商用車も軽が最強!? ピックアップトラック激減の裏で「軽トラック」が好調な理由
くるまのニュース / 2020年10月26日 7時10分
かつてビジネスカーの定番だったピックアップトラックですが、最近ではトヨタ「ハイラックス」が販売されるのみと激減しています。その一方、ビジネスユースには軽貨物車の需要が高く、なかでも軽トラックの販売が好調です。それはなぜなのでしょうか。
■衝撃! ピックアップトラックより軽トラのほうが荷物を多く積める!?
2019年には、日本国内で520万台の新車が販売されました。その内、トラックやバンなどの貨物車が88万台を占めます。貨物車の内訳は、小型/普通貨物車が45万台、軽貨物車は43万台と、軽自動車が約半数に達します。
乗用車を見てみると、国内の新車市場における軽自動車の販売比率は37%です。ホンダ「N-BOX」などのヒットにより、軽乗用車も以前にも増して身近な存在になりましたが、軽商用車はさらに普及しているのです。
軽商用車が好調に売れる一方で、車種を大幅に減らしたのがボンネットを備えたピックアップトラックです。過去を振り返ると、1970年頃には、ピックアップトラックが豊富に用意されていました。
トヨタ「ハイラックス」や「ダットサントラック」、マツダ「プロシード」などに加えて、トヨタの「クラウン」や「マークII」など上級クラスの乗用車をベースにしたピックアップトラックもありました。
コンパクトな車種では、日産「サニートラック」を多く見かけましたが、それが近年では激減しています。
ピックアップトラックが減った理由はなぜなのでしょうか。そのメリットとデメリットを考えると、分かりやすいでしょう。
まずメリットは、運転感覚が乗用車に近いことです。全高は大半の車種が1550mm以下に収まり、高速道路や曲がりくねった峠道でも左右に振られにくいです。
荷台の高さも低めに抑えられているので、荷物の積み降ろしも容易です。後席を備えたダブルキャブと呼ばれるタイプなら、セダンのように使うことも可能です。低重心で走行安定性が優れているため、高速道路を使った長距離の移動にも向いています。
またピックアップトラックが全盛だった頃は、物価や所得の割にクルマの価格が高く、複数の車両を持つことが難しい時代でもありました。
そこでクラウンのダブルピックなどを購入して、毎日の配達や長距離の出張、プライベートなファミリードライブまで、さまざまな用途に使ったのです。
1967年に発売された3代目「クラウンピックアップトラック/ダブルピック」の価格は、東京地区が72万5000円でした。この金額を大卒初任給基準にいまの貨幣価値に換算すると581万円に達します。
クルマが高額商品だったので、1台のクルマで幅広い用途をカバーすることが求められたのです。
その代わりピックアップトラックには欠点もあります。前側にボンネットがあり、その下にエンジンを収めるため、全長に占める荷台の長さが短くなることです。
たとえば、前出の3代目クラウンをベースに開発されたピックアップトラックは全長4690mmで、荷台長はシングルピックが1905mm、後席を備えたダブルピックは1055mmです。
ピックアップトラックにはボンネットがあることで荷台を長く確保できないのですが、それがいまのキャブオーバータイプ(エンジンの上に座席が装着されたトラック)なら、ボンネットがないために荷台長を大幅に拡大できます。
現行トヨタ「ダイナカーゴロングデッキ」の場合、全長はクラウンのピックアップトラックと同じ4690mmですが、荷台長はもっとも長いタイプなら3120mmに達します。
ダイナカーゴの荷台長はクラウンピックアップトラックのシングルピックよりも1215mm長く、比率に換算すれば1.6倍なので積載効率は大幅に優れています。
ちなみに、軽トラックでは、ダイハツ「ハイゼットトラック」(標準ボディ)とスズキ「キャリイ」の場合、全長が3395mmに対して荷台長は1940mmです。3代目クラウンのシングルピックが1905mmなので、荷台長では現代の軽トラックが上まわります。
■ピックアップトラックなのに荷物を載せない人が増加する訳
昔は1台の商用車をプライベートまで含めて使いましたが、いまは物価や所得に対してクルマの価格が下がり、複数の車両を所有することが可能です。そのために乗用車感覚のピックアップトラックを選ぶ必要性は薄れました。
