歴史ある街で自動運転やCO2削減は可能?ボルボが作る次世代都市の狙いとは
くるまのニュース / 2021年2月25日 17時10分
日本ではトヨタが未来都市の「ウーブンシティ」実現に向けて動いていますが、北欧スウェーデンでは、ボルボが「イェーテボリ・グリーン・シティ・ゾーン」の実現を目指しています。それは一体どのような次世代都市なのでしょうか。
■ボルボが目指す「イェーテボリ・グリーン・シティ・ゾーン」とは
日本ではトヨタが静岡県の富士山麓に、未来都市「ウーブンシティ」を2021年2月23日に着工しましたが、ボルボの場合、16世紀に築かれた北欧スウェーデンのイェーテボリ市に、大規模な改築工事なしに高度な交通システムを導入したリアルな次世代都市を実現するというのです。
ボルボが目指す次世代都市とは、一体どのようなものなのでしょうか。
イェーテボリは、スカンジナビア半島の南西部にある人口約52万人の港町です。北側にはノルウェー国境、また南側のデンマークにも近く、ヨーロッパでは人気の観光地でもあります。
筆者(桃田健史)はイェーテボリを何度か訪問していますが、市街を歩いてみると、路面電車と路線バスの多さが目立ちます。しかも、走行路線の一部を共有するなど、公共交通が効率的に運用されているのがよく分かります。
ボルボ本社はイェーテボリ市街中心部から約15kmの距離にあり、近隣にはボルボの従業員が多く居住。イェーテボリはボルボの城下町という存在でもあります。
これまでも、ボルボは自社の自動運転技術実証「Drive me」構想で、イェーテボリ市内に高度な運転支援システムを搭載した「XC60」などを走行させたり、またスウェーデン政府による産学官連携でのMaaS(モビリティ・アズ・ア・サービス)関連の実証などをおこなってきました。
そうしたなか、2021年1月12日の発表では、イェーテボリで2030年までに「クライメートニュートラル」を目指すとしています。
日本では、菅政権が掲げる「カーボンニュートラル」があります。製造業や運輸業など人が作り出すCO2と自然界で吸収されるCO2を相殺するという考え方です。
これに対して、クライメートニュートラルとは、CO2以外のフロンガスなどの温室効果ガスを含めた環境対策であるため、カーボンニュートラルより実現のハードルが上がります。
こうした厳しい条件をクリアするため、「イェーテボリ・グリーン・シティ・ゾーン」という方針を掲げて、イェーテボリ市はボルボなどと協力してクルマの電動化や移動手段のシェアリング、また自動運転のロボットタクシーなど、次世代技術を総動員するといいます。
■市街地でもISAを徹底して走行速度を抑制
イェーテボリ・グリーン・シティ・ゾーンでは、革新的な挑戦がふたつあります。ひとつは、交通量の最適化、もうひとつが走行制限速度の厳格化です。
これら2点を、筆者がこれまでイェーテボリおよびスウェーデンの産学官連携プロジェクトの現地取材、さらに日本での各種取材を踏まえて考察してみたいと思います。
イェーテボリは今後どう変化するのか?
まず、交通量の最適化については、人々の生活が成り立つためにもっとも良い交通・物流の在り方を最初に設計することになるでしょう。
たとえば、店舗への商品搬入は基本的に夜間におこない、その場合、騒音に配慮して完全電動化された移動車を使用。また、タイヤによる走行音を低減するため、店舗毎ではなく地域単位や業態単位での配送システム導入による配送ルートの最短・最適化を進めます。
トヨタのウーブンシティでは、物流車両を地下道で走行させる案があるようですが、イェーテボリのように古い町並みを継承するためには、地下道を新設することなく、物流変革を進めることになります。
日中の交通については、路面電車やバスの運行ダイヤをより効率的に組み替えることが大前提です。そのうえで、乗用車の利用を各車の走行データを基に制限する方法が考えられます。
交通や運輸において、CO2など温室効果ガスを削減するためには、走行する車両の数を減らすことがもっとも有効であることはいうまでもありません。
しかし、英国ロンドンやシンガポールなどが実施している、コンジェスチョンチャージ(渋滞税)やロードプライシングと呼ばれる、市街地への曜日や時間に応じた課金によるドライバーの任意の判断での流入量規制ではなく、イェーテボリ市が市民の理解を得たうえで、行政による強い執行力がある交通規制という考え方です。
次に、走行制限速度の厳格化ですが、自動運転については、運転の主体がクルマのシステム側に移行するレベル3以上では、制限速度順守がほとんどの自動車メーカーの基本的な開発理念です。
制限速度の検知は、地図情報とGPSなど衛星測位システムによる自車位置情報や、車載カメラによる道路標識の認識システムを使います。
一方で、一般のクルマ、およびレベル1とレベル2までの自動運転技術を搭載したクルマの場合、欧州で2022年発売の新車(乗用車、商用車、バス、トラック)に装着義務があるISA(インテリジェント・スピード・アシスタンス)を有効活用することになるでしょう。
ISAは、前述した自動運転レベル3に近いかたちで、GPSや車載カメラによって自車位置での制限速度を認識し、制限速度を超過した場合、ドライバーに音声や表示で注意を促し、またはスピードリミッターとして強制的に速度抑制をする装置です。
※ ※ ※
イェーテボリ・グリーン・シティ・ゾーンを確実に運用するためには、行政の執行力の強さが求められます。結果的に個人の自由な移動を一部制限することになり、市民からさまざまな意見が出ることが予想されます。
それでも、いま(2021年2月)から9年弱で訪れる2030年までにクライメートニュートラルを目指すのであれば、行政、市民、そしてボルボを含む民間企業が同じテーブルで本音で議論を進めることが大切です。
日本各地の市町村、そして自動車メーカーにとって、こうしたイェーテボリの試みが、日本が目指すデジタル化・グリーン化に対して有効な参考になるはずです。
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