超絶希少!! アルファ ロメオ「TZ3」に試乗して分かったダッジ「バイパー」との違い
くるまのニュース / 2021年1月25日 8時10分
アルファ ロメオの歴史のなかで、別格扱いの「TZ」。このTZが再び蘇ったのは、アルファ ロメオ創立100周年となる2010年に発表された「TZ3コルサ」であった。ワンオフモデルのTZ3コルサとは違い、ロードカーとして作られた「TZ3ストラダーレ」に、現地で試乗した数少ないモータージャーナリストのひとり、嶋田智之氏による貴重な新車当時のインプレッションで、ザガートの仕事ぶりを振り返ってみよう。
■蘇る「TZ」の称号
スターターボタンを押してエンジンに火を入れると、一度ならず耳にしたことのある、8.4リッターV10の獰猛なサウンドが耳に飛び込んでくる。間違いなく、ダッジ「バイパー」のそれだ。
なのに、そのことがにわかには信じられないような、そんな気分が拭えなかった。強烈な吸引力と説得力を持つあの美しいフォルムのなかに、自分が今、潜り込んでいる。その事実が、そんな気持ちにさせた一番大きな理由だったと思う。
●叶わなかった「TZ3コルサ」の試乗
最初に「TZ3」とネーミングされたクルマの写真を目撃したときの衝撃は、ちょっと忘れられない。アルファ ロメオにとっても、そしてザガートにとっても特別な意味を持つ、それぞれの歴史のなかに輝く宝物、「TZ」。
それが幾分かモダナイズされて蘇ったような「TZ3コルサ」という名のそのレーシング・スポーツは、二次元の世界のなかから途轍もないオーラを放っていて、僕の目を完全に釘付けにしたのだ。そしていつか乗ってみたいものだと夢想していたのである。
残念ながら、それは叶わなかった。TZ3コルサは、新たに鋼管スペース・フレームとカーボンファイバーを組み合わせたシャシを設計・製作して、そこにマセラティ製4.2リッターV8ユニットを積み、アルミ製のボディを組み付けた構造を持つ完全なレーシング仕立て。
レギュレーションの関係でエントリーできるレースは限られていたとはいえ、公道を走るのを前提に作られていないため、試乗には大きな壁があるうえ、早々とドイツへ嫁ぐことが決まっていたのだ。試乗のリクエストはしたものの、許されることはなかった。
●「TZ3ストラダーレ」の試乗のため、ミラノへ!
代わりに「公道仕様のクルマができ上がったら取材に来るといい」という回答をもらい、2011年にようやくミラノへと飛んだのだった。
2011年の春前になって公開された「TZ3ストラダーレ」は、その構造からしてコルサとは違っていて、アルファ ロメオと同じフィアット・グループに属するクライスラーのバイパーをベースに選び、新たにデザインしたカーボンファイバーのボディを架装している。
しかもワンオフだったコルサに対して、ザガートの特別な顧客に向けて最大9台までは生産する用意がある、とされていた。僕がこのとき潜り込んだのは、その2号車である。
バイパーは確かにチュボラーレ(チューブラーフレーム構造)のクルマだから「TZ」の名前に嘘はないし、ディメンションなどもTZ3の計画に理想的だったと聞かされた。が、バイパーはとにかくあらゆる面で強烈な個性を持ったクルマであり、その匂いが簡単に消えるとは思っていなかった。
なのにコクピットに収まってもエンジンを始動しても、「やっぱりバイパーじゃん」という気がしてこない。それにはインテリアの視覚的要素も、かなり大きな影響力をも持ってるのだとも思う。この2号車は、これから生み出されるだろう個体も含めた他の8台とは決定的に異なる、特別あつらえのインテリアを持っていたのだ。
■一流のカロッツェリアが成せる技とは
「エアバッグを含め、ベース車両が本来持っている安全性の確保や視認性などの重要なエルゴノミクスの観点から、オリジナルの状態からの形状の大幅な変更はもとより、機能やレイアウトの変更をすることが極めて困難という動かし難い理由が大前提にあるため、あくまでも許される範囲内で手を加えただけ」と説明を受けたのだが、もちろんTZ3ストラダーレは「だけ」じゃなかった。
●エモーショナルなインテリア
「バイパー」とは似ているけれど、軽快さを増しているように感じられる「TZ3ストラダーレ」
コンソールからセンターパネルにかけて、さらにドアパネルなどは、ザガートのCAD技術によって新たに設計の段階からワンオフで作られているし、細かなパートまで含めた各部の素材や色味なども、吟味されたうえで大幅に変更されている。
手間もコストも並ではないだろう。何しろバイパーのそれと同軸にあるとはとても思えない仕上がりを見せているのだ。質感も雰囲気も、まったく別次元。余分な装飾を徹底的に排除しながら機能を追求し、上質であることも譲らない、絶対に誤魔化しの効かないシンプルな美しさである。ミニマリズム、という言葉で表現するのがもっとも解りやすいだろうか。
それもそのはず。このインテリアは、世界的に知られるミラノのラグジュアリーファッションブランド、「コスチューム・ナショナル」社とのコラボレートによって完成したもので、同社のデザイナーであり代表でもあるエンニョ・カパサ氏が直々に関与している。
