トヨタ販社が「ハリアー」を存続させた!? メーカーよりも歴史が長い販売会社の実体とは
くるまのニュース / 2020年10月10日 18時10分
トヨタ系列の販売会社は各地域の名士が多いといわれていますが、そのなかでも千葉トヨペットは別格の存在です。かつて販売終了の危機にあった「ハリアー」を存続させ、現在は登録有形文化財に指定された本社を持つ千葉トヨペットのトヨタ勝又グループとは何者なのでしょうか。
■キングオブ販売会社?千葉トヨペットとトヨタ勝又グループ
トヨタ車を販売する全国のトヨタ系販売会社は、各地域の名士が多いといわれています。
そのなかでも千葉トヨペットは別格の存在です。かつて販売終了の危機にあった「ハリアー」を存続させ、現在は登録有形文化財に指定された本社を持つ千葉トヨペットのトヨタ勝又グループとは何者なのでしょうか。
自動車メーカーと販売会社は、独特の関係性だといわれています。ほとんどの場合、販売会社はメーカーの子会社ではないため、いわゆる上下の関係ではありません。
また、売上高でいえば当然メーカーの方が大きな企業といえますが、各販売会社が存在しなければ、そもそもクルマを売ることができないため、メーカーにとって販売会社は頭の上がらない存在ともいえます。
自動車メーカーが成長するうえで、販売会社の協力は欠かせません。もっとも古い自動車メーカーのひとつであるメルセデス・ベンツの「ベンツ」は、創業者のひとりであるカール・ベンツに由来していますが、「メルセデス」は、創業時に大量発注をした販売会社(卸売業者)の社長の娘の名です。このように、自動車メーカーと販売会社は切っても切れない関係にあるのです。
日本国内の販売会社システムの基礎は、戦後のトヨタが構築したといわれており、なかでも戦後まもない頃にトヨタの販売担当であった神谷正太郎氏は、地域の名士へ自動車販売を任せるという戦略をとりました。
そうした名士たちは、新聞やラジオといったメディア企業、タクシー会社などを経営したり、あるいはそうした企業へ影響力を持っていたりすることから、クルマの販売に有利に働きました。
いまでこそ世界に名だたる大企業のトヨタですが、当時はまだまだ駆け出しの企業だった一方、地域の名士たちの多くは戦争で打撃を受けたとはいえ、明治あるいはそれ以前より栄えてきた家系であり、トヨタからすれば頭の上がらない存在だったといえます。
そんなトヨタの有力販売会社のなかでも、とくに目立つ存在であるのが千葉トヨペットです。
千葉トヨペットの母体となるトヨタ勝又グループは、ほかにもトヨタカローラ千葉、トヨタカローラ新埼玉、ネッツトヨタ東都、ネッツトヨタ埼玉を運営し、東京、千葉、埼玉の3都県でトヨタやレクサスを販売する、国内でもトップクラスの販売会社グループです。
しかし、トヨタ勝又グループが一目置かれる存在であるのは単に販売台数が多いからだけではなく、千葉トヨペット本社によるところも少なくありません。
「勝又自動車50年史」によると、千葉市美浜区にある千葉トヨペット本社は、妻木頼黄と武田五一によって設計された桃山式の純和風2階建てとなっています。
元々は1899年に日本勧業銀行本店として東京・麹町に建設されたものであり、その後1940年に千葉市役所として現在の千葉市中央区に移築。そして、1965年に千葉トヨペット本社社屋として現在の場所に再移築されました。屋根は当時と同じ木造銅葺ですが、躯体は鉄筋コンクリートとなっています。
延床面積は2310平方メートルで、移築当初はレストランやテニスコートなどもありました。現在は千葉トヨペット本社社屋に加えて、千葉トヨペット中央店としても使用されているため、一部は一般ユーザーも立ち入りが可能となっています。
また、社屋の奥には外観を損なわないように平屋建てとされた2000平方メートルの整備工場も併設されています。1997年には、国の登録有形文化財に認定されました。
本社屋へのユーザーの反応について、千葉トヨペットの担当者は以下のように話します。
「『旅館かと思っていた』や『何かの記念館かと思った』など初めてご来店頂くお客さまには驚かれます。また、周辺にお住いの人には地域のランドマーク的な存在として親しんでいただいております。
販売促進に直接効果を発揮しているかはわかりませんが、ご来店いただいたお客さまには強いインパクトを与えることができますし、歴史的に価値のある建物を本社屋とすることで、千葉トヨペットの企業イメージ・企業価値を高めていると思います」
■ハリアー復活の影に、トヨタ勝又グループあり!?
販売会社の仕事は、ただ単にメーカーが生産するクルマを販売するだけではありません。実際の消費者にもっとも近い存在である立場を活かし、消費者の声をメーカーに届けるという役割も持っています。
例えば、近年では軽自動車のニーズが高まっていますが、スバルやマツダといったメーカーでは、自社で十分な軽自動車のラインナップをそろえることができません。
そこで、他社からOEM提供を受けて軽自動車を販売していますが、そうした背景には「軽自動車がほしいというお客さまが多い」という販売会社の声が影響していると考えられます。
そして、2020年6月に4代目が販売され、大人気モデルとなっているトヨタ「ハリアー」には、トヨタ勝又グループを中心とする販売会社の影響が大きく関係しています。
都市型SUVとして人気を博していた2代目ハリアーですが、2009年に車体を共有しているレクサス「RX」が発売された際、競合を避けるために、ハリアーは生産終了することが濃厚でした。
しかし、当時の千葉トヨペット社長であった勝又基夫氏は、全国トヨペット店代表者の署名を集め、ハリアーブランドの存続をトヨタに掛け合ったのです。
その際に、勝又氏は次のように話したそうです。
「ハリアーという名前は、発売してたった10年弱の間でひとつのブランドとして確立された。それだけお客さまから支持された車種を簡単になくしてしまってはいけない」
その結果、2013年にRXとはまったく異なる新型車として、3代目ハリアーが登場し、爆発的なヒットを記録しました。そしてハリアーは4代目となった現在でも、その人気を保っています。
販売終了の危機を乗り越えて登場した3代目「ハリアー」。そのきっかけは販売会社からの要望だった?
自動車メーカーと販売会社の関係は、まさに持ちつ持たれつといえます。
一方で、最近では販売網再編の動きも活発化しており、トヨタは2020年5月からそれまで販売チャネルごとに取り扱っていた専売車種を全店舗で併売したことや、新車販売のみならずカーシェアリングやレンタカーなどモビリティに関するサービスも始まっています。
このように、販売会社も時代に合わせて変化をしつつある日本の自動車産業。販売というもっともユーザーに近い販売会社が今後どうのように生き残りをかけて変貌していくのか、注目したいところです。
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