なぜフランス人の名前!? アメ車を代表するブランド「キャデラック」の由来とは
くるまのニュース / 2021年1月24日 8時30分
日本でも2021年1月に販売が開始された、キャデラックブランド初となるコンパクトSUV「キャデラックXT4」。これにより、XT4/XT5/XT6、そしてエスカレードというSUVラインナップ、そしてCT5/CT6というセダンラインナップが完成し、日本においてもより注目を集めている。そんなアメリカの高級車ブランドのキャデラックだが、名前の由来はフランス人にあるという。その歴史を見てみよう。
■アメリカの2大高級車ブランドは同じ人物が立ち上げた
アメリカのビッグスリーで最大の規模を誇るゼネラルモーターズ(以下「GM」)。GMが持つ数あるブランドのなかでも、最高級レンジに位置づけられるのが「キャデラック」だ。いまでも世界的な高級車ブランドであることに変わりはないが、往年のキャデラックはいま想像するよりもずっと凄かったのだ。
そもそもキャデラックという名称からして、アメリカを象徴する高級車ブランドにもかかわらず、じつはフランス人の名前に由来する。それは、かつてデトロイトを開拓したフランスの貴族、アントワーヌ・ド・ラ・モス・キャデラック氏であり、デトロイトの父とも呼ばれたキャデラック氏に敬意を表して名付けられた。また印象的なエンブレムも同氏の家紋をモチーフとしたものだ。
さらに、アメリカを代表する高級車ブランドの双璧であるもう一方の「リンカーン」とキャデラックは、じつはヘンリー・リーランド氏という同一人物が立ち上げたものだ。しかもキャデラックの起源には、もともとGMではなくフォードが深く関わっている。
1899年、のちにフォード・モーターを興し「自動車王」と呼ばれるヘンリー・フォード氏も関わり、氏の名を冠した会社「ヘンリー・フォード社」が設立されたものの、事情により会社を去り、1902年に機械メーカーの工場長だったヘンリー・リーランド氏が後任に就いた。そして1902年に第一号車を完成し、翌年より本格的に自動車の生産をはじめた。これがキャデラックのはじまりだ。
その後、1909年にGMの設立者であるウィリアム・C・デュラント氏に請われてGMの一員となり、最高級レンジを担うことになる。これにより、現在までキャデラックは、GMの頂点に位置づけられるはこびとなる。
ところがリーランド氏は、第一次世界大戦時に政府からの要請で航空機用エンジンの生産をしようとしたところ、反対されたGMのデュラント氏と袂を分かち、1917年に自身でエンジン製造を目的にリンカーン社を設立。これがのちにフォードの傘下に収まり、キャデラックのライバルとなる高級車を生産するようになったわけだ。
ちなみにリーランド氏は、そのブランドに自身の名前をつけることを好まず、キャデラックが件のフランス人なら、リンカーンはリーランドが敬愛していたという第16代アメリカ大統領エイブラハム・リンカーン氏に由来する。
そんなキャデラックは、先進性においても傑出した存在だった。
リーランド氏の在籍時には、アメリカ車としていち早く、1910年にクローズドボディを標準装備として導入したほか、1912年のに導入したセルフスターターは、画期的な発明として知られる。以降も1915年には量産V型8気筒水冷エンジンや照射角度を調整可能なヘッドライトを実用化するなどした。
1953年製キャデラック「エルドラドコンバーチブル」。1950年代から60年代にかけて、キャデラックといえばアメリカの象徴だった
リーランド氏が離れてからも、シンクロメッシュ・サイレントシフト・トランスミッション(1928年)、安全ガラスの全車標準装備化(1929年)、世界初のV型16気筒エンジンの市販化(1930年)、ダブルウイッシュボーン式前輪独立懸架(1933年)、オートマチックトランスミッション(1940年)、パワーステアリング(1951年)、パワーブレーキ(1954年)、クルーズコントロール(1958年)、サーモスタット式冷暖房システム(1964年)などの技術を矢継ぎ早に世に送り出した。
現代の乗用車に搭載される技術の多くが、じつはキャデラックが生み出したものなのだ。