後にカパサ氏と話をする機会を得たのだが、彼は「僕にとってはファッションもクルマも同じ、エモーショナルなもの。またそうでなくてはならないもの」といっていた。
コスチューム・ナショナルのアイテムはシャープでエッジィと評されているが、その根幹にあるのはやはりミニマリズム。シンプルなのに目が離せない美しさを創造しているところなど、まったく同一線上にある。制約の多いなかでその世界観を表現するのは困難だったのではないかと思うが、アーティストとしての感性を綺麗に当て嵌めているあたり、見事である。
●「バイパー」とはまったくの別モノだった
眼に入るものからベース車の存在があまり感じられないのに、サウンドだけはベース車のそれ。不思議な気分で重めのクラッチをアイドリングのままつないでみると、TZ3ストラダーレは何の苦もなくスルスルと滑りだした。スロットルをジワッと踏み込むと、強烈なトルクの塊が車体を力強く前進させようとする。
あれ? と思った。
そのまま深く踏み込むと、608ps/77.5kgmのV10ユニットのサウンドが揃いはじめて純度を高め、並み居るスーパーカー達を蹴散らすような勢いの凄まじい加速力を発揮してくれることも、過去の経験から判ってる。
だが、何から何までバイパーと同じ──ではなかった。似ているけれど少し違う。TZ3ストラダーレは、動きがちょっとばかり軽いのだ。ステアリングを切って長いノーズが反応するその動きすら、軽快さを増しているように感じられる。ザガートは数字を示してくれなかったが、ベース車の1560kgより100kgくらいは軽くなってるんじゃないか? とすら思えたほど。
試乗時にはまだクルマが組み上がったばかりで、走行距離はたった30kmの状態。思い切り鞭をくれるような走らせ方はできないし、ひとりのクルマ好きとして、そんなことはしたくない。
だが、そうせずともTZ3ストラダーレの美点を垣間見られたことは、大きな収穫だった。自動車の性能を車体でチューンナップするというのはどういうことなのか、軽い驚きをもってあらためて知ることができたからだ。
短い試乗を終えて、あらためてTZ3ストラダーレのフォルムを眺めてみる。
力強く、優美で、艶めかしくて、強烈な存在感を放ってる。そのなかにはスレンダーだけどグラマラス、雄々しいけれど女性的、鋭いけれどまろやか、トラディショナルだけど新しい、凄味はあるけどエレガント、という相反する要素が矛盾もなしに綺麗に混在している。
その見事なまでのバランスには、ただただ溜息をつくしかない。過去の名車の名を背負っていながら、模倣もなければコンプレックスもない。ルーツはルーツとしてリスペクトしながら、完全に新しいTZ像を創造しているのだ。
カロッツェリアの「仕事」の真髄が、ベースのクルマ以上に車体で「魅せる」ことや「速くする」ことにあるのなら、まさしくザガートの実力は極めて高いところにある。一流のカロッツェリアというのは、本当に凄いものである。
外部リンク
この記事に関連するニュース
-
[Pro Shop インストール・レビュー]スズキ アルトワークス(天野孝之さん)by Warps 前編
レスポンス / 2024年9月21日 15時0分
-
日米対決!?「世界一長い生産ラインのクルマ」とは? “バブル時代”ならではの珍車でしょ!
乗りものニュース / 2024年9月15日 17時12分
-
月イチ恒例「カーグラフィックTV」 40周年アニバーサリー企画9月は最年少ゲスト・大倉士門さんが登場!愛車はアルファ・ロメオ・ジュリエッタ!
PR TIMES / 2024年9月12日 15時15分
-
懐かしい「丸目4灯」テールライト採用! 500馬力超えの「新型スポーツカー」初公開! パワフルな「5.5リッターV12」搭載した新型ヴェローチェ12 米で発表!
くるまのニュース / 2024年9月7日 20時10分
-
新型「“MR”スポーツカー」初公開! 600馬力超え「ネットゥーノ」エンジン搭載! ド迫力ボディの「GT2ストラダーレ」登場
くるまのニュース / 2024年8月29日 22時10分
ランキング
-
1「高くても低くてもダメ」血糖値の正しい整え方 人格破綻まで招きかねない「低血糖」の恐怖
東洋経済オンライン / 2024年9月23日 17時0分
-
2どんな時にスマホを買い替える? 3位スペック不足を感じた時、2位故障した時…1位は?
まいどなニュース / 2024年9月23日 16時0分
-
3健康診断の数値が改善する7つの習慣とは…いわき市で糖尿病の専門医師が解説・福島県
福島中央テレビニュース / 2024年9月23日 14時31分
-
4痛くて腕が上がらない…【医師監修】五十肩という思い込みには要注意!痛みの原因と病状セルフチェック
ハルメク365 / 2024年9月23日 11時50分
-
5コーヒーよりもはるかに効果的…88歳医師が「長生きしたいならこれを飲むべき」と強く勧める"飲み物"
プレジデントオンライン / 2024年9月23日 15時15分
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
エラーが発生しました
ページを再読み込みして
ください