ホンダ新型「N-ONE」の先祖を襲った事件とは!? 名車「N360」を振り返る
くるまのニュース / 2020年9月12日 11時10分
2020年9月11日に、ホンダ新型「N-ONE」が先行公開されました。外観は今から50年ほど前に発売された、ホンダ初の軽乗用車「N360」をオマージュした、非常にユニークなデザインです。そこで、ホンダ初の軽乗用車となったN360を振り返ってみます。
■ホンダ初の軽乗用車がデビュー!
ホンダは2020年9月11日に、新型「N-ONE」をホームページで先行公開し、同時に2020年秋に発売と発表しました。
外観は2011年に発売された初代N-ONEからキープコンセプトとされていますが、このデザインは1967年に登場したホンダ初の軽乗用車「N360」をオマージュしています。
そこで、半世紀以上前にデビューしたN-ONEのご先祖といえるN360とは、どんなクルマだったのでしょうか。
1963年、ホンダは軽トラックの「T360」を発売し、4輪自動車メーカーとしての歴史が始まりました。このT360はホンダらしさあふれるモデルで、360cc水冷直列4気筒DOHC4キャブレターという、当時の水準では考えられないほど高性能なエンジンを搭載していたのです。
本来は同じエンジンを搭載したスポーツカーかつ、同社初の軽乗用車として「スポーツ360」もデビューする予定でしたが、お蔵入りとなり、登録車の「S500」が発売された経緯があります。
その後、ホンダは「Sシリーズ」と商用車の「P700/L700」、そしてT360の生産を継続しましたが、市場規模が大きかった軽乗用車はラインナップされませんでした。
そこで、ホンダはこれまでのモデルとは完全に異なる軽乗用車「N360」を開発し、1967年に発売します。
ボディは2BOXスタイルのセダンとライトバン(LV360)をラインナップし、シャシはモノコックを採用。
全長2995mm×全幅1295mm×1345mm、ホイールベース2000mmと、当時の軽自動車枠いっぱいのボディザイズとされ、RRやFRが主流のなかFFを採用したことと、タイヤをボディの四隅に配置したことで広い室内空間と荷室を実現しています。
エンジンは360cc空冷直列2気筒SOHCシングルキャブと、T360のエンジンよりもだいぶダウングレードしたように思えますが、最高出力31馬力を8500rpmで発揮するという、高回転、高出力なものでした。
ホンダはオートバイのエンジン開発で培った技術があったため、高回転化はそれほど難しくはなかったことでしょう。
なお、当時のライバル車の多くが25馬力ほどだったため、N360の登場によって軽自動車市場でパワー競争が勃発したほどです。
トランスミッションはオートバイと同様なノンシンクロのドグクラッチを使った4速MTとされ、1968年にはホンダ独自の3速AT「ホンダマチック」も加わりました。
サスペンションはフロントがコイルスプリングのマクファーソンストラット、リアはリーフスプリングのデッドアクスルです。
こうして新開発されたN360は、1966年10月に記者発表会と試乗会がおこなわれ、パワフルなエンジンによって「まるでスポーツカー並みの出足」と評されました。
発売は1967年3月からで、価格は31万3000円とライバルよりも5万円ほど安く設定されたことから、発売直後から予約が殺到。発売から3か月後の予約累計が2万2500台、発売26か月後の1969年4月には、国内届出実績50万台を達成し、軽自動車販売台数1位を3年連続で獲得しています。
その後、バリエーションの拡充がおこなわれ、1968年6月にはサンルーフ仕様が、同年8月には高性能モデルの「N360T(ツーリング)」が登場。N360Tのエンジンはツインキャブ化により最高出力36馬力を9000rpmで発揮し、最高速度120km/hを達成しました。
※ ※ ※
こうして、大ヒットしたN360は順風満帆なように思えましたが、1970年にN360を取り巻く大きな事件が起き、当時、社長だった本田宗一郎氏が刑事告発される事態にまで発展することになりました。
■N360の欠陥車騒動とその後の進化とは
いまでは当たり前になっている「リコール制度」は、1969年6月に運輸省(現在の国土交通省)の指導で国内に導入されました。
アメリカで販売された日本車が欠陥車だと報じられたことがきっかけになり、日本でも対策が必要となったためです。
1970年9月に追加された「N III 360タウン」はマイルドな特性
アメリカでは自動車の安全性について活発な消費者運動を展開する「自動車安全センター」という組織があり、日本でも1970年5月に「日本自動車ユーザーユニオン」(以下、ユーザーユニオン)という消費者組織が発足。
この組織にN360が取り上げられ、同年8月、N360が関係する死亡交通事故とクルマの欠陥性との因果関係を巡り、遺族に代わってユーザーユニオンが本田宗一郎氏を、東京地検特捜部へ殺人罪で刑事告訴する事態となりました。
しかし、鑑定の結果、事故とN360の欠陥性との因果関係を強く結び付けるものはないとされ、不起訴処分が決定。N360はリコールには至りませんでしたが、ホンダは社会的責任を考え、被害者家族への見舞金として8000万円を支払うことで和解しました。
一方、その後もユーザーユニオンから巨額な賠償要求が続いたことから、ホンダは逆にユーザーユニオン側を恐喝で告訴し、最終的には最高裁で争われ、15年後の1987年1月に代表者2名の有罪が確定。
ホンダは裁判には勝ちましたが、そこに至るまでのイメージダウンとダメージが著しく、N360の販売台数は急激に落ち込み、軽自動車市場全体が次第に衰退していくきっかけとなったといわれています。
※ ※ ※
こうして、N360を取り巻く状況は厳しくなりましたが、クルマとしての進化は続いていました。
大きなトピックスとして、1968年にはN360をベースに600cc空冷直列2気筒SOHCエンジンを搭載した「N600」が登場。1969年にはハワイに輸出され、1970年にはアメリカ本土でも発売し、台湾ではノックダウン生産がおこなわれました。
N360では1969年1月に初のマイナーチェンジがおこなわれ、外観はほとんど変わりませんでしたが、インパネまわりの意匠が変更されます。
そして1970年1月にはフロントフェイスを一新するビッグマイナーチェンジがおこなわれ、車名も「N III 360」と命名。
ほかにもN III 360ではトランスミッションが現代的なフルシンクロとされ、室内の静粛性の向上や空調の改善、前席フルリクライニングシートの採用などがおこなわれ、快適かつスムーズな走りへとグレードアップしました。
また、1970年にはN360をベースとした派生車で、軽自動車初のスペシャリティカーの初代「Z」が登場。ボディはスタイリッシュな2ドアクーペのみとされ、特徴的な形状のリアガラスハッチから「水中メガネ」の愛称で呼ばれました。
※ ※ ※
N360シリーズは、1970年9月には生産開始43か月で生産累計100万台を達成するほどの人気でしたが、1971年6月に水冷エンジンを搭載した「ライフ」の登場によって販売を終了。
このライフをもって、ホンダは一時的に軽自動車市場から撤退しますが、1985年に初代「トゥデイ」発売によって軽自動車市場へ復活を果たし、いまに至ります。
53年前にデビューしたN360から現在のN-ONEは、比べものにならないほど進化していますが、手軽な乗り物という根底は変わっていません。
ちなみに、車名の「N」の由来は「Norimono」です。
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