なぜ最近の車はグレード体系が単純になった? 自動車メーカーが合理化を進める事情とは
くるまのニュース / 2020年10月6日 9時10分
かつてのクルマは豊富なボディタイプにさまざまなエンジンを用意していましたが、最近ではシンプルなグレード体系になってきています。また、車種の統合が進むなど、自動車メーカーは合理化を進めていいますが、それはなぜなのでしょうか。
■かつて豊富だったグレードが今はシンプルになった!?
最近のクルマは、以前に比べてグレード構成がシンプルになってきました。
2020年で生誕65周年を迎えるトヨタ「クラウン」の場合、1979年に発売された6代目には、セダン、4ドアハードトップ、2ドアハードトップ、ワゴン&バンという4種類のボディが用意されていました。
その後もクラウンはさまざまなボディタイプとエンジンを揃えましたが、現在の15代目クラウンは、ボディは1種類でエンジンは2リッター直列4気筒ターボ、2.5リッターハイブリッド、3.5リッターV型6気筒ハイブリッドです。
これに伴って売れ行きも変わりました。「クラウンマジェスタ」が登場した1991年に、クラウンはシリーズ全体で16万台を販売。
1か月平均で1万3000台ですから、いまのトヨタ「ヤリス」や「ライズ」に相当する台数を販売していましたが、現行クラウンは、2020年1月以降の販売台数が月平均1800台なので、約30年前の14%程度です。
その代わり30年前には、いまのようなミニバンはほとんど存在していません。多人数乗車の可能な乗用車は、「タウンエースワゴン」や「ハイエースワゴン」など、ワンボックスボディの商用車をベースにした3列シート車でした。
いまのハイエースワゴンは、4列シートを備えるマイクロバス的な10人乗りですが、ミニバンが普及する前には、シートアレンジの多彩な3列シートワゴンがあったのです。
ただし商用車がベースですから、運転感覚や走行安定性、乗り心地、乗降性などに不満があり、最近のミニバンほど普及しませんでした。
SUVの車種数も当時は少なく、トヨタ「ハイラックスサーフ」や日産「テラノ」、三菱「パジェロ」など後輪駆動ベースの悪路向けSUVは豊富でしたが、日産「エクストレイル」やホンダ「ヴェゼル」、マツダ「CX-5」といった前輪駆動ベースの売れ筋車種の大半は2000年以降に登場しています。
このように近年には、ミニバンや都市型SUVのような新しいカテゴリが生まれ、新型車も増えましたが、国内の販売台数は減っています。1990年には国内で778万台のクルマが販売されましたが、2019年は520万台です。
新しいカテゴリと車種が増えたのに、国内販売台数が33%減れば、1車種当たりの売れ行きも下がります。つまり多品種少量生産に近付いて、1車種に用意されるエンジンやグレードの数を減らすことになりました。
■グレードを増やした新型フィットの戦略とは?
2020年2月にフルモデルチェンジしたホンダ「フィット」は、エンジンは1.3リッターガソリンとハイブリッドの2種類ですが、「ベーシック/ホーム/ネス/クロスター/リュクス」と豊富なグレードをラインナップしています。
趣向が異なる5グレードを用意するホンダ「フィット」
グレードを減らす傾向がある最近の動向に逆行しているように思えますが、グレードを増やす代わりにメーカーオプションを減らしたのです。
そうなると選択肢が豊富に思えても、組み合わせの総数は減らせます。これは巧みなやり方でしょう。
メーカーの開発者によると「メーカーオプションのなかには装着率が3%前後の装備もあり、ムダが増えてしまいます。そこで近年では、選択可能な装備をなるべく抑えるようにしています」とのことです。
ただし装備の組み合わせを減らすと、ユーザーにとっては選びにくくなることもあります。
たとえばトヨタ「ハリアー」の場合、助手席の電動調節機能やステアリングヒーターは、本革シートを装着した「レザーパッケージ」に含まれます。
これらの装備は、価格が450万円を超える「ハイブリッドZ」にも装着されず、さらに30万円高いレザーパッケージを選ばなければなりません。
また電気自動車では、100V・1500Wの電源コンセントを装着しておくと、災害時にも役立ちます。同様の機能はハイブリッド車も採用していますが、電気自動車であれば排出ガスやエンジン音を発生させず、長時間にわたって電力を供給できます。
それなのにホンダの電気自動車「ホンダe」では、100V・1500Wの電源コンセントは、セットオプションの「アドバンス」(価格は495万円)に含まれます。プレミアムサウンドシステムやパーキングパイロットと併せて44万円を加えないと装着できません。
昨今は合理化のために装備の組み合わせを減らす必要が生じて、グレードやオプション装備をシンプルにしています。
この事情は分かりますが、やり方によってはユーザーが選びにくくなったり、割高な買い物をすることになります。
※ ※ ※
現在は国産乗用車だけで約150車種が用意されていますが、 1か月の平均販売台数が1000台に達するのは60車種程度と、クルマの売れ行きが二極分化しています。
もっとも極端なのはホンダで、同社の売れ筋モデルである「N-BOX」「N-WGN」「フィット」「フリード」の販売台数を合計すると、国内で売られたホンダ車全体の約7割を占めています。いまのホンダの国内販売は、この4車種が支えているのです。
このような状態が続くと、ホンダに限らず、各メーカーとも国内で扱う車種を減らし始めるでしょう。自動車メーカーは環境技術や自動運転関連の投資も多く、多方面のリストラに迫られているからです。
トヨタは2020年5月から、国内の全店で全車を扱う体制に移行しましたが、この背景にも車種などのリストラがあります。
人気車をすべての店舗で販売すれば、従来以上に売れ行きを伸ばし、逆に不人気車は大幅に減って車種の削減もしやすいからです。
すでに高級ミニバンと称される「ヴェルファイア」は、兄弟車ながら絶大な人気を誇る「アルファード」の17%しか売れていません。
コンパクトワゴンの「タンク」も兄弟車「ルーミー」の半数以下という販売台数とになり、2020年9月のマイナーチェンジでタンクを廃止し、ルーミーのみになりました。
このようにリストラを進めて限られた車種だけが生き残る市場になると、1車種で幅広いユーザーをカバーする必要に迫られ、グレードの数が再び増えるかも知れません。
その意味ではフィットのように、SUV風を含めて複数のグレードを用意する方法は効果的でしょう。トヨタもヤリスのプラットフォームを使った「ヤリスクロス」を2020年8月末に発売。派生モデルを増やしています。
車種のリストラも、やり方次第で顧客満足度は大きく変わります。車種の整理による合理化と、派生モデルや追加グレードによるユーザーニーズの満足を上手に両立させて欲しいです。
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