米国で国産旧車が熱い!! ホンダ「N360」の輸出仕様は360万円で落札!
くるまのニュース / 2020年11月10日 11時50分
ホンダの4輪創成期に作られた「N360」と「Z360」の輸出仕様の「N600」と「Z600」が、アメリカ合衆国のオークションに登場。果たして近年の「ジャパニーズ・クラシック」人気はこうした小さな日本車にも及んでいるのか、レポートする。
■ジャパニーズ・クラシック人気は、小さなクルマにまで波及!
クラシックカー/コレクターズカーのオークション業界最大手のRMサザビーズ社は、北米インディアナ州エルクハートにて2020年5月に開催するはずだった大規模オークション「THE ELKHART COLLECTION」を、予定から約半年の延期に相当する10月23-24日に、対面型とリモート入札の併催でおこなうことになった。
2輪/4輪合わせて280台を超える自動車が集められるこのオークションでは、主に第二次大戦後に生産されたアメリカやヨーロッパの名車・希少車たちが勢ぞろいする。
また、近年世界的な人気を博している「ジャパニーズ・クラシック」も複数が出品。軽自動車を含む、小さな国産旧車たちが大挙して出品されたことも注目に値しよう。
今回はそのなかから、創成期のホンダが軽自動車から発展させた、2台の輸出向け600ccモデルについてオークションレビューする。
●1970 ホンダ「N600」
ホンダ「N600」は、1万5000−2万ドルというエスティメート対して3万4720ドル、日本円にして約360万円で落札された(C)2020 Courtesy of RM Sotheby's
最初に紹介するのは、1970年型の「N600」。そしてN600というクルマのあらましを紹介するには、ベースモデルとなる「N360」について解説せねばなるまい。
1966年の東京モーターショーでショーデビュー。翌1967年3月から正式リリースされたN360は、ホンダが得意とする2輪オートバイに由来した、空冷並列2気筒SOHCエンジンを搭載していた。
このエンジンのボア×ストロークは62.5mm×57.8mm、排気量は354ccで最高出力31ps/8500rpmという、当時の軽自動車としては相当な高出力にして高回転型のパワーユニットであった。
4速マニュアルトランスミッションは、初期型ではオートバイの構造に近いものであった。エンジンと直列に配置されるコンスタントメッシュ(常時噛み合い)式ドグミッションが搭載されたのは、やはりコストダウンを期してのものだったという。
しかし、この時代の360cc軽自動車では30ps越えのクルマは珍しく、こののちパワーウォーズを引き起こす存在となった。その上、ライバルたちと比較してもリーズナブルな価格も相まって人気を博した。
特に、1960年代に世界的なファッションアイコンとなっていたBMC「ミニ/ミニ・クーパー」に憧れる当時の若者の間では「Nコロ」ないしは「Nッコロ」などとも呼ばれ、ミニへのコンプレックスを抱えながらも大ヒットを飛ばしたのだ。
そして、N360の発売から約半年後となる1967年12月に、まずはハワイ州から先行発売、翌1970年春からアメリカ本土でもリリースされた「ホンダN600」は、N360に600ccのエンジンを搭載した海外向けバージョンであった。その多くが、アメリカ合衆国やヨーロッパに向けて輸出された。
パワーユニットは、N360と同じく空冷2気筒SOHC。ボア×ストロークは74mm×69,6mmで総排気量は598cc。最高出力は43psに達し、最高速度130km/hをマークすると標榜された。
この時代のヨーロッパでは、戦後の経済危機から脱出したことに伴って自動車メーカーの生産モデルたちも、例えば850ccでスタートしたBMCミニが1000ccになったように、続々と大型化していた。最小クラスにあたるリーズナブルな小排気量マイクロカーは、もはやフィアット「500」くらいになっていた。
またライバルの減少に加えて、このクラスとしてはかなりの高出力であることが、オートバイレースやF1レースで知名度の高いホンダのイメージとリンクし、日本国内のN360と同じく、N600は若年層のカスタマーを中心に一定のセールス実績を収めたとされている。
今回の「THE ELKHART COLLECTION」に出品されたのは、1970年に北米でデリバリーされた個体。フルレストアが施されたばかりとのことで、RMサザビーズ社の公式WEBカタログに添付される写真たちも、その美しいコンディションを高らかにアピールしている。
とはいえ、日本の旧車マーケットでは、同じホンダでも「エス」の半額以下で入手できそうな「Nコロ」なのだが、近年のアメリカにおけるマイクロカー人気を反映してだろうか、1万5000−2万ドルという、同じ「THE ELKHART COLLECTION」における「S600/S800」とまったく同じエスティメート(推定落札価格)が設定された。
