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レストアベースでも約5500万円で落札! ボンドカーは「DB4」「DB5」どちらが正解?

くるまのニュース / 2020年12月19日 19時10分

世界でもっとも有名なクルマの1台、アストンマーティン「DB5」は、ボンドカーとしてその名を知られている。しかし、映画『007 ゴールドフィンガー』では、代役として「DB4」が使われており、両車の違いが分からない人も多いだろう。そこで、DB4とDB5の違いについて、最新オークション結果をもとに調べてみよう。

■不動の人気「DB5」は高値安定

 2020年10月26日から31日まで、RMサザビーズ英国本社が再びオンライン限定でおこなった「LONDON」オークションにおいて、一見そっくりな2台のアストンマーティンが出品されていた。

 映画007シリーズで「ボンドカー」としても活躍し、誰もが知るアストンの歴史的名作「DB5サルーン」と、その先代にあたる「DB4ヴァンテージ・サルーン」である。

 今から四半世紀前に東京都内に存在した、アストンマーティンを得意とするクラシックカー専門店で勤務し、DB4/DB5ともにミントコンディション(新車同様)からレストアベース車まで、数多くの個体に接する機会を得た筆者が、2台のアストンの違いを説明するとともに、「LONDON」オークションのレビューをお届けしよう。

●1965 アストンマーティン「DB5」

レストアベースとしても、アストンマーティン「DB5」は約5500万円もするのが現状だ(C)2020 Courtesy of RM Sotheby'sレストアベースとしても、アストンマーティン「DB5」は約5500万円もするのが現状だ(C)2020 Courtesy of RM Sotheby's

 1963年夏にデビューしたDB5は、デーヴィッド・ブラウン時代を代表する偉大な三部作、DB4‐5‐6のなかでも、総合バランスや完成度の圧倒的な高さから「最高傑作」と称され、現在のクラシックカーマーケットにおける評価ももっとも高いモデルである。

 そのオリジンとなったのは、1958年に発表されたDB4。完全なハンドメイドによる美しいアルミニウム製ボディに、こちらも総アルミニウム軽合金製の3670cc直列6気筒DOHCユニットを搭載。1960年代初頭における世界最速車のひとつとなったモデルである。

 そして満を持して登場したDB5は、DB4の最終型シリーズ5と比較すると、3995ccまで拡大されたエンジン。独ZF社製5速トランスミッションの採用(最初期型のみはデーヴィッド・ブラウン自社製4速が組み合わされる)。後席のヘッドルームを拡大するため若干かさ上げしたルーフラインなどが比較的目につく変更点だが、そのほかにも細かい仕様変更は多岐にわたっていた。

 DB4時代には、トリプルキャブレターは高性能版「ヴァンテージ」の特権だったが、DB5からは標準モデルにも3連装SUキャブが与えられ、DB4ヴァンテージから16psアップの282psを発揮していた。

 今回の「LONDON」オークションに出品されたDB5サルーン(アストンマーティンではクーペのことをサルーンと呼ぶのが伝統)は、後継車「DB6」のデビューと同じ1965年に製作された最終期の1台。

 RMサザビーズ社のWEBカタログでは「Perfect opportunity for a no-expense spared restoration(大きな費用をかけずに修復できる絶好のチャンス)」と謳われているように、ボディ表面に艶はなく、レザーシートも所々に破れがある。また、ボディカラーは元色のシルバー・バーチから塗り替えられているので、ひと思いにリペイントしてしまってもよい。つまり、内外装のレストアを施すためのベース車と見るのが妥当だろう。

 しかし、2010年代中盤のクラシックカー価格高騰に伴い、DB5はもっとも相場価格を上げた人気車のひとつとなり、ひと頃は日本円で1億円以上の取り引きが世界各地でおこなわれていたことも記憶に新しい。

 それゆえ、この個体に設定された37万5000ー42万5000ポンド、日本円に換算すれば約5120万円ー約5800万円のエスティメートは、このコンディション相応と思われた。

 そしてオークション最終日におこなわれた競売では順調に入札が進められ、終わってみれば手数料込みで40万7000ポンド、邦貨換算にして約5500万円で落札された。

 蛇足ながら、筆者がスペシャルショップの現場にいた1990年代中盤の相場感であれば、600万ー700万円あたりが妥当とも見えるコンディションなのだが、やはり現代のマーケットにおけるDB5が、不動の人気モデルであることを実感させられるオークション結果であった。

■映画『007 ゴールドフィンガー』で「DB5」の代役をした「DB4」とは

 RMサザビーズ社のオフィシャルWEBカタログで、この1963年型DB4ヴァンテージ・サルーンの写真を一見すれば、「あれ、2台ともDB5じゃないの?」と、いぶかしげに思われる向きも多いことだろう。

