先端技術をソアラやセリカに初搭載! トヨタが生み出した斬新なサスペンションとは
くるまのニュース / 2021年3月5日 14時10分
堅実で保守的なクルマ造りをおこなうというイメージが強いトヨタですが、斬新なアイデアや機構を採用して、とくに足回りについては試行錯誤を繰り返しています。そこで今回は、トヨタが独自に進化させてきた先鋭的なサスペンションを紹介します。
■足回りにこだわり続けたトヨタの画期的なサスペンション
多くの人に支持されているトヨタ。堅実で保守的なイメージが強いのですが、じつは斬新なアイデアを具現化したり、チャレンジングな機構を採用することも多いのです。
とくに足回りに関しては、トヨタ独自の先鋭的なサスペンションを多く開発し、採用してきた歴史があります。
そこで今回は、当時は先鋭的とも呼ばれた、トヨタこだわりのサスペンションを紹介します。
●電子制御式サスペンション(TEMS)
サスペンションはクルマの乗り心地に大きく影響する大事なパーツです。
現在の電子制御システムはコンピュータの処理速度が飛躍的に向上したことで、非常に高度なレベルに到達しています。
そして、トヨタはいち早くこのコンピュータによるサスペンションの自動制御に着手したメーカーでした。
よく「乗り心地が硬い」とか「フワフワした乗り心地」などといわれますが、これはダンパーの減衰力(バネが伸び縮する振動を減衰させてフラットな状態に戻す力)とスプリングの設定が大きく関わってきます。
そして通常のサスペンションで使われるダンパーの減衰力は一定になっているのですが、これをコンピュータ制御で前後4本の減衰力を自動的または任意で変更できるサスペンションを世界初で市販化させたのが、トヨタの「TEMS(Toyota Electric Modulated Suspension)」です。
そんな乗り心地と操縦安定性の両立を目指した「TEMS」が最初に搭載されたのが、ハイソカーの元祖ともいえる「ソアラ」です。
1981年にデビューしたソアラは、最新技術を詰め込むことで価値を高めた1台であり、1983年の一部改良で早速「TEMS」を搭載。当時は2段階3モードの制御システムでした。
この成功で、技術的にも商業的にも自信を深めたトヨタは、この電子制御式サスペンションを発展させ続けました。
●アクティブサスペンション
クルマの足回りは、路面からの衝撃を吸収する機構になっており、主に車輪(実際は車軸)を支える「サスペンションアーム」と「スプリング」「ダンパー(ショックアブソーバー)」から構成されています。
「スプリング」と「ダンパー」は路面の凹凸による衝撃を吸収することで、「サスペンションアーム」が車輪を適正な位置で回転させるための手助けをする重要な役割を持っています。
通常のサスペンション(足回り)はセッティングが一定なので、柔らかいセッティングだと乗り心地は良いのですがフワフワと車体が安定せず、固いセッティングだと車体の踏ん張りが効いてタイヤのグリップ力を生かせるが乗り心地が悪化する、という微妙なバランスで設定されています。
そこで、乗り心地と操縦安定性に関係するサスペンションの動きをコンピュータで制御したのが「アクティブサスペンション」です。
それ以前にも窒素ガスを密封したエアスプリングと油圧シリンダーを採用した「ハイドロニューマチック」をシトロエンが開発していましたが、積極的に電子制御するには、コンピュータの進化が欠かせない要素でした。
そして、そんな夢の技術を市販車として世界ではじめて搭載したのがトヨタ「セリカ」(5代目)です。
世はバブル期真っ只中の1989年。クルマのハイテク化が一気に進み「世界初」が数多く登場した時代に、300台限定ながらも電子制御ハイドロニューマチック・アクティブサスペンションを搭載した「セリカ アクティブスポーツ」が登場しました。
セリカのアクティブサスペンションは補助的に金属スプリングを採用しつつも、走行状態を各種センサーで感知して、油圧バルブを作動させることで各サスペンションの油圧シリンダー内の油圧と油量をアクティブに制御。
上下・左右・前後方向の姿勢変化を少なくすることで、運動性能を高めながらソフトな乗り心地を実現しました。
路面状況や走りによってはノーマルサスペンションのセリカと比べ、左右に傾くロールは1/4以下に低減、前傾するように沈み込むノーズダイブは1/2以下に抑えたといわれています。
しかし、このアクティブサスは非常に高価なシステムで、当時、ノーマルサスペンションのモデルとの価格差が約120万円と軽自動車が買える値段。いかに先鋭的で贅沢な装備だったかが分かります。
●スーパーストラット
「カローラ/スプリンター」ベースのクーペとして若者たちを中心に高い人気を誇った「レビン/トレノ」ですが、1.6リッタークラスのハッチバックやクーペは、当時、運動性能や動力性能が重視されていました。
