東京オートサロン2021開催中止で改めて考える自動車ショーの近未来とは
くるまのニュース / 2021年1月6日 8時10分
毎年1月に開催され、多くの来場者を集める自動車ショーが「東京オートサロン」だ。本来であれば2021年も1月の15日から17日にかけて開催される予定だったが、コロナ禍の影響でリアルでの中止が決定した。これからの自動車ショーはどうなるのだろうか。そして、どこに向かっていくのだろうか。
■1日の来場者数は東京モーターショーと並ぶ日本最大級のイベント
2020年も押し詰まった12月23日、「東京オートサロン2021」の中止が発表された。
その理由はもちろん「コロナ禍」だ。会場は国内最大級のイベント会場となる幕張メッセではあるものの、3日間に30万人以上が来場するビッグイベントなだけに、人が密になることは必至。ある意味、中止も当然の決断だったといえるだろう。
ちなみに、今回が初の試みとなるオンライン開催の「ヴァーチャルオートサロン」は、予定どおり1月15日の9時より、無料でオープンするという。興味のある人は、公式サイトの専用リンクからアクセスしてみよう。
では、今回は「東京オートサロン」とはどのようなイベントなのか、また、今後の自動車ショーはどうなっていくのかを説明したいと思う。
まず、東京オートサロンとはなんだろうか? それは端的にいえば「カスタムカーの祭典」だ。
自動車のショーといえば「東京モーターショー」という大きな存在がある。東京モーターショーは、自動車メーカー(正確には自動車メーカーが参加する自動車工業会が主催)によって2年に一度開催されるもので、クルマの未来を示唆するコンセプトカーや新型車が並ぶ。
一方の東京オートサロンは雑誌社主催であり、参加の中心は市井のカーショップだ。最近では、自動車メーカーも多数参加するようになったが、あくまでも展示のメインはカスタム車。またカーショップ中心ということもあり、参加が400社を超えるのも特徴だ。
その歴史は古く、第1回目の開催は40年ほど前となる1983年。チューニングカー雑誌『OPTION』初代編集長の提案で、もともとは「東京エキサイティングカーショー」の名称でスタートした。
東京オートサロンという名称は、第5回開催となる1987年から使用されている。そして、会場を晴海から有明、幕張メッセと変えながら規模も拡大。最近では、3日間の開催で来場者は30万人を超えるようになり、2019年1月の開催では、過去最大の33万666人もの来場者数を記録している。
ちなみに、同じ年に開催された「東京モーターショー2019」は、12日間の開催で約130万人の来場者だった。1日あたりは、どちらも約11万人。まさにふたつは双璧と呼べる、日本の自動車業界最大級のイベントなのだ。
そんな人気イベントである、東京オートサロンのリアルでの開催が中止になった。しかし、実際のところコロナ禍による自動車ショーの中止や延期は、もう珍しいものではなくなっている。
デトロイトモーターショーをはじめ、パリモーターショー、ニューヨークショー、SEMAショーなどが軒並み中止になっている。また、ジュネーブショーは2020年春にはオンラインで開催されたが、早々に2021年の開催を中止すると発表している。同じようにロサンゼルスも2021年の開催を中止するという。
逆にいえば、2020年に開催できたのは「コロナが沈静化した」と発表する中国での北京ショーと、時期を後ろにずらしたバンコクモーターショー程度。世界的にいえば、ほとんどの自動車ショーは中止になっているのだ。
■世界5大自動車ショーでさえ近年は斜陽化している
では、この先はどうなるのだろうか。
まず、コロナ禍が納まらない限りは開催はあり得ない。モーターショーなどの自動車ショーは、多くの来場者があってはじめて黒字化するもの。来場者数を絞っては、主催者側の経済的負担が大きすぎる。
また、どれだけ対策を施そうとも、感染リスクをゼロにはできない。もしも、イベント内でクラスターが発生してしまったら、大きな責任問題となる。またオンラインだけの開催で、どれだけの有償の参加者を獲得できるのかは誰もわからない。正直、コロナ禍のもとでの開催は難しい。
東京オートサロン2020、トヨタブースでのプレスカンファレンスの様子
それでは、コロナ禍が沈静化した後はどうなるのか。もちろん、イベントは再開されるが、かつてほどの高い注目度は望めないだろう。なぜなら、コロナ禍の前から、すでに世界の自動車ショーは斜陽化していたのだ。
まだインターネットのない時代、自動車ショーは「世界へ情報を発信する」という役割を持っていた。デトロイト(アメリカ)、ジュネーブ(スイス)、東京(日本)、パリ(フランス)、フランクフルト(ドイツ)で開催されるモーターショーは世界5大ショーと呼ばれ、非常に高い注目を集めた。
しかし、2010年代後半から、その存在感は徐々に小さなものになってゆく。「中国やアセアン(東南アジア諸国)市場の台頭」「ネットメディアの隆盛」など、いくつもの理由が重なり、気がつけば母国以外の自動車メーカーが顔を揃えるショーは、ほんのわずかなものとなってしまったのだ。
実際、デトロイト、東京、パリ、フランクフルトのショーに参加するのは母国のメーカーばかり。また、中国でのモーターショーは、世界中の自動車メーカーが参加するけれど、その内容は完全に中国市場にフォーカスしたもの。あまりにドメスティックなため、他の国からすれば興味の持てるようなものではない。つまり、いつの間にか自動車ショーとは、国際的ではなく、開催する国内向けのものとなっていたのだ。
そうした状況でも確実に盛り上がることができるのは、「これから自動車を買いたい」という人が多い新興国だ。中国は、世界最大の自動車市場になっているが、まだまだ伸びしろは大きい。また、アセアンやインドもモータリゼーションの到来は、これからが本番。つまり、中国やアセアン、インドのモーターショーは、これから先もまだまだ盛り上がることだろう。
しかし、先進国は難しいのではないだろうか。先進国でいま、話題となっているMaaS(モビリティ・アズ・ア・サービス)は、クルマを商品ではなくサービスとして見るという考えだ。いってしまえば、クルマの所有を前提としてしない。
どんなクルマであるか? ということよりも、どんなサービスが利用できるか? ということで、クルマが公共サービスに近づくことを意味する。そうしたとき、新型車が並ぶモーターショーの注目度は当然のように下がっていくことだろう。実際のところ、東京をはじめ先進国のモーターショーは来場者数が右肩下がりになっている。
ただし、自動車ショーでも、新車ではなく“カスタムカーの祭典”である東京オートサロンの人気はいまだ健在だ。また、東京オートサロンはアセアンへの進出も果たしており、そちらの人気も上々だ。そういう意味で、コロナ禍さえ沈静化すれば東京オートサロンの盛り上がりは復活するのではないだろうか。
すでに世界の自動車ショーは、ドメスティック化が進んでおり、コロナ禍の鎮静後も、その傾向は変わることがないだろう。そして、沈静した後は、モータリゼーションのただ中にある新興国と、カスタムなどの趣味性の高いイベントだけが盛り上がるのではないだろうか。
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