 たしかに一見したところではDB5に酷似しており、ヘッドライトが露出した典型的なDB4のイメージからは外れていると思われても仕方があるまい。

 でも、このクルマは間違いなくDB4。DB5の誕生直前に、ごく少数が製作された「DB4シリーズ5ヴァンテージ」というモデルなのだ。後継モデルとなるDB5のプロトタイプのような存在であり、映画『007 ゴールドフィンガー』では、生産が間に合わなかったDB5の代役として登場している。

●1963 アストンマーティン「DB4 シリーズ5ヴァンテージ」

生産台数の少なさから、今後値上がりが期待されるアストンマーティン「DB4 シリーズ5ヴァンテージ」(C)2020 Courtesy of RM Sotheby's生産台数の少なさから、今後値上がりが期待されるアストンマーティン「DB4 シリーズ5ヴァンテージ」(C)2020 Courtesy of RM Sotheby's

 1958年に「シリーズ1」がデビュー以来、DB4はほぼ毎年のペースで細部に改良が加えられていたが、とくに1963年から製作された最終型「シリーズ5」の高性能バージョン「ヴァンテージ」に限っては、伝説のレーシングモデル「DB4GT」と同じ流線型のフロントスタイルである、翌年登場したDB5以降にも採用された「カウルド・ヘッドライト」を選択できるようになっていた。

 それでも、少しだけ低くてスマートなルーフライン、およびそのルーフラインからトランクフードに収束するスムーズな造形は、DB4独自のもの。こと美しさという観点においてはDB5に勝るとする意見も多く、筆者もその見方に賛同する。

 さらに筆者が訴えたいのは、「DB」の名を冠したヒストリック・アストンといえば誰もが思い出す名車DB5に対して、いささか陰に隠れてしまう感もあるDB4だが、その走りの魅力は決してDB5に見劣りするものではないことである。

 むしろエンジンのストロークが短く、排気量がわずかながら少ないゆえに一気に吹け上がるエンジンフィールや、ていねいな操作さえ心がければカチカチと心地よい感触を示す、デーヴィッド・ブラウン社自製の4速マニュアルトランスミッション。

 また、DB5に比べるとDB4シリーズ5は、約120kgほど車両重量が軽いこともあり、車重の差よりもさらに軽く感じられるハンドリングも相まって、こと操縦する楽しさにおいてはDB5にも勝ると思われる。

 加えて、ある一定の回転域から爆発的に盛り上がるパワー感や、DB5よりも明らかに雄々しく、まるでDB4GTを連想させる豪快なサウンドは、あえてDB4ヴァンテージを「指名買い」するだけの理由になり得ると思うのだ。

 今回RMサザビーズ「LONDON」オークションに出品された1963年型DB4ヴァンテージ・サルーン・シリーズ5は、のちにDB4ベースに作られた「ヴァンテージ仕様」ではなく、メーカーオリジナルの「Special Series」高圧縮比ヘッド+3キャブのヴァンテージ266psエンジンを搭載した75台(ほかに諸説あり)のなかの1台とされる。

 ただし、もう1台のDB5サルーンと同じく、実質的には「レストアベース」といえるコンディションである。

 オークションの公式WEBカタログの写真を見る限りでは、ボディ表面上に目立つ傷みなどはなく、このまま乗り続けられそうにも映るが、おそらくこの種のクルマを求めるオーナーならば、再塗装を検討するであろうレベルにある。

 またインテリア、とくにフロント2席やカーペットには長年の使用感がはっきりと現れており、こちらは張替えすることが前提と思われる。

 そしてこのDB4ヴァンテージに、RMサザビーズ社は37万5000ー42万5000ポンド、つまり日本円換算で約5120万円ー約5800万円という、もう1台のDB5サルーンとまったく同等のエスティメート(推定落札価格)を設定した。

 このエスティメートを見た筆者は、以前ならば、DB5よりは若干ながらリーズナブルな価格で取り引きされる機会が多かったDB4ながら、やはりシリーズ5ヴァンテージであれば同等の評価を受けるようになってきた……?と考えていた。

 ところが実際の競売ではビッド(入札)が振るわなかったのか、残念ながら流札。39万ポンド(約5280万円)のプライスをつけて「Still For Sale(継続販売)」となっていたが、その後売買が成立したようだ。

 でも、この価格でDB5よりも遥かに希少なDB4ヴァンテージ・シリーズ5が手に入るならば、のちのちのレストア費用まで含めたとしてもリーズナブルと感じられてしまうのは、筆者が元クラシック・アストン屋だったからなのであろう。

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