは燃費向上のために軽量化が図られており、ボンネットも必要な強度を満たした上で非常に軽量に作られている。そのため、手を放しても自重でしっかりとロックが掛からないことが多くなった。しかしそのとき、間違った場所を強く押すと、ボンネットが凹んでしまうこともある。
ボンネットを開けたときには、ボンネットキャッチの位置を確認しておき、その部分のみを短く強く押し込んで、確実にロックをかけるように心掛けたい。
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