「修復歴アリ」の中古車が安いのには理由がある!? 修復歴車の境界線とは
くるまのニュース / 2020年11月21日 11時10分
同じ車種の中古車であっても、「修復歴アリ」のクルマは価格が安く設定されています。どこまで修理したら修復歴アリになるのでしょうか。修復歴アリの中古車を購入する場合の注意点やチェックポイントを整備士に聞いてみました。
■「修復歴」アリ/ナシの境界線はどこに?
中古車は、新車よりも安い価格で購入できることや、すでに新車として販売終了となったクルマが購入出来るのが魅力です。中古車を購入するときに中古車サイトなどをチェックしていると、グレードや年式、走行距離といった情報のなかに、「修復歴」という項目があります。
修復歴には「アリ」と「ナシ」が存在しますが、「修復歴アリ」のクルマが「ナシ」のクルマよりも安いのはなぜなのでしょうか。
修復歴アリ(修復する必要があった)クルマは、そのぶん資産価値が低くなり、年式や走行距離はもとより、安い価格でないと買ってもらえないために安めの中古車価格になる、ということです。
「日本自動車査定協会」のサイトには、修復歴アリの定義が以下のように記載されています。
●修復歴車の定義
「統一基準として修復歴車と定義されるのは、骨格(フレーム)部位などを交換したり、あるいは修復(修正・補修)したもの」
つまり、事故や災害などでフレームの一部を交換や修正する必要があるほどの修復が必要だったクルマということです。
現在のクルマのほとんどは、軽量化と高剛性、安全性を高次元で実現させるために、モノコック構造のフレームを採用しています。
車体を軽くするために高張力剛板をブロック別に加工し、各部をしっかり溶接することで出来上がるモノコック構造ボディですが、最近の衝撃吸収安全ボディは、エンジンが入るフロント部分やトランクなどがあるリア部分を潰れやすくすることで、外部からの衝撃をより吸収して乗員の安全を確保する構造になっています。
ただしフレームの前後が潰れるだけでなく、この衝撃自体をフレーム全体で受け止めることでさらに乗員を守る構造になっているので、強い衝撃が加わるとボディ全体にその影響が及んでしまうというわけです。
そして修復歴は、以下の箇所を交換や補修することを指しています。
「フレーム(サイドメンバー)」(前後に貫かれた左右2本の厚い剛板製レール)
「クロスメンバー」(剛性や強度を向上のために横方向に設置される梁のような剛板)
「インサイドパネル」(エンジンを守る左右フェンダーの内側部分)
「ピラー」(ボディとルーフをつなぐ柱の部分。前からA、B、Cと呼ばれる)
「ダッシュピーラー」(エンジンルームと車内を隔てる隔壁板)
「ルーフパネル」(ルーフ部分を構成する外板部分)
「フロア」(車内の床に当たる外板部分)
「トランクフロア」(トランクと車内を隔てる隔壁板)
ほかにも、「ラジエーターコアサポート」(ラジエーターやヘッドライトが取り付けられているクロスメンバーの一種)なども、交換や修正された場合は修復歴アリになります。
こうしてみると、クルマのなかでもかなり重要なパーツに影響が出るほどの衝撃を受けて交換や修理・補修されて修復歴アリになるのです。
単なるケアレスミスによる軽微な修理は、修復歴アリにはなりません。
また、たとえばフェンダーが大きくへこんだり、リアバンパーが潰れてしまっても、フレームに支障がなければ修復歴にはカウントされないことになっています。
■修復歴アリ車のチェックポイントは?
高額なスポーツカーなどで修復歴アリになると、ナシの車両よりも数十万円もやすくなるケースもあるため、つい手を出しそうになりがちです。
修復歴アリのクルマかどうか、また、修復歴アリのクルマを購入する場合は、どこをチェックすべきなのでしょうか。
中古車を購入するときは必ず現車確認をおこないましょう
数多くの修復歴アリクルマを整備・修理してきた整備工場に勤務している整備士S氏に、注意点やチェックポイントなどを聞いてみました。
「経年劣化している中古車で、さらに修復歴アリのクルマは、よほど注意しないと後悔することもあります。できれば修復歴ナシの中古車を購入するほうが安心ですが、それでも人気車をできるだけ安く買いたい人は、購入前に現車を細かくチェックすることが必要です」
チェックするといっても、外装はともかく、クルマの内部はなかなか見ることができません。
すべてチェックできないのが残念ではありますが、それでもどこをどのように修復したのかを知ることはできそうです。
「クルマは基本的に左右対称に作られています。見た目のバランスがおかしかったり、ドアの開け閉めに違和感がある場合は、しっかり修復できていないケースもあります」(整備士S氏)
S氏が実際に修理したケースで、修復歴アリの中古のスポーツカーで事故を起こし、車両の状況を確認したところ、購入以前の修復で左のサイドメンバーのフロント部分の亀裂が修復されていなかったことがあったといいます。
見えるところだけは修復されていたものの、内部は歪んだフレームが切りっぱなし、溶接すべき場所も溶接されていないなど、素人では見えない部分に手が加えられていなかったとのことです。
それが原因でクルマのコントロールが効かなくなり、事故を引き起こした可能性もあり得るのだそうです。
「スポーツカーの場合はとくにしっかり直していないと、スポーツ走行でハンドルが左右に取られたり、突然挙動が変わることもあります。しっかり修復されていないと命に関わることもあるので、修復歴ナシのクルマを選んだほうが安全です」(整備士S氏)
修復歴の有無は、ボンネットやトランク、ドアの開口部などから見えるフレームに塗り直した跡がないか、ネジの締め直した跡がないか、ドアのチリ(隙間)が一定かなどである程度判断できるそうです。
「フレームが歪んでいると、そのあとの修理で新品のパーツが装着できないケースもあります。そのため、タワーバーなど後付けパーツ装着のためにネジ山が傷付いたのか、それとも補修のために傷がついたのかを判断するのは非常に難しいです」(整備士S氏)
では、修復歴アリの中古車は、絶対に買ってはいけないのでしょうか。
「必ずしも全部がダメというわけではないと思います。試乗しても違和感がなく、あまり高速やスポーツ走行などをしないのであれば、安く買えるのは魅力でしょう。
ただ、スポーツカーでスポーツ走行したり、SUVでオフロードを走るなど、通常の走行以上の力が加わるような走り方をする機会がある場合は、避けたほうがいいです」(整備士S氏)
※ ※ ※
最近ではインターネットを通じて、現車を確認せずに中古車を購入するケースも増えています。とくにオークションでの個人売買では、売り手の言葉を信じるしかありません。
それでも修復歴アリの中古車を購入したいと思うなら、クルマに詳しい友人や知り合いと現車を確認するのもひとつの手です。
購入前だと欠点や問題点を軽視してしまう傾向があり、そんなときに指摘してくれる人がいるのといないでは、そのあとの展開が大きく変わってきます。
安く買えるのが魅力の修復歴アリの中古車ですが、掘り出し物を手に入れるためには、いつも以上の観察力と注意を払って現車をチェックしましょう。
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