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初物づくしの未来のスーパーカー、ポルシェ「959」はテクノだった!

くるまのニュース / 2021年1月1日 18時10分

現在に続くポルシェの成功のターニングポイントとなった「959」とは、どのようなクルマだったのだろうか。試乗の記憶を辿りながら紐解いてみよう。

■「959」とは、クルマの未来をつかみとる存在だった

 ポルシェ「959」とは、いったい何だったのか。ポルシェの、否、ひょっとすると、クルマの未来そのものをつかみ取る存在、だったのかもしれない。

 振り返ってみれば、959の成り立ちには、市販車として、およそドイツ車らしくない思想があふれている。

●初物づくし「未来」のスーパーカー

 全てがこの時代にとって初物づくし。ケブラーなどの軽量マテリアル、まったく新しい4WDシステム(もっとも四輪駆動車の実現はフェルディナントがチシタリアで試みて以来の宿願というべきものでもあった)、最新のサスペンションシステム、エアロダイナミクスの徹底追及、レーシングエンジンの公道最適化(シーケンシャルツインターボ)、などである。

 これらを全て詰め込んだ結果、959は、グループBカーとしての存在を越え、高価でかつ高性能なロードゴーイングカーとして、限られた顧客の元へと勇躍、旅立っていったのだ。

 そして、マニアの口の端によくのぼる、「手間のかかる959」話もまた、ほとんどプロトタイプに近い成り立ちを考えれば、さすがのポルシェといえども仕方がなかったのだなあ、と今となっては理解するほかない。(だからこそ、専用工具が積まれていたりする!)

 フロントピラーの立ち上がったキャビンに911の懐かしい面影を見つけることができる。それ以外のスタイリングには、今なお見るべき点が多い。

 否、皆、959を間近でじっくり見たことなどないのではないか。

 911との大まかな類似性と、あの時代の空力の考え方が逆に、多くのクルマ好きの視線を、自らの肢体へじっくり集中させることを妨げたのかもしれない。

 まるでウブな女性のように。

 特徴的ないくつかのポイント、たとえばボディ下部のダクトや、ブリッジタイプのリアウイングなどに注目するだけで、十分、959を見た! という気になってしまうのであろう。

 ところが、実際に959を目の当たりにしてみれば、驚くべき造形ディテールがそこかしこに散らばっていることを発見することだろう。

 フロントフェンダーのドア側から、サイドステップ、リアフェンダーの前インテーク周辺、フェンダーそのもの、そして、なだらかに立ち上がるリアウイングに至るまで。そのひとつひとつが描く巧妙で美しい曲線群は、じっくり見た者だけにうっとりさせる権利を与えるのだと思う。

 そう思って、それぞれの丸みを帯びたラインを手でなでてやると、粘土を捏ねる際の、あのエロティックな感覚によく似た気分にさえなっていく。

 とくに、リアフェンダー前のインテークやリアウイングの立ち上がりにみられる曲線などは、触ってみると得もいえず柔らかなラインで、恍惚となってしまう。

 後方、やや上からの眺めがもっとも素晴らしい。お尻が下がったように見えるところが、かえって艶っぽい。そして、全体的なシルエットは、実は「935モビーディック」の進化版のようにも見えてくる。「911」をベースにした未来のスポーツカーへの提案はやはり、その心臓部と同様、実践的モータースポーツのDNAを有していたというほかない。

 カチャと耳に心地いい音を聞きながらドアを開ける。洒落たトーンのシートに腰を下ろす。80年代の最新。シンセサイザーミュージックに憧れた、懐かしい記憶が蘇ってくるようだ。

 そう、コイツはテクノである。

■尽きることなき「959」伝説とは

 せっかくだ。試乗の記憶を思い出そう。ステアリングホイールを握りしめ、しっかと前を向けば、これまた懐かしい景色が広がっている。とはいえ、注意深く見れば、フルスケール340km/hメーターやトルクスプリットメーター、ダンパー調整スイッチなど、911とはまるで異なるエレメントもすぐに発見できる。

●実践的モータースポーツのDNA

基本デザインはルイジ・コラーニによって手掛けられた基本デザインはルイジ・コラーニによって手掛けられた

 ミッションは6段。左奥から順にG(ゲレンデ)→1→2−5というパターンで、Gのさらに左側にRがあった。

 ノーマル911と同様に、左手でキーを捻り、エンジンを掛ける。水冷ヘッド+空冷ブロックというCカー由来の水平対向6気筒ツインターボエンジンは、用意された舞台の違いに戸惑うこともなく、いともあっさりと目覚め、控えめだが力のこもったサウンドを地に響かせた。

 操作系では、全て、いたってフツウの所作で通用する。964や993世代の非ティプトロニック911に慣れた人であれば、苦もなく動かすことができるはず。もっとも、いくら公道最適化が図られているとはいえ、そこは2.85リッターのレーシング直系ユニットであるがゆえ、1450kgの軽量重量であっても最初のひと転がしだけはちょっと重々しく、アイドリングスタートで軽く出発、というわけにはいかない。重めのアクセルペダルを慎重に開けて、スムースな発進を試みてほしい。

 動き出せば、あとはポルシェだ。この時代の911と同様に、フェンダーの峰がくっきりとみえているから、とても走らせやすい。シーケンシャルツインターボというだけあって、加速フィールは非常に滑らかで、どっかんターボではない。最近の電子制御の効いたハイパフォーマンスエンジンモデルとよく似ている。

 スムースでありながら、ときおり腰がスッと浮くような力強さを感じさせる。アクセルを踏んだまま、どこまでも加速してくれそうな雰囲気が漂う。その感覚は、途中までは気持ちいいものだが、250km/hを超えてくると、スリルが幅を利かせるようになる。そのタイミングで、岩のようなブレーキペダルを踏み、車速を落とすのだ。ただし、踏みシロの少ないぶん、ブレーキコントロールは難しい。

 加速から減速、そしてコーナリングという一連の基本動作のなかで、このクルマには新しさと古さが同居している。それが快感とスリルを適度にミックスさせるといっていい。コンセプトやパッケージはまったく違うけれども、時代の画期というべきライドフィールを見せるという点で、フェラーリ「F40」と同種の存在であることは間違いない。正に、スーパーカーのカッティング・エッジである。

 取材車両は1985年に生産されたらしい。ロードカーのショーデビューが1985年秋のフランクフルトショーであり、実際にカスタマーカーのデリバリーが始まったのは1986年後半以降だと思われるから、ひょっとするとこの個体はプロトタイプの可能性もあるだろう。いずれにせよ、337台のうちの1台。レアである。

 959伝説は、尽きることがない。アメリカでは1999年以降、限定登録(ショー&ディスプレイ)が可能となった。以来、いっきにコレクターズアイテムに。ビル・ゲイツも、保税倉庫から愛車を引っ張り出すのを新車のときから待ち続けていた。さらには1992、1993年に追加で作られた8台の豪華仕様のこと、アメリカ向けに規格されたレーシングカー登録の「959S」のこと、などなど……。ポルシェの成功は全て959以降のことだった。

* * *

●PORSCHE 959
ポルシェ959
・全長×全幅×全高:4260mm×1840mm×1280mm
・エンジン:空冷水平対向6気筒SOHC 24バルブ
・総排気量:2850cc
・最高出力:450ps/6500rpm
・最大トルク:51.0kgm/5500rpm
・トランスミッション:6速MT

●取材協力
魔方陣 スーパーカーミュージアム

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