デザインにおいてもキャデラックは際立っていた。ライバルだったリンカーンが、当初はデザインにおいては評価が低かったのとは好対照だ。
なかでも1948年に導入した、戦闘機をモチーフとするテールフィンは、ほどなく世界的な流行を見せるほどの影響を与えた。また自動車業界初の曲面ガラスやピラーレスハードトップの採用、1950年代からしばらく続いた「イヤーモデル」と呼ぶ意匠変更や改良を、毎年のように行なったのもキャデラックが先鞭をつけたものだった。
1959年製キャデラック「エルドラド」のテールフィン
こうして自動車業界をリードしつづけてきたキャデラックは、アメリカ大統領の専用車に圧倒的に多く採用されたのをはじめ、多くの国々において王侯貴族や政府関係者、富裕層などに愛用されてきた。そのことで、アメリカ文化を象徴するアイコンとして、まさしく世界の頂点に位置する超高級車ブランドの一角をなしていた。
いまでいえば、ロールスロイスやメルセデス・マイバッハなどと肩を並べるというニュアンスであり、当時のイメージからすると、現在もっとも高価な「エスカレード」でも1490万円からというのは、信じられないような話なのだ。
■70年代に失墜したイメージも2000年代にグローバルブランドとして復活
日本にも、1915年よりヤナセにより輸入が開始され、ほどなく大阪の木津川に日本法人と組立工場が設立された。
当初より皇族や華族、政治家に愛用されたキャデラックは、大戦前に乗用車の輸入が制限されても、アジア圏から接収される形で日本に持ち込まれた。
第二次世界大戦後は、連合国軍最高司令官総司令部(GHQ)の最高司令官ダグラス・マッカーサー元帥の専用車であったことや、1950年には御料車として導入されたほか、その後も多くのスーパースターが愛車としたり、映画でアメリカの富の象徴として登場したことから、庶民の憧れの存在となった。
キャデラックはアメリカ大統領専用車としても数多く使われてきた。写真は1996年製キャデラック「プレジデンタルリモ」
こうしてキャデラックは世界中の高級車に大きな影響を与え続け、その名声も絶頂期を迎え、1973年には過去最高の販売台数を記録した。
当時の技術的に特筆すべき話として、前輪駆動(FF)化が挙げられる。
最上級クーペ「エルドラード」の1967年モデルがFFを採用し、最盛期の1970年には400psを誇る8.2リッターのV型8気筒エンジンを、全長5.6m超、全幅2m超の車体に積んだほどだ。その後も安全性とパッケージングの効率化を念頭に、フルラインFF化を進めた。
ところが、1970年代前半に起こったオイルショックにより、アメリカ市場でもダウンサイジングが求められるようになると、キャデラックもそれを余儀なくされる。
以降、過剰な部品共通化や急速なダウンサイジングは、他のGM車との差別化の失敗を招いたほか、コストダウンと未熟な電子部品の採用は品質低化を招き、ブランドイメージは失墜。
同時に顧客の平均年齢の上昇により、一時期は「オーナーの年齢は65歳以上死ぬまで」とか「見かけたら逃げるべし(年老いたドライバーにぶつけられるため)」と揶揄されるほどになってしまった。
そうした状況を受けて、キャデラックはブランド再構築を図る。
「アート&サイエンス」と称する現代的なスタイリングの採用により若い世代への訴求を図るとともに、「シグマアーキテクチャ」と呼ぶ新開発のプラットフォームを採用し、ニュルブルクリンクで走りを鍛えた。
2021年1月に日本上陸を果たしたコンパクトSUV「XT4」のキャデラックエンブレム
ラインナップも整理し、「CTS」を皮切りに「STS」「DTS」などアルファベットを組み合わせたものに順次変更したほか、高性能版のVモデルを投入した。さらにはル・マン24時間耐久レースをはじめ、モータースポーツにも積極的に参戦するなどした。
こうした積極的なマーケティング戦略が功を奏し、キャデラックはアメリカ国内をはじめ多くの主要市場において人気を復活させることができた。とくに近年、高級車需要の伸長が著しい中国ではアメリカを上回るほどの勢いを見せている。
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