セダンの人気は本当に落ちている? 最近のセダンを購入する人の傾向とは
くるまのニュース / 2020年10月9日 10時10分
かつて家のクルマといえばセダンがほとんどだった時代がありました。しかし、昨今では「セダン神話」は過去の物となり、SUVやミニバンといった多様性のあるモデルや軽自動車がファーストカーになっています。セダンの人気が下火になっているといわれて久しいですが、最近のセダンを購入する人の傾向にはどのようなものがあるのでしょうか。
■かつては「クルマの基本形」もいまでは風前の灯火?
古くからクルマのボディタイプはセダンをベースとして展開されていましたが、近年ではSUVやミニバンの台頭によってセダンは影を潜めているといいます。果たして、本当にセダンの人気は落ちているのでしょうか。
1990年代後半頃まで、クルマの基本形といえばセダンというのが常識でした。
もちろん、クーペやステーションワゴンといったモデルもありましたが、そのほとんどがセダンをベースにした派生モデルという位置付けで、クロカンやバンはあくまで特定のニーズがある人のためのものであり、いまほど市民権を得ていません。
しかし、2000年代に入ってからは、セダンタイプのクルマは徐々に影を潜め、代わりにミニバンやSUVが台頭してきました。とくに近年は各ブランドがこぞってSUVの開発に取り組み、話題となる新型車の多くがSUVという状態が続いています。
セダンも完全に消えてしまったわけではありませんが、自動車販売協会連合会が発表した2020年度上半期(4月から9月)のモデル別新車販売台数ランキングによると、上位30位のなかでランクインしているセダンしか存在しないモデルは、31位のトヨタ「クラウン」と42位のトヨタ「カムリ」の2つだけです。
セダンの販売台数が伸び悩む理由は、そもそも各ブランドのラインナップからセダンがどんどん姿を消しているからです。
とくに、販売台数が伸びやすい200万円前後で5ナンバーサイズのセダンはほとんどありません。
少ない例でいえば、トヨタ「カローラアクシオ」や「プレミオ」くらいでしょう。ホンダ「グレイス」は残念ながら2020年7月に生産終了となってしまいました。
販売されているセダン自体が少なければ、販売台数が減少するのは必然ですが、それでもセダンを購入するユーザーも一定数います。そうしたセダン購入者にはどのような傾向があるのでしょうか。
国内メーカーの販売店関係者は次のように話します。
「セダンを選ばれる人は、そのスタイリングとスポーティな走りに魅力を感じるようです。近年のトレンドはやはりSUVですが、SUVは居住性が良い反面、そのルックスが好みでない人も少なくありません。また、重心が高い分、走りのスポーティさはセダンに分があります。
また、駐車場の都合でセダンを選ばれる人もいらっしゃいます。とくに、ある都心の機械式駐車場だったり、あるいは比較的以前に建築された戸建てなどでは、構造上的にSUVのような背が高いクルマが入らないケースもあります。
ただ、やはりまず興味を持たれるのはSUVなどが多く、いわゆる『指名買い』を除いて、『なんとなくセダンに興味がある』というお客さまは少ないように思います。複数のモデルを比較検討するなかで、最終的にセダンにされるという例が多いと感じます」
また、セダンの意外な実用性をメリットに感じる人もいるようです。前出の販売店関係者は次のように続けます。
「SUVは、多人数乗車や積載性が実用面での特徴である一方で、モデルによってはセダンと同じ5人乗りで、積載量もそれほど大きく変わらない場合があります。
また、とくに男性のお客さまでは『やはりスポーツカーに乗りたい』という欲求をお持ちの人も少なくありませんが、現実的な問題として2ドアではファミリーユースに向きません。その点、セダンであれば4人は楽に乗車でき、そのうえでトランクに荷物も積めるので実用的です。
そうしたユーザー側のニーズを汲んだのか、最近のセダンの多くはスポーティさを売りにしています。そういう意味では、『4ドアスポーツカー』という位置づけになりつつあるのかもしれません」
※ ※ ※
日本のセダンの代名詞ともいえるクラウンは、現行型ではドイツ・ニュルブルクリンクサーキットでみがかれた走りをアピールしています。
日産「スカイライン」やホンダ「アコード」も同様に流麗なデザインとスポーティな走りが魅力ですが、一方で、それらをまったくアピールしていないセダンはほとんど見られません。強いていえば、トヨタ「センチュリー」のような、特殊なモデルに限られています。
このように、今後セダンは「4ドアスポーツカー」としての性格を強めていくことが予想されます。
■セダンは歴史的名車が多い? セダンの本当の価値とは
セダンの位置付けが「4ドアスポーツカー」に変わりつつあるようですが、いま現時点でセダンの販売を支えているのは、スポーツカーに憧れている層ばかりでもないようです。
ある自動車業界関係者は次のように分析します。
「セダンを購入する人の多くは、そのモデルだけに興味を持っている『指名買い』といえます。これは単にそのモデルが気に入っているという話ばかりでもありません。
例えば、クラウンなどは法人販売も多く、車検のタイミングでほぼ自動的に新車へと代替えすることも少なくありません。
同様に個人客でも、ずっとクラウンを乗り継いできたような人は、クラウンを継続して購入する傾向があるようです。これも『指名買い』の一種といえますが、極端にいえば実車を見ないで名前だけで購入する人もいるようです」
「いつかはクラウン」といわしめるブランドを確立しているトヨタ「クラウン」
こうしたことが起こるのは、やはりセダンがかつてクルマの基本形であり、SUVやミニバンとは比較にならないほどの歴史があるためでしょう。
実際に、現在各ブランドにラインナップされているセダンの多くは長い歴史を持つ名車です。そういう意味では、セダンはそのブランドの歴史を示す重要なモデルといえるのです。
※ ※ ※
技術の進歩により、クルマの機能差は少なくなっているといわれています。そのなかで、今後の新車販売を左右する要素のひとつとして、そのブランドへの愛着心といった形のないものが重要になります。
かつて「いつかはクラウン」という若き日のあこがれを持っている人にとっては、話題の新型車よりも、クラウンが魅力に見えることでしょう。セダンの本当にアピールするべきは、その歴史と伝統に裏打ちされたブランド力なのかもしれません。
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