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本当に公道を走って大丈夫? 1億円の飛べない宇宙船「アズテック」とは

くるまのニュース / 2021年1月5日 8時10分

1990年代に、まるでSF映画の劇中車のような姿そのままで、公道に解き放たれた「アズテック」とは、どのような経緯で生産されることになったのだろうか。

■SF映画の劇中車のようなクルマ、「アズテック」とは

 母国イタリアのみならず、世界中の大手自動車メーカーからデザインワークを受託していた1980年代のイタルデザイン社は、その傍らで当時のイタリアにおいても、コンセプトカーの発表をもっとも積極的に展開するデザインスタジオのひとつと認識されていた。

 イタルデザイン創立から20周年を迎えた1988年、まだ自動車デザイン界における世界一の社交場だった時代のトリノ・ショーにて、イタルデザインにとっては重要な節目となる近未来的なコンセプトスタディ「Aztec(アズテック)」をワールドプレミアすることになった。

 ショーモデルのアズテックのボディは、アルミに加えてカーボンファイバー、ケブラーなどの新素材を併用。宇宙船を彷彿とさせるデザインのパネルがボディ後半部に配置され、ドア上部はガラスで仕立てたシースルーと、21世紀の現代の常識から見ても、極めて未来的なデザインとされた。

 簡易なソフトトップさえも持たない完全なオープンのコクピットは、左右が完全に仕切られ、それぞれシングルシーターのように仕立てられる。さらに運転席側にステアリングホイールが設けられるのはもちろんだが、助手席にもステアリングのように見えるアシストグリップを配置。一見したところでは、左右どちらがドライバーズシートか分からない、楽しいトリックも仕掛けられていた。

 この時のトリノ・ショーでは、アズテックに加えて、そのキャビンのすべてを3次曲面のポリカーボネイトで構成、前ヒンジで開閉するクーペバージョンの「Aspid(アスピド)」、ホイールベースを200mm延長し4ドアのモノフォルムボディが与えられた6シーターミニバンの「Asgard(アズガード)」も併せてショーデビューを果たした。

 そして、その3台のなかでももっとも露出の多かったアズテックは、単なるショーカーと見ていた世間の予想を覆し、極めて少数ながらシリーズ生産・販売されることとなったのだ。

●「機能と直結したデザイン」を具現化したフォルム

 トリノ・ショーで大きな反響を得たアズテックの生産化プロジェクトは、ショーと同時進行で開始したとされる。まずはジョルジェット・ジウジアーロ氏とともにイタルデザイン社を立ち上げた日本人実業家、宮川秀之氏が経営する「インパクト」社がアズテックの生産権を取得。

 スポンサーの獲得に乗り出した一方で、ドイツのチューニングカースペシャリスト、MTM(Motoren-Tecknik-Mayer)社に、シャシ用コンポーネンツの製作を依頼した。

 ボディパネルの製作は、第二次大戦前から主にフィアットをベースとする数々のフォーリ・セリエを製作し、1980年代後半にはランチア「デルタS4」のボディ製作も請け負っていたイタリア・トリノの老舗カロッツェリア「サヴィオ(SAVIO)」社が担当することになった。

 一方パワートレインについては、あくまで開発初期段階の話だが、V8エンジンを2基搭載し、300km/hを遥かに超える最高速をマークする超弩級スーパースポーツを目指したこともあったとされる。

 しかし、さすがにそれは非現実的と判断されたようで、市販バージョンでは最高出力250psまでスープアップされたアウディ「クワトロ20V」用の水冷直列5気筒ターボユニットを横置きミドシップに搭載。駆動系はランチア「デルタHFインテグラーレ」の4WDシステムを流用することになった。

 ところで、1988年トリノ・ショーのコンセプトカーおよび市販バージョンでも、リアタイヤは大部分を覆い隠すスパッツが取り付けられるが、デザインの初期段階ではフロントもタイヤと合わせて首を振るスパッツの採用が予定されており、実際にそうしたスケッチも残されている。

 しかし、当初から生産化の可能性も模索していたショーモデルのアズテック/アスピドともに、前輪は露出したコンベンショナルなスタイルにて製作されている。

 また、リアタイヤのスパッツ周辺に施されたグラフィックは、VW「ゴルフ」をベースとした4輪自動車ながら、4人の乗員がオートバイのごとくボディにまたがるスタイルで搭乗するという少々突飛なコンセプトのもとに、1986年に発表された「マキモト(MacchiMoto:自動車を意味するMacchina+オートバイを意味するMotoを合わせた造語)」で試行された「メカニズムを外装デザインに取り込む」という方法論から発展したものと解説されている。