いまでは伝説的存在のAE86型レビン/トレノも、コンパクトで軽量なボディにFRという組み合わせによって人気となったということです。
しかし1987年に登場した5代目レビン/トレノはそれまでのFRを捨て、FFへと変更し、居住性や走行安定性を向上。
それでも当時のFFコンパクトスポーツ市場は、エンジンパワーだけでなく、ハンドリング性能の優劣が重要なセールスポイントでもありました。
そんななか、日産が1990年に発売した「プリメーラ」がフロントサスペンションにマルチリンク採用。優れたハンドリングが高く評価されて大ヒットを記録しました。
これを受けてトヨタは「マルチリンク」を開発する代わりに、既存のストラット式のコンパクトさを維持したまま、アーム類を追加することでハンドリング性能を引き上げることに成功。それが「スーパーストラット」です。
スーパーストラットは、一般的なストラット式サスペンションのロワアーム(車軸と車体をつなぐ部分)に短いサブリンクを追加。
サスペンションがストロークするときのキャンバー角の変化を抑え、操縦安定性やコーナリング中のタイヤのグリップを大幅に高めた結果、シャープなハンドリングを実現しました。
さらにハイパワーなエンジンを搭載したFFで避けられないトルクステア(左右の駆動輪でかかるトルクに差が出て勝手に曲がってしまう現象)を軽減することにもなり、走行性能と安全性向上を実現。
スーパーストラットは、装着する・しないで評価が変わるほどの人気装備になりました。
■庶民派カローラスポーツにも高価な足回りを採用
●スカイフックサスペンション(スカイフックTEMS)
ソアラに採用された「TEMS」をさらに進化させたサスペンションが、1996年に登場した2代目「ウィンダム」にも搭載された「スカイフックサスペンション(スカイフックTEMS)」で、1999年モデルから搭載されました。
「スカイフック」とは、車体を空中に浮かした(宙吊り=スカイフック)状態で路面からの凹凸入力に対して、タイヤだけが上下動し、車体の動きを小さくするという理論です。
トヨタ2代目「ウィンダム」
そこでトヨタは、金属バネとガスバネを併用したハイドロニューマチックサスペンションを採用し、路面の凸凹に対して最適な減衰力の制御をおこない、フラットな車体姿勢をキープさせるために「TEMS」を進化させました。
もともとはオフロード性能を確保しつつオンロードでの性能向上を目的に開発されたアクティブサスペンションの一種で、1998年には「ランドクルーザー(100系)」に搭載されています。
この乗用車版をウィンダムに採用したというわけです。
実際には、「TEMS」→振動を電気的に検出する「ピエゾ式TEMS」→「スカイフックTEMS」→「インフィニティTEMS」と続き、現在の「AVS」へと進化しています。
●AVS(Adaptive Variable Suspension system)
現在のトヨタにおいて、最新の電子制御サスペンションが「AVS(アダプティブ・バリアブル・サスペンション)」です。
これまでサスペンションの減衰力を電子制御するシステムの開発・熟成に力を入れてきたトヨタですが、このAVSは路面の凸凹や車速、ブレーキ操作などで生じるクルマの挙動変化に応じて最適な減衰力を、進化した電子システムで積極的に制御し、快適な乗り心地と高度な操縦安定性を実現する足回りになっています。
つまりこのAVSが、トヨタがこだわり続けてきたアクティブサスペンションの最進化系ともいえます。
すでにレクサスの上位モデルやトヨタ「クラウン」「ランドクルーザープラド」など一部車種に搭載されていますが、非常に複雑かつ高価な足回りをあえて「カローラスポーツ」に装着可能にした意義は大きいでしょう。
ちなみにカローラスポーツのノーマルサスペンションも非常に出来がいいと評判で、スイッチひとつで3つのドライブモード(ソフト/ノーマル/ハード)に切り替え可能ですが、上位グレードにオプション設定されるAVSは、「コンフォート」と「スポーツS+」という2モードが追加されて5モードになり、より状況と好みに応じた足回りのセッティングに変更できるようになっています。
AVS誕生当初は9段階だった減衰力ですが、現在は無段階で減衰力を制御できるところまで進化しました。
AVSの価格は、10万8000円に設定されており、装着しなくてもノーマルサスペンションで十分ではありますが、1ランクも2ランクも上質な乗り心地を味わえることから、オーナーの満足度は高くなると思われます。
※ ※ ※
かつて、他メーカーが「マルチリンク」や「ダブルウィッシュボーン」の採用を進める一方で、トヨタは電子制御サスペンションやスーパーストラットに活路を見出し、独自に進化させてきました。
どれが良い悪いではなく、トヨタが考えた操縦安定性と走行性能、快適性を導き出すための施策のひとつだったというわけです。
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