格安EV発表のテスラに追い風か? カリフォルニア州のガソリン新車販売禁止の真相とは
くるまのニュース / 2020年9月26日 9時30分
EVメーカーのテスラは、約265万円のお手頃な新型EVの計画を明らかにしました。また、同時期にカリフォルニア州知事が「2035年を目途に州内でのガソリン車の新車販売を禁止する」と発表しましたが、これはEVにとっては追い風となりうるのでしょうか。
■テスラが新EV発表! 約265万円の格安EVとは?
テスラが2万5000ドル(約265万円)の新型EVを2023年頃を目途に発売する計画について、同社のイーロン・マスクCEOは2020年9月23日に開催した第22回テスラ株主総会で明らかにしました。
テスラのアメリカでのラインナップは、ラグジュアリー系の「モデルS」と「モデルX」、コンパクト・ミッドサイズ系の「モデル3」と「モデルY」の合計4モデルが販売されています。
将来構想としては、大型輸送トラックの「SEMI」などの商用車と、ピックアップトラックの「サイバートラック」がコンセプトモデルとして公開済みです。
これらに加えて、新たに2万5000ドルモデルが加わることで、自動車業界で販売台数が多い、いわゆるマスマーケットへも本格参入し、大手自動車メーカーのようなフルラインナップ化が実現することになります。
マスクCEOは「これまでスポーツカーやプレミアムセダンなどを導入してきましたが、会社創立以来、私の夢はアフォーダブル(手頃な価格)なEVでした」と2万5000ドルの新型EVを紹介。モデル名称は今回、公表されていません。
2万5000ドルというと、エントリーモデルである「モデル3」のベースグレードが北米では約3万8000ドルですから、それよりも35%も安くなります。
その背景にあるのは、単なる量産効果だけではないようです。
テスラの発表によると、2万5000ドルモデルが実現可能となるには、さまざまな変革が必要だといいます。
具体的には、リチウムイオン二次電池の基本設計の見直しや使用する材料の最適化、それにともなう車体の前後部分に採用する大型の鋳造部位の導入、さらには最終組立工程の見直しによる工場のサイズダウンなどを挙げています。
電池の単体であるセルについても、新設計となります。モデルSやモデルXで採用した直径18mm×長さ65mmの18650型や、モデル3から採用を始めた直径21mm×長さ70mmの2170型に比べて、出力やエネルギーが大きな直径46mm×長さ80mmの開発を進めています。
なおかつ2万5000ドルのモデルでは、ほかのモデルよりも廉価な材料を採用してコストダウンを狙っているのです。
総合的な見地から「(いまから)3年以内には新しい製造体制が稼働できる予定」という解釈であり、現時点で2万5000ドルモデルの2023年発売が確定しているわけではありません。
■ガソリン車販売禁止は事実上のZEV法の強化か?
テスラの新戦略発表とタイミングを合わせるかのように、カリフォルニア州のニューサム知事が「2035年を目途に州内でのインターナル・コンバッション・エンジン(ICE)の新車販売を禁止する」と発表しました。
テスラ「モデルY」
インターナル・コンバッション・エンジン(ICE)とは、日本語で内燃機関を指します。
近年、自動車業界では、このICEという表現が使われる機会が増えてきたのですが、背景にあるのはパワートレインの電動化です。
一般的には、内燃機関とモーターを融合するハイブリッド車やプラグインハイブリッド車をICEに含めないという解釈をしています。
そのため、今回のカリフォルニア州の発表でも、すべてをEV(電気自動車)、またはFCV(燃料電池車)にするという意味ではないと思われます。
ICEの販売禁止については、フランスや英国など欧州主要国でも同類の政策を発表していますが、多くの場合は、現状では将来に向けた達成目標という解釈でとどまっています。
一方、カリフォルニア州は世界に先んじて、環境負荷の低い電動車の量的規制を始めたことが知られています。1990年から施行されているゼロエミッションヴィークル(ZEV)規制です。
今回の発表についても、ZEV規制の策定をおこなう、カリフォルニア州環境局・大気保全委員会(CARB)の関係者も同席していることから、事実上のZEV法の強化という見方ができます。
ところが、話はけっこう複雑で、カリフォルニア州と連邦政府との関係が大きく影響しており、今回の発表内容がそのまま施行されるかどうかは現時点では不透明だといわざるを得ません。
端的にいうと、トランプ政権は、オバマ政権まで容認されてきたカリフォルニア州と連邦政府それぞれの環境規制が併存する「ダブルスタンダード」を解消し、連邦政府が主導する規制の一本化を打ち出しています。
その考えに反対するカリフォルニア州では、自動車メーカー数社と連携した、独自の燃費規制(CO2規制)の策定を始めると発表するなど、州と国との間で意見の食い違いがあるのが実情です。
この状況は、11月の大統領選挙の結果次第で、大きく変わる可能性も否定できません。
そのため、テスラが打ち出した2万5000ドルモデルを含む新戦略は、あくまでも1企業の将来構想であり、州や連邦政府を巻き込んだ政治的動きと直結させて考えることは、時期尚早だと感じます。
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