またボンネットがないキャブオーバータイプも、背の高いボディながら走行安定性が向上して、高速道路を安心して走れるようになり、その結果、軽自動車から普通車まで、トラックの大半がキャブオーバータイプになったのです。
国内唯一のピックアップトラック トヨタ「ハイラックス」
例外として、ボンネットを備えたピックアップトラックとしてトヨタ「ハイラックス」がありますが、日本で売られるボディは後席を備えるダブルキャブのみで、エンジンも2.4リッタークリーンディーゼルターボ、駆動方式は4WDに限られます。
最低地上高に215mmの余裕があるため、ピックアップトラックというより悪路向けのSUVという位置づけでしょう。価格も売れ筋の「Z」は387万6000円と高額です。
トヨタの販売店にハイラックスをどのようなユーザーが購入しているのか尋ねると、以下のような返答でした。
「ハイラックスを購入する人は、スポーツを楽しんだり、ファッションとしてドレスアップするお客さまが中心です。荷台に荷物を積んで仕事に使うお客さまはほとんどいません。
パーソナルカーとして使われることから、ボディコーティングなどを施工する人が多いです。
また、ディーラーオプションパーツでは、荷台に被せるソフトトノカバーや荷台を保護するベッドライナーなどが人気です。仮に荷物を積むとしても、荷台を傷つけないように、これらのパーツで保護するのです」
ソフトトノカバーの価格は18万7000円、ベッドライナーも10万円以上のパーツです。これらを装着して、荷台を大切に使っている人が多いようで、日本におけるピックアップトラックはもはや趣味の対象になり、ビジネスカーではありません。
そうなった理由は、前述の通りキャブオーバータイプの商品力が高まり、普及も進んだからです。とくに軽トラックの普及が著しく、2019年に新車で販売された43万台の軽貨物車のうち、18万台を軽トラックが占めました。
軽トラックが好調に売れる理由は、合理性が優れているからです。荷台長は前述の通り1940mmと長く、荷台幅も1410mmなので、軽自動車サイズでありながら十分な量の荷物を積めます。
軽自動車サイズのキャブオーバータイプだから、ホイールベースは短く、最小回転半径も3.6mに収まります。住宅街の裏道から、直角に曲がることが多い農道まで、運転しやすいです。
価格も安く、「キャリイKC」は73万5900円です。その一方で、衝突被害軽減ブレーキや各種の快適装備を乗用車と同等に充実させたグレードもあり、ニーズに応じて選べることも大切な特徴です。
そんな軽トラックですが、昨今はOEMが普及しています。キャリイは、日産、マツダ、三菱にも供給され、製造メーカーのスズキを含めると、国産自動車メーカー8社のうちの4社が扱っています。
ハイゼットトラックも、トヨタとスバルに供給され、製造するダイハツを含めて3社が販売。OEM関係を結ばないのはホンダのみで、同車は「アクティトラック」を製造販売していますが、2021年6月に終了する予定です。
そうなると軽トラックは、OEMを除くと実質的にキャリイとハイゼットの2車種のみということになります。
このようにOEMが増えた理由は、軽トラックは競争が激しく、その結果として価格も安くなったからだといえます。薄利多売の商品なので、大量に生産しないと採算が取れません。そこでOEMを利用して、同じクルマを複数のメーカーが販売しているのです。
以前はスバル、マツダ、三菱も軽トラックを自社生産していましたが、薄利多売の対応が困難になり、撤退しました。しかしラインナップがなくなると軽トラックの顧客が離れてしまうので、OEM車を導入して繋がりを保っています。
※ ※ ※
ピックアップトラックには独特の魅力がありますが、なかでも軽トラックの実用性は抜群です。日本の物流に対する貢献度は、数ある自動車のカテゴリーのなかでも最強といえるでしょう。
機会があったら、軽トラックを運転してみると良いでしょう。小さなボディで小回りの利きが抜群に優れ、広い荷台を確保しながら、居住性も決して悪くありません。
超絶的な実用車なのに、運転していると何だか楽しい気分になってきます。軽トラックは、小さくても凄いクルマなのです。
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