ユーザーは疑問視? 「ランドクルーザー」と「ディフェンダー」で異なる方向性の行方
くるまのニュース / 2021年1月5日 10時10分
どんな荒れ果てた道でも、どんな過酷な環境下でも最後まで走り抜く信頼性と長い歴史のブランド力を持つトヨタ「ランドクルーザー」とランドローバー「ディフェンダー」。似た者同士とされていましたが、ディフェンダーは大きく方向性を変えてきました。今後、それぞれのオフロード4WDはどうなっていくのでしょうか。
■オフロード4WDで対を成す「ランドクルーザー」と「ディフェンダー」
スズキ「ジムニー」の人気によって、ここ数年でオフロード4WDが復権しています。
街にも溶け込むスタイリッシュなSUVとは異なり、泥だらけが似合うオフロード4WD。
昨今ではよりヘビーデューティな雰囲気の、旧型のトヨタ「ランドクルーザー」やジムニーなどが、若年層の心を掴んでいます。
そんなリバイバルの兆しのなかで、2020年4月にひっそりと1台の新型車が日本に上陸しました。
ランドローバー「ディフェンダー」です。ディフェンダーというマスコットネームは、ランドローバーブランドの源流となったシリーズIのDNAを受け継ぐ証しですが、シリーズI、II、III、ランドローバー90/110、そして先代ディフェンダーと新型とではある点で大きく異なります。
それは構造です。1948年に、ジープ「MB/GPW」の模倣から始まったランドローバーは、ジープ同様のラダーフレーム構造+リジッドアクスル式サスペンションという造りをしていました。
アッパーボディこそアルミ製でしたが、それが低重心と高耐久性につながり、以後、世界中で使われるワークホースとして進化してきました。
ランドローバーブランドはその後、ラインナップに「レンジローバー」や「ディスカバリー」、「フリーランダー」などのマルチパーパスな車種を増やしていきましたが、名前が変わってもディフェンダーだけは原点のコンセプトを守り続けていたのです。
ところが、2019年にフランクフルトモーターショーで姿を現した新型は、予想していたとはいえ、親会社の“タタ色”の強いものでした。
ボディはフルアルミ製のモノコックボディ、サスペンションは4輪独立懸架式に変わり、昔からのファンにため息をつかせたのです。
では、なぜフルアルミ製のモノコックボディや4輪独立懸架式サスペンションでは、オールドランドローバーファンは納得しないのでしょうか。
それは堅牢性や悪路走破性の低下を危惧しているからです。ラダーフレーム構造は頑丈な鋼鉄製の骨格によって、路面からの大きな入力を分散させ、アッパーボディに大きな負担をかけないようにできています。これはリジッドアクスル式のサスペンションも同じです。
リジッドアクスル式は、ホーシングという頑丈な鉄のケースにドライブシャフトやディファレンシャルギアが内蔵されているため、路面にある障害物へのヒットに強く、同時に路面からの大きな入力も分散させてくれます。
また左右輪が1本の軸で繋がっているため、片方のタイヤが路面で持ち上げられると、もう片方のタイヤは路面に押しつけられる作用があり、滑りやすい路面でもタイヤのトラクションを有効に使うことができるメリットもあります。
アームの長さによってトラベル量が決まってしまう4輪独立懸架式に比べると、可動幅が大きいのもリジッドアクスル式の美点といえます。
さらにラダーフレームはアッパーボディと分割されているため、例えアッパーボディが破損していても、ラダーフレームやサスペンション、パワートレーンがダメージを受けていなければ走行し続けることができます。
そんなオフロード4WDのセオリーを破ったディフェンダーに乗ってみると、ボディは決してヤワじゃないことが分かります。
捻れ剛性においてはラダーフレームの3倍と謳うモノコックボディは、走り出すとすぐに「プラットフォームがしっかりしている」と驚かされます。
荒れたオフロードを走行しても、ミシッという音ひとつ立てず走ってくれました。
サスペンションは4輪独立懸架式、タイヤはハイウェイテレーンですが、「オール・テレイン・プログレス・コントロール」という電子デバイスのおかげでイージーにオフロードを進むことができました。
電子デバイスといえば、車体の下の状態を仮想的に可視化させる「クリアサイト・グランドビュー」も搭載されており、まさに最先端のオフローダーにふさわしい仕上がりといえるのではないでしょうか。
モノコックボディや4輪独立懸架式サスペンションは、現代的なドライブフィールや安全性、環境性能を実現するためには、マストなものです。
■「ランドクルーザーは地上最後のクルマ」を守り抜くトヨタの思想とは
しかし、それでも新型ディフェンダーには、不安が残るヘビーユーザーも少なくないようです。その不安は、ライバルである「ランドクルーザー」を見れば分かります。
ランドクルーザーは1951年に誕生したオフロード4WDで、ディフェンダー同様にジープを模倣して誕生しました。
当初は「トヨタ・ジープBJ型」という名前でしたが、商標登録の問題から「ランドクルーザー」というマスコットネームに変更。
ちなみにこの名前は、ランドローバー(陸の放浪者)のローバーが、“海賊”という意味もあることから、それを駆逐する陸の巡洋艦という意味で、ランドクルーザーと名付けられたという逸話があります。
市場では常に比較され続けてきたふたつのオフロード4WDですが、ランドローバーブランドのモデルが続々とモノコック化を進めているのに対して、ランドクルーザーはあくまでも伝統的なメカニズムにこだわっています。
それはトヨタ開発陣のなかに「ランドクルーザーは地上最後のクルマ」という信念があるからです。
海外市場で高い人気を誇るトヨタ「ランドクルーザー」(海外の特別仕様車)
ほかのすべてのクルマが故障や経年劣化で動かなくなっても、ランドクルーザーは動いていなければならないという考え方です。
昨今のランドクルーザーは、200系とプラドを見るかぎり、SUV化と電子化が進んでいます。
200系に搭載されている電子デバイス「マルチテレインセレクト」を使えば、オフロードでステアリング操作以外をすべてクルマがやってくれる半自動運転を実現しました。
こうした電子化もまた世のオフローダーの批判を浴びましたが、トヨタはランドローバーとは異なり、70系というワークホースを僻地用に残しています。
実は、これこそがファンのディフェンダーに感じる違和感なのです。
短期間で見ればラダーフレーム構造の3倍の捻れ剛性を持つモノコックボディでも、世界の僻地でのオフロード4WDの使われ方において、10年20年という長期間を耐えることができるのでしょうか。
4輪独立懸架式サスペンションも、アームやピボットを岩にぶつけたとき、果たして走行不能にはならないでしょうか。
整備性の点でも不安が残ります。複雑なメカニズムを多用したディフェンダーが、ろくな整備施設もない僻地で、走行可能な状態を維持できるのか疑問です。
ランドローバーは今後、プロユースのためのバリエーションを増やすと発表しています。
たしかに新型ディフェンダーは、街でも山でも乗りやすく、完成度の高いクルマといえますが、世界で未だ活躍し続けるボロボロのランドクルーザー40系や70系のようになるのか。そのような姿が、新型ディフェンダーでは思い浮かびません。
ちなみに次期メルセデス・ベンツ「Gクラス」もモノコックボディ+4輪独立懸架式サスペンションになるという噂があります。
一方で、ランドクルーザー300系はHV化するものの、ラダーフレームとリジッドアクスル式サスペンションは踏襲といわれています。
乗用車やSUVに比べて、非常に長い年数使われるオフロード4WD。果たしてどちらの選択が正解なのか。その答えが出るのは、21世紀中盤です。
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