 ブレーキオイル量にエンジンオイル量、冷却水量など、車両のコンディションを伝えるコントロールパネルがデザインの一部として強調されるほか、ボディサイドには車両状況を確認する際、コントロールパネルに入力するコードが直接ボディに描かれるのも、アイキャッチとして大きな特徴。

 その隣にある収納スペースには、油圧ジャッキや12Vの外部出力端子、懐中電灯、タイヤのエア注入に使用する電動コンプレッサー、あるいは消火器に電動ドライバーまで装備されているなど、当時のジウジアーロのフィロソフィである「機能をデザインと直結させる」を見事に体現したものであった。

■少なくとも日本に2台は輸入されていた!

 1991年初夏のF1モナコGPにてデモンストレーション走行をおこない、その存在をアピールしたイタルデザイン・アズテックは、同じ年の後半からシリーズ生産へと移行された。

写真上からアズテックのホイールベースを200mm延長し、4ドアのミニバン風ボディが与えられた6シーターピープルムーバー「アズガード」、真ん中がキャビンのすべてを戦闘機のキャノピーのように3次曲面のポリカーボネイトで構成したアズテックのクーペバージョン「アスピド」、そして一番手前が「アズテック」だ写真上からアズテックのホイールベースを200mm延長し、4ドアのミニバン風ボディが与えられた6シーターピープルムーバー「アズガード」、真ん中がキャビンのすべてを戦闘機のキャノピーのように3次曲面のポリカーボネイトで構成したアズテックのクーペバージョン「アスピド」、そして一番手前が「アズテック」だ

 世界限定で50台の生産が見込まれていたとのことだが、最大のマーケットのひとつとして想定されていたはずの日本が、折しもバブル崩壊による景気後退に喘いでいる時期にあったこと、あるいは日本では「1億円」と設定された驚くべき高価格も相まって、実際に製作されたのは25台のみ(ほかに18台などの諸説あり)といわれている。

 しかし、ビジネスの点では成功作とはいえなかったアズテックだが、その未来的なアピアランスは、時のクリエーターたちを大いに刺激することになった。

 生産プロジェクトにおいてサポーターの役割を果たした、日本のさるオーディオメーカーのTVCMや雑誌広告にシンボルとして採用されたほか、「B級ホラーの帝王」と呼ばれたアメリカのロジャー・コーマン監督が、2031年のロサンゼルスが舞台という設定のSFホラー映画『フランケンシュタイン禁断の時空(1990年)』にも登場。それらの露出もあって、今なお90年代カルチャーの語り部として、しばしば取り上げられることになったのである。

 ちなみに日本には、1992年初頭の時点で少なくとも2台が上陸。なぜか千葉・船橋市内の高級輸入車ディーラーのショールームに置かれていたのを、この時期に筆者自身も目撃している。

 その後、所有権が転々としたといわれる2台の内、可動状態とされる1台は国内各地のイベントにも姿を見せていたが、現在の所在に関しては明らかになっていない。

●未来的なスタイリングを披露した3モデル

 アズテックにはドアはなく、ウインドスクリーンを持つ左右ふたつのボディ上部ユニットがセンターフレームを軸に左右に開き、乗員はそこからシースルーのドアシルを跨いで乗り込むという少々トリッキーなデザインを採用する。

 エンジンはアウディ製の直列5気筒20Vターボエンジンで、これをリアミドに搭載し、4輪を駆動するフルタイム4WDのパワートレインを採用した。この4WDシステムは、ランチア・デルタインテグラーレの流用で、5MTのトランスミッションと組み合わされている。

 インテリアは、ジウジアーロが1970−1980年代に積極的に採用していたサテライトスイッチをメーターナセル周囲に配置したステアリングまわりが特徴的だ。ステアリング外径とほぼ同じ大きさのメーターナセルの中のメーターは、アウディ製が流用されている。

 ちなみに、コンセプトカーはワンオフデザインを採用するが、市販版アズテックのテールライトは気づきにくいがアルファ164の流用である。

 同時に発表されたアスピドは、戦闘機のキャノピーのようなポリカーボネイト製のフロント/サイドウインドウ一体式のルーフを採用したクーペバージョン。

 さらにアズテックのホイールベースを200mm延長し、ミニバンに仕立て上げた6シーターのアズガードもラインナップ。市販版アズテックが成功したあかつきには、これらも市販化が見込まれていた。

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