なぜ奈良ではシカは神聖な生き物? 年間100件も交通事故に遭遇! 独自の交通ルールとは
くるまのニュース / 2021年2月28日 7時30分
シカが多く生息している観光地として有名なのが奈良県奈良市にある奈良公園の周辺では、年間100件以上もシカが交通事故の被害に遭っているといいます。地元では神聖な生き物とされるシカですが、どのような安全対策をとっているのでしょうか。
■奈良県のシカへの交通事安全策とは?
奈良県の有名な観光地、奈良公園には1000頭以上のシカが生息しています。その公園付近では、シカを守るための標識や安全柵が設置されているといいますが、実態はどのようになっているのでしょうか。
奈良公園には1000頭以上のシカが生息しており、奈良県では奈良公園を含めた半径2kmから3kmの範囲を中心に、シカが被害に遭う交通事故が年間100件以上発生しています。
奈良の鹿愛護会の発表によると、奈良公園周辺で奈良のシカが関わった過去10年の交通事故の件数は、2011年が153件、2012年が129件、2013年が141件、2014年が140件、2015年が145件、2016件が131件、2017年が144件、2018年が129件。2019年は106件と、比較的少なくなったものの、いずれの年も100件を下回ることはなく、2020年においては179件と過去10年のなかでも一番多い件数となっています。
月別では毎年オスの発情が始まる9月以降がピークとなり10、11、12月のシカの繁殖期には交通事故件数が増加。
時間別の発生数は7時から11時、15時から17時、20時から23時が増加傾向にあるとされています。
そんななか、奈良県では、シカが道路を渡らないよう幅2m×高さ0.80mの据え置き型の簡易柵を設置し、2018年12月下旬には交通事故の発生率が高く、交通量、シカの横断件数が多い「春日大社表参道」バス停付近に178mにわたる簡易柵を設置し、シカの道路横断状況について調査をおこなっています。
簡易柵の設置後、1か月ほど経過した2019年1月と11月に効果検証もおこないました。
11月の調査結果では、シカの道路横断は111回確認されましたが、このうち107回は簡易柵が設置されていない箇所や、設置が終わった端を移動。簡易柵を跳び越えたり、簡易柵の隙間を通り抜けるシカは4回確認されました。
調査の当日は「鹿寄せ」がおこなわれており、ほとんどのシカは鹿寄せがおこなわれている場所へ移動しましたが、簡易柵を跳び越えて道路に飛び出すシカはいなかったようです。
簡易柵を設置したことで、簡易柵の設置されていない場所を選んで横断するようになり、道路横断時も急な飛び出しはなくゆっくりと横断していたことが分かりました。
また、シカが道路を横断する箇所がある程度絞り込めることができ、その場所を重点に運転者への注意喚起を実施することにより、交通事故を減らすことができることが、この調査により分かっています。
柵の検証は継続的に実施されるとしており、坂や死角が多くてドライバーからの見渡しが悪い場所や、シカの横断に気がつきにくい場所は事故が発生する可能性が高いため、今後の対策も検討されているようです。
シカとの事故を減らす取り組みとして、ほかにもシカとクルマの事故が多いエリアを「鹿ゾーン」と設定し、公園内の通過交通の抑制を図るため、路面のカラー舗装、「シカの飛び出し注意」を喚起する看板の設置などの対策をおこなっています。
シカの交通安全対策について、奈良県の奈良公園室の職員は以下のように話します。
「シカのマークや注意と記した警戒標識の設置により、事故の減少が見られた箇所もあります。
観光地ということもあり、シカが自由に動けるところ、自然との一体感、景観を守るという点では、シカが飛び出してこないような高さの防鹿フェンスを取り付けることは難しく、さまざまな検討がおこなわれています。
主要道路が公園の間を走っていることもあり、交通事故が起きやすいので、ドライバーの皆様には気をつけていただきたいです。
また、奈良という町はあちこちにシカがいるということを前提に、十分に速度を落として前方に注意して走行してください」
■奈良でシカが大切にされている理由って?
奈良公園は1880年に創設されました。春日大社・興福寺・東大寺などの境内敷地に作られた県立の都市公園で、年間1400万人以上が訪れる観光都市・奈良の観光の目玉のひとつとして東大寺の大仏と共に、奈良のシンボルとなっています。
また、奈良公園に生息しているシカは、1957年に国の天然記念物に指定されました。
春日大社の社伝「古社記」によると、767年に称徳天皇の頃に平城京鎮護のため、鹿島神宮より神様が白いシカに乗って御蓋山にやって来られたとされており、シカは「神の使い」として保護されるようになりました。
神の使いとして崇められているシカは、人間の命より尊いものとされており、家の前でシカが死んでいると、その家の主人は罪人とされていました。
罪のない人間を陥れることに利用されることもあったといわれていて、夜中にシカの死体が家の前に運ばれていないか、早朝に起きては玄関を開けて確認するという習慣があったとされています。
地元では神聖な動物とされるシカ。その安全を守るためにはどのような対策が取られているのでしょうか。
シカは昔から大切にされてきた存在が故に、交通事故ではひき逃げになってしまうケースが多く、奈良公園周辺で交通事故に巻き込まれた件数のうち、ドライバーから通報を受けるのは半数に留まっているとされています。
また、負傷したシカが現場から去り、その後に山中で死んでしまったケースは事故とみなしていないため、実際の事故数はかなり多いといえるでしょう。
奈良の鹿愛護会の担当者は、次のように話します。
「交通事故を起こしてしまった場合や、傷ついているシカを発見した場合には、奈良の鹿愛護会か、奈良警察署へすぐに通報をするようにしてください。
迅速な通報により、大切なシカの命が助かる可能性がとても高くなり、交通事故の場所や時間を調べ、対策にも役立てています。
また、歴史的背景から、多くのドライバーが『天然記念物をはねたら罰せられる』と誤解し、逃げてしまうとことがありますが、事故の当事者となってしまっても、故意でない限り罪に問われることはありませんので、すぐに情報を寄せて欲しいです」
※ ※ ※
奈良に観光へ行くと、とくに奈良公園周辺では、シカが急に飛び出してくることがあります。
「奈良のシカ」の保護のためにも、クルマで走行するときは、昼夜を問わず制限速度を落として慎重に運転することを心がけましょう。
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