そして、実際の競売ではぐんぐんと入札が伸び、終わってみればエスティメートの約2倍にあたる3万4720ドル、日本円にして約360万円で落札に至ったのだ。
ちなみに600ccエンジン搭載車は、1968年6月から日本国内マーケットでも「N600E」として発売されていたが、税金や車検など軽自動車としての優遇措置が受けられないことから、わずか半年間で販売を終了したとされる。
日本向け生産台数は極めて少なく、日本国内の旧車マーケット/中古車市場でも見かけることがないわけではないのだが、せいぜい数年に1回レベル。
それでも300万円以上という価格はめったにないことであり、やはりアメリカにおけるマイクロカー人気は健在であると認めざるを得ないようだ。
■通称「水中メガネ」の驚きの落札価格とは
「THE ELKHART COLLECTION」コレクションに出品された、もう1台のホンダ軽自動車由来のマイクロカーは、N600と基本を一にするスポーツクーペである。
軽自動車初のスペシャリティカーとしてデビューを飾り、今なおホンダ・エンスージアストの間で愛され続けているホンダ「Z360」の輸出向け拡大バージョン「Z600」である。
●1972 ホンダ「Z600」
ホンダ「Z600」は、1万5000−2万ドルというエスティメート対して2万5760ドル、日本円にして約270万円で落札された(C)2020 Courtesy of RM Sotheby's
ホンダZ360は、N360をベースとして開発され、1970年10月にデビューした。また1971年12月にはN360の実質的後継車、ホンダ初代「ライフ」のプラットフォームを流用する後期型に進化したのち、1974年まで生産された。
日産S30系「フェアレディZ」を小さくデフォルメしたと評されることもあったというボディは、当初はいわゆる「ファストバック」で企画されていたとのこと。
ところがデザインの中途段階において、後席にもいくばくかのヘッドルームを設けるために後方までルーフを伸ばしたことから、テールエンドはエステートワゴンのごとく斜めにカットしたグラスハッチとされたのが、エクステリアにおけるもっとも大きな特徴となった。
そして、このグラスハッチを縁どる黒いプラスティック製枠の形状と色から、ファンの間では「水中メガネ」のニックネームとともに愛されてきたのだ。
ホンダZの登場、ダイハツは「フェローMAXハードトップ」、スズキは「フロンテ・クーペ」、そして三菱も「ミニカ・スキッパー」と、スペシャリティクーペを続々と投入。日本では一大勢力を築くことになったのだが、その一方でホンダZは輸出バージョンも生産された。
N600と同じ空冷並列2気筒600ccエンジンを搭載し、北米では「HONDA 600 coupe」、欧州では「HONDA Z600」の名称で販売されたという。
パワーユニットはN600と共用とされるものの、手もとの資料によると最高出力は45hp/6600rpm、最大トルクは5.2kgm/5000rpmと、N600の公表値とは若干異なるスペックとなっている。
これは仕向け地による仕様や計測法の違いか、あるいは実際にチューニングが異なるかは不明なのだが、ともあれ車両重量はわずか475kgという軽さを利して、最高速度145km/hを標榜する、なかなかのスポーツカーであったようだ。
Z600クーペは、北米で9500台あまりが販売されたといわれる。しかし、クルマの性格上か残存数は多くなく、現在ではかなりの希少車。
その中の1台で、比較的良好なコンディションと見受けられる個体に、RMサザビーズ社は1万5000−2万ドルというエスティメートを設定した。
そして実際の競売ではエスティメート上限を遥かに超える2万5760ドル、日本円換算で約270万円という上々の価格で落札となったのだ。
ただ、同時に出品されたN600と比べてしまうと、落札価格にいささかの違いはあるのも事実。希少性という点においてはZ600がN600を上回ると思われるのだが、やはりコンディションの差が雌雄を決したと見るべきなのだろう。
ちなみに、同じRMサザビーズ社が9月に開いた「AUBARN FALL」オークションでは、同じ1972年型ホンダ「Z600クーペ」が、2750ドル(約29万円)という驚くほどの安価で落札されている。しかし、これは写真を見れば「さもありなん」といいたくなるようなコンディションだった。
よほど特別なヒストリーを持つ特別な希少車でもない限り、コンディションがプライスを決定する重要な要素であるのは、洋の東西を問わず間違いないようである。
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