「日産58台の衝撃」から1年 2020年内に韓国市場撤退 日産と韓国の関係はどう変化?
くるまのニュース / 2020年9月30日 9時10分
2019年8月、韓国における日産車の月間販売台数がわずか58台であることが話題になりました。日本製品不買運動がおもな原因でしたが、その後日産は「ゴーン・ショック」や新型コロナウイルスによる影響など、1年経った現在ではさらに大きく状況が変化しています。韓国における日産の今を追ってみます。
■ゴーン・ショック、そして新型コロナウイルス
いまからおよそ1年前の2019年9月、あるニュースが話題になりました。前月(2019年8月)、韓国における日産の販売台数が、前年同月比87.4%減のわずか58台であることが報じられたのです。
韓国の新車市場は決して大きくないとはいえ、同じ月に高級車ブランドであるメルセデス・ベンツが6740台も販売していることを考えると、その数字の異常さがわかります。
あれから1年、韓国での日産の販売台数はどう変化していったのでしょうか。
これほどまでに日産が韓国市場で販売台数が落ち込んだ要因は、徴用工訴訟問題に端を発する日本製品不買運動といわれています。
徴用工訴訟問題は、2018年10月に新日本製鐵(現日本製鉄)に対して韓国の最高裁にあたる大法院が、元労働者や遺族に対して損害賠償を命じる判決を出したことで多くの人に知られることになりました。
この判決内容は、第二次世界大戦時に日本の統治下にあった韓国で「日系企業に勤める多くの韓国人が奴隷のように働かされていた」という原告側の主張を認めたことになります。
当然、日本政府はこの判決に強く反発をするなど、日韓関係に摩擦が生じることとなった結果、韓国の一部地域で日本製品不買運動が行われるといった事態に発展しました。
実は、2019年9月には46台と、さらなる落ち込みを見せています。10月以降は回復傾向にあり、10月は139台、11月は287台、12月は324台と推移しますが、日産車の価格帯を考えると、利益の出る販売台数とはとてもいえません。
日韓関係の悪化による販売台数減少は、日産内部の問題というよりは外的要因といえるでしょう。しかし、日産は同時に内部事情でも世間を賑わせていました。
2000年代の日産再建の立役者であり、絶対的な権力を誇っていたとされるカルロス・ゴーン会長(当時)の逮捕、そして国外への逃亡劇という衝撃的なニュースがあったのは2018年末ですが、その後日産を率いていた西川廣人社長兼CEO(当時)がまさに韓国で不買運動がおこなわれていた2019年9月16日付けで辞任してしまったのです。
その後も「お家騒動」は続きます。その後バトンを引き継いだのは、現在の内田誠社長兼CEOでしたが、ルノー出身のアシュワニ・グプタCOOと、生え抜きの関潤副COOと3人で「トロイカ体制」を敷いて経営再建に着手する予定でした。
しかし、新体制発表から1か月もたたない2019年12月に関COOの辞任が発表され、新体制は脆くも崩れ去ってしまうことになります。
そして、2020年に入ると、新型コロナウイルスの影響で世界中の経済活動が影響を受けることになり、当然日産も例外ではなく、主要工場で生産調整をおこなうなど、生産台数が大幅に減少しました。
このように、日産はこの数年大きな変動のなかにいます。韓国市場の販売減少はセンセーショナルではありますが、日産からしてみれば「それどころじゃない」というのが正直なところなのではないでしょうか。
■2020年12月をもって韓国市場からは撤退
日産は、2004年から韓国市場で日産・インフィニティブランドを展開。2005年からインフィニティ車、2007年から日産車を販売していましたが、2020年5月28日、日産の韓国現地法人である韓国日産は、「日産が2020年12月をもって韓国市場から撤退」することを正式に発表しました。
撤退の理由について、日産は「グローバルレベルでの戦略的事業の改善策の一環として、中長期的に世界市場での健全な収益構造を確保し持続可能な事業基盤を用意するため」と説明しています。
さらに、次のようにもコメントしています。
「韓国市場での事業を継続するための韓国日産の努力にもかかわらず、内外的な事業環境の変化に起因して市場の状況はさらに悪化し、日産本社は韓国市場で再び持続可能な成長構造を備えることが難しいと判断しました」
この「内外的な事業環境の変化」というのが、前述の日本製品不買運動や日産内部の「お家騒動」を指すのかは定かではありませんが、中長期的に見て韓国市場に成長性がないと判断されたと考えられます。
韓国市場でインフィニティブランドで展開される「G35セダン(日本名スカライン)」(写真は日産・スカライン)
しかし、日産撤退の根本的な理由はほか他にあると考えられます。それは韓国という国の置かれた地政学的な環境です。
韓国は南側に海を挟んで日本、北側には北朝鮮、そして中国やロシアという国に囲まれており、それぞれデリケートな関係があり絶妙なバランスの外交関係の上に成り立っています。
一方で、韓国の国内市場は北朝鮮を除く周辺国家に比べれば小さく、日本同様資源の少ない国でもあることから、韓国国内市場よりも海外市場で経済活動をおこなうことで外貨を獲得する必要があります。
自動車であればヒュンダイ、電機製品であればサムスンやLGなど、各産業でグローバルに活躍する韓国企業は少なくありません。
当然、韓国国内市場はそうした韓国企業が多くのシェアを持っているため、海外企業は大きなシェアを期待することはできません。
実際に、韓国における輸入車比率は15%程度であり、台数にすれば25万台程度です。そのうちの50%以上をドイツ系ブランドが占めていることから、日系ブランドが期待できるのは、せいぜい2万-3万台です。これは年間400万台以上を販売する日産にとって、あまりに小さい数字といえます。
再建を期する日産にとって、利益が見込めない市場からの徹底はやむを得ないことだといえるでしょう。
なお、日産が撤退した後のメンテナンスなどのアフターケアについて、日産は「今後8年間(2028年まで)、当社の大切なお客さまに適切なサービスを提供するために最善を尽くしていきます」と説明。さらに、今後の新車購入は在庫が枯渇するまでディーラーショールームを介して購入可能としています。
※ ※ ※
「58台の衝撃」から1年、やはり日産は韓国市場からの撤退という判断をすることになりました。
しかし、それは日本製品不買運動という一時的な販売減少要因ばかりが原因ではなく、韓国市場が持つ特徴を考えたうえでの合理的な判断の結果と考えられます。
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