ミッドシップは本格スポーツの証!? 個性派ぞろいの国産MRスポーツ5選
くるまのニュース / 2021年2月7日 6時30分
レーシングカーに代表されるように、本格的なスポーツカーに多いミッドシップですが、価格も高く、庶民にとっては高嶺の花です。今回は、比較的手頃な価格で本格派気分が味わえる国産ミッドシップ採用モデルを紹介します。
■エンジンを車体中央に配置し、バランスに優れた走行性能を実現
クルマにとって、パワーユニットはもっとも重いパーツです。この搭載位置と駆動輪が違うと、まったくフィーリングと挙動が異なるといわれています。
そんななかでも究極のスポーツカーであるレーシングカーに多く採用されているレイアウトが「ミッドシップ(MR)」です。
前輪と後輪の間、クルマの真ん中あたりにパワーユニットを配置することで重量バランスに優れ、回頭性が良くコーナリング速度が速まるなどのメリットがあります。
その半面、車内空間は狭くなり、後部座席という実用性を諦めることになりますが、2シーターに割り切り、フロントにエンジンがないため流麗なデザインのボディにでき、ホンダ「NSX」やフェラーリなど高性能なスポーツカーに多く採用されています。
しかし、庶民にとって、スーパースポーツは高嶺の花。実用性より走行性能を優先させたクルマは、かんたんに購入できません。
そこで今回は、比較的に手頃な価格で入手可能な国産ミッドシップの新旧モデルを5台ピックアップして紹介します。
●トヨタ「MR2」(2代目)
「ひと味違うクルマ」をコンセプトに、国産車初の量産型ミッドシップカーとして1984年に誕生したのが初代「MR2」です。
開発コストを抑制するため、「カローラ」のエンジンと足回り、トランスアクスルを流用。直線を多用した楔(クサビ)形のシルエットで誕生しました。
軽量かつコンパクトなボディはジムカーナなどの競技でも使用され、一部で熱狂的な人気を獲得しています。
そして1989年に2代目へとフルモデルチェンジ。バブル真っ盛りということもあり、MR2はベースを「セリカ」や「コロナ」「カリーナ」に変更し、ボディサイズも排気量もパワーアップさせて、デザインも流麗なものへと変貌しています。
全長4170mm×全幅1695mm×全高1240mmと5ナンバーサイズにまとめられたボディのミッドには、2リッター直列4気筒エンジン(165馬力)と同セラミックターボ(225馬力)を搭載。5速MTと4速ATが選択できました。
大幅にパワーアップしたエンジンや大型化したボディの影響で、スポーツ走行よりも普段使いに焦点を当てた仕上がりになっています。
その後、1991年には不評だった足回りを中心に改良がおこなわれ、最高出力も180馬力と245馬力にアップされています。その後も1996年、1997年に一部改良が実施されました。
初代と比べてハイパワーでバランスを崩したといわれた2代目MR2ですが、最大の魅力はミッドシップによるバランスのいいスタイリングの美しさです。
ボディもクーペだけでなく、屋根の一部が脱着可能なTバールーフも用意され、4速ATモデルもあることから誰でも手軽にミッドシップが楽しめる路線へと変更された印象を受けます。
どんなクルマも値上がりしてしまった現在、大人が楽しめる手頃なサイズのミッドシップがないこともあり、1999年に生産が終了して20年以上経ったいまも魅力的に感じる人も多いスポーツカーです。
●トヨタ「MR-S」
MR2が初代から2代目へとモデルチェンジして大型化とハイパワー化が進みすぎたこともあり、もっと手軽にミッドシップを楽しめる後継モデルとして、1999年に誕生したのが「MR-S」です。
当時ブームだった「ライトウェイト・オープンスポーツ」の流れを汲んだトヨタ流の解答が「軽量ボディのオープンミッドシップ」だったのです。
ちなみに海外では「Mrs.(ミセス)」とスペルが被ることから、MR2の名前が継続使用されていました。
ボディサイズは2代目MR2より小型化され、全長3885mm×全幅1695mm×全高1235mmの手動式オープンボディに。
扱いにくいターボエンジンは搭載されず、140馬力の1.8リッター直列4気筒エンジンをミッドマウントし、車重970kgの軽さもあり加速力などは数値以上の速さを感じさせてくれます。
トランスミッションは5速MT(後に6速MT)に加え、日本車では初となる2ペダルで手動変速のシーケンシャルMTが設定され、レーシングカーの雰囲気が味わえました。
安全基準の変更に伴い、MR2で採用されていたリトラクタブルヘッドライトは廃止され、カバーのついた固定式ヘッドライトへ変更。
またオプションでヘリカルLSDが装着可能となり、初代にあった「スポーツ走行としてのミッドシップ」を復活させようとしていました。
その後、スペシャリティカー市場の冷え込みもあって、大幅な手直しを受けることもなく2007年まで生産されましたが、初代MR2ほどスポーツ走行に強いわけでもなく、2代目MR2のようにハイパワーでもないことが災いし、MR-Sは販売的にはパッとしませんでした。
しかし、シャープなミッドシップらしい運転感覚を、手軽にオープンボディで楽しめるスポーツカーというコンセプトは、現在でも通用しそうです。
■軽自動車のMRスポーツとは?
