なぜ「昔はよかった」 オジサンの定番口癖 車も昔が良かったのか
くるまのニュース / 2020年9月24日 17時10分
オジサン世代の口癖といえば、「昔はよかった」という昔を懐かしむセリフです。では、クルマに関しても昔の方が良かったのでしょうか。
■「昔のクルマは安かった」は幻想?
なぜ人は、過去を懐かしみ「昔はよかった」と口にするのか。記憶の美化とも現状に対する不満ともいわれる現象ですが、クルマも昔の方がよかったのでしょうか。
今回、現在と過去を比較するうえでは、日本の高度経済成長期絶頂の1960年代半ばの国産乗用車黎明期のクルマと現在のクルマにスポットを当て考察していきます。
スポットを当てるのは、1966年に登場し、いまやグローバルカーとなって世界で走るトヨタ「カローラ」です。
半年ほど先行デビューした人気の日産「サニー」を追って、その牙城に挑んだ初代カローラ(KE10型)は、43.2万円(東京地区価格:2ドアセダン・スタンダード)から49.5万円(同:2ドアセダン・デラックス)で販売されていました。
リッターカークラスで「100ccの余裕」をアピールし、初代カローラは瞬く間に累計生産100万台を突破してベストセラーモデルに昇り詰めます。
そのKE10型のおもな諸元は、ボディのサイズは全長3845mm×全幅1485mm×全高1380mm、ホイールベース2285mm。
足回りは前ストラット式、後リーフリジッド式とし、搭載した直列4気筒OHVエンジンはボア×ストローク:75.0×61.0mm、1077ccのキャパシティから60馬力/8.5kg.mの出力&トルクを発生。車重は710kgと現代の軽自動車よりも軽い初代カローラを活発に走らせました。
一方で現在の12代目カローラは、セダンタイプのボディサイズが全長4495mm×全幅1745mm×全高1435mm、ホイールベース2640mm。
車重1310kgから1400kgと初代カローラに較べ、ふた回り以上大きく重くなっています。エントリーモデルのガソリンエンジンモデルの価格は193.6万円。搭載するエンジンは1797cc直列4気筒DOHCで、98馬力/14.5kg.mを発揮します。
昔のクルマはよかったといわれる理由のひとつに、価格の安さという点が挙げられます。
たしかに、初代と現行モデルの価格差は約4.5倍。これを指して「昔のクルマは安かった(よかった)」というオールドファンが多いのでしょう。
しかし、単純に価格を比較するのは早計です。厚生労働省が1968年度から統計を取りはじめ発表している「大卒サラリーマンの初任給」平均値の推移をみると、初代カローラ発売の翌々年、1968年度は3万0600円。
最新でデータとして公表している2019年度は23万8900円と、7.8倍に増えています。昔のクルマが決して安い買い物ではなかったことが分かります。
また、初代カローラだけではなく、当時のクルマには、EBDが付帯したABSやSRSエアバッグ、ブレーキアシスト、VSC(Vehicle Stability Control)などはもちろん、衝突被害軽減ブレーキやレーンキープシステムのような先進安全運転支援装置の装着などは一切ありません。
さらに、チルト&テレスコピック付きパワーステアリング、パワーウインドウやスマートキーシステム、さらにエアコンなどの快適装備もありませんでした。
もちろん、衝突安全性を考慮してキャビン乗員の安全性を確保するモノコックボディ&シャシ構造などと云う安全設計思想はなく、1970年代初頭に高性能化したエンジンを積んだスピードの出るクルマは「走る棺桶」などと揶揄されたものです。
■現在のクルマとは違う、自ら「メカに触れる」楽しさがあった
しかし、オールドエンスーである旧車ファンは、当時のクルマには「自分で愛車のメカに触れる愉しさがあった」と語ります。
1980年代の初めころまで、新車に付属する車載工具は多様でした。車載のコンパクトなジャッキシステム、ホイールを締結するハブナットに合わせたサイズの大きなレンチ、車止め、数種類のサイズの小型レンチセット&モンキーレンチ、プライヤーなどです。
その果てには、スパークプラグを外す(交換する)ためのプラグレンチや、凝ったクルマではタイヤの空気圧ゲージなども含まれて、結構な重量物でした。
ところが、現行カローラのカタログには、工具(ジャッキ&ジャッキハンドル、ハブナットレンチ)としか記載がありません。
たしかに、エンジンルームを覗いても、国産車のガソリンエンジンは、ほぼすべてDOHC4バルブとなりましたが、その燃焼室頂上にあるはずのスパークプラグさえ見つけることは困難です。
過日のオールドエンスーの方々がタイミングベルトにフラッシュライトを当てて、点火タイミングを調整していたようなことは、ほとんど不可能で、不要となっています。
電子部品の集合体で埋まったECUやパワーユニットなどの周辺は、完全にブラックボックス化しており、メーカー毎の専用機器が無ければ調整すらできず、素人が手を出せる領域ではありません。
始動用バッテリーでさえ、今どきはメンテナンスフリーが普通で、バッテリー液の補充などは車検ごとにディーラーがチェックするだけです。ユーザーがおこなえるものとしたら、ウィンドウ・ウォッシャー液の補充とタイヤの空気圧チェック程度でしょうか。
昔のクルマは自ら「メカに触れる」楽しさがあった(4代目「スカイラインGT-R」)
クルマの始動も現在なら、「エンジンスタート」ボタンを押すだけで、とくに儀式めいた作法は必要ありません。
しかし、1970年代までのクルマなら、それぞれのクルマによってエンジン始動(コールドスタート)には気を遣ったものです。
マニュアルチョーク車なら肌で感じた外気温に応じてチョークレバーの引き加減を調整。オートチョークでも寒い季節には、それなりの始動方法がありました。
このようなユーザーによるメンテナンスの自由度、ユーザー故に知る円滑にクルマを走らせるための小技が、昔のクルマを所有する「愉しみ」にとって大切な要素、必要条件だったのでしょう。
※ ※ ※
たしかに1960年代後半から1970年代半ばに登場した日本のクルマたちには、「いじる愉しみ」を含めて不思議な魅力が詰まっていました。
しかし、「よかった」かどうかの判断は、一概にはいえないでしょう。昔のクルマはよかったという形容詞+助動詞は、「面白かった」あるいは「愉しかった」に置き換えると分かりやすいかも知れません。
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