●ホンダ「ビート」
1980年代後期から1990年代初頭のいわゆる「バブル期」には、多種多様の国産車が登場しました。また「出せば売れる」とまでいわれたほど、クルマの販売も好調でした。
そんな時代背景は軽自動車界にも波及していきます。
ハイパワー競争はスズキ「アルトワークス」の異常な速さを受けて64馬力の自主規制枠が設けられましたが、その分デザインやボディ形状などに個性を表現した軽自動車が数多く誕生しました。
ホンダ「ビート」
そして1991年、軽自動車でありながらMR+オープンボディというスポーティな軽自動車として「ビート」が誕生しました。
ビートのボディサイズは全長3295mm×全幅1395mm×全高1175mmとしっかり軽自動車枠に収まり、ミッドマウントされるのはF1の技術を応用して新開発された吸気系を備える軽量・コンパクトな直列3気筒エンジンです。
NA(自然吸気)でありながら8100回転で自主規制枠いっぱいの64馬力を発揮。その発想から「ベイビーNSX」ともいわれ、愛らしいルックスとともに一部で熱狂的なファンを獲得しました。
扱い切れるパワーとミッドシップならではの走行フィーリング、高回転まで回るエンジンを味わうスポーツカーに仕立てられています。
また、軽のミッドシップオープンという限られた車内空間は、運転席側を助手席側より2cm拡大するなどドライバーズカーとして考えられた設計になっていました。
●ホンダ「S660」
現在の市場はSUVや安全性の高さ、環境性能、快適性に優れる車種がメインで、スポーツカーは低迷気味。
ましてやFFが進化した昨今、車内に大きなセンタートンネルが必要なFRや、実用性を犠牲にしたMRには厳しい状況です。
そんななかで、お手頃な価格帯でMRを採用し、新車で買える希少なクルマが「S660」です。
ビートの生産終了から19年ぶりの2015年に、現代の技術と求められる安全性を盛り込み、走る楽しさにこだわったMRオープンスポーツが軽自動車枠で復活しました。
全長3395mm×全幅1475mm×全高1180mmというサイズながら、脱着式ソフトトップを備えたオープンボディを採用。
フロントマスクから後方に向かってボリュームが増すスポーティなフォルムは、NSXに通じるホンダ流スポーツカーらしさにあふれています。
搭載されるパワーユニットは専用設計された直列3気筒ターボエンジンで、最高出力は軽自主規制枠の64馬力。トランスミッションは6速MTのほかにパドルシフト付きCVTも用意されました。
2018年には一部改良がおこなわれるタイミングに合わせて、コンプリートカーの「モデューロ X」を追加。そして2020年にマイナーチェンジを実施し、動力性能には変更はありませんが、細かい変更を加えてさらに熟成が進んでいます。
S660の魅力は、現在求められる安全性や環境性能を確保しつつ、MRを採用した本格的なスポーツカーであることに尽きます。
しかも軽自動車で実現させたことで維持費も安いのもポイント。ミッドシップオープンならではの軽快なドライブを日常で味わうことができます。
●マツダ「オートザムAZ-1」
バブル期は各メーカーが販売ルートを多チャネル化するのが流行していて、マツダも同じように5チャネルを展開。
1989年に誕生した「オートザム」という販売系列で扱われたユニークすぎる軽自動車として、1992年に誕生したのが「AZ-1」です。
当時の軽自動車は個性的なモデルにあふれていて、とくに開発費を注ぎ込んだ本格的な軽スポーツが数多く登場していました。
そんななかでマツダが出した妙案が、ミッドシップ&FRPによる超軽量ボディ&ガルウイングという特徴だらけの1台だったのです。
ちなみにマツダには自社設計の軽自動車用エンジンがないことからOEM供給関係にあるスズキの「アルトワークス」用の直列3気筒ターボエンジンを搭載。
当時、軽自動車最強とうたわれたターボエンジンをミッドマウントし、ボディ外装を外しても走れる「スケルトンモノコック」を採用。アウターパネルをFRP化することで驚愕の720kg(5速MT)という超軽量化を果たしています。
スペックだけでもAZ-1の特異性がわかりますが、加えてステアリングの「ロック・トゥ・ロック」もわずか2.2回転という超シャープさ。
それでいてトヨタ「セラ」と同じくグラスキャノピーとガルウイングドアを採用したため、重量バランスがいいとはいえない構造になっており、走行するにはかなりの自制心と運転テクニックが必要でした。
しかしパワステもパワーウインドウもなく、バケットシートに5速MTのみの設定。快適装備はマニュアルエアコンのみでありながら、ライバル車と比較して価格が高額だったこともあり、販売面では苦戦。
1994年に生産が終了し、総生産台数はわずか4409台という激レア車となりました。現在は海外のマニアから人気で、中古車価格の高騰が顕著です。
※ ※ ※
MRを採用するクルマは、高い走行性能を誇る半面、一般的なFFと比較して挙動がピーキーなこともあり、運転スキルが求められるクルマともいえます。しかしだからこそ、乗りこなせたときの満足感は格別です。
実用性は期待できませんが、何より「格好いい」という絶対的な魅力は何年経っても色褪せません。
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