なぜ世界初の自動運転レベル3は100台のみ? ホンダ新型「レジェンド」がリースで少数販売とする訳
くるまのニュース / 2021年3月10日 18時10分
ホンダが2021年3月5日に発売した新型「レジェンド」は、世界初の自動運転レベル3を搭載したモデルとして登場しました。しかし、販売される台数はわずか100台のみとなっているのですが、なぜ少数しか販売されないのでしょうか。
■100台のみがリース販売されるホンダ新型「レジェンド」
ホンダが世界で初めて自動運転レベル3を実現し、同社のフラッグシップセダン「レジェンド」に搭載して2021年3月5日に発売したことが話題になっています。
新型レジェンドは、自動運転を可能とする「ホンダセンシング エリート」を初採用。
現在ホンダ車で展開されている安全運転支援システム「ホンダセンシング」のなかでも、エリート(精鋭・優れた)な技術を搭載する新システムとして命名されたといいます。
ホンダセンシングは2014年の「オデッセイ」を皮切りに搭載。いまでは新車販売の約95%にまで拡大し、累計240万台のホンダ車に装着されていることになります。
さまざまな先進安全機能を備えるホンダセンシングですが、新型レジェンドに搭載されるエリートは、さらなる安全を実現したシステムとして、日本で展開されることになりました。
すべての人が安心して自由に移動できる社会を目指し、まずはその第一歩として、100台限定生産のリース販売を開始。
ホンダセンシング エリートを搭載した新型レジェンドの価格(消費税込)は1100万円と、通常仕様「ハイブリッド EX」の724万9000円に対して約350万円高い価格となっています。
ホンダは事故ゼロ社会に向けた取り組みとして、自動運転レベル3を搭載した新型レジェンドを登場させたわけですが、せっかくの新技術を搭載した新型モデルが少数しか販売されない理由とは何なのでしょうか。
車両の販売、サービスにおいてホンダがこだわったのは丁寧に商品をお届けすることだと本田技研工業 執行職 日本本部長の寺谷氏はいいます。
「100台に限定した理由は、100人のお客さまにきちんとした丁寧なアフターサービスをおこなうためです。
ホンダセンシング エリートの取り扱いについての丁寧な説明をするという責任があると同時に、クルマを使うなかで、きちんとしたメンテナンスをおこなっていくことが大変重要となっています。
リース販売というのは、いわゆるメンテナンスリースという形で、定期点検や整備を、購入した販売店に確実に入庫してもらい、クルマが万全な状態で使用できるということを目指しています」
これまで現在国内で普及しているモデルに搭載される自動運転技術はレベル2でしたが、レベル2とレベル3の違いは、運転の主体がドライバーなのかクルマ(システム)なのかというところにあります。
レベル2では運転の主体がドライバーにあり、ハンズオフ走行を可能とするモデルも登場していますが、常に前方を注視することが求められています。
一方、レジェンドに搭載されたレベル3では、運転の主体がクルマにあります。一定条件がそろったハンズオフ走行中は前方を常に見ている必要はなくなり、DVDやテレビを視聴してよいとされているのが大きな違いです。
レベル2とレベル3の間には、越えなければいけない高い壁があったとホンダはいいます。
運転の主体の違いが大きなポイントになっており、絶対的に安全なシステムを届けるためには、使う人に正しい知識を持って使用してもらいたいという狙いがあることから、少数販売できめ細やかな対応をおこなう必要があるようです。
※ ※ ※
ホンダは、自動運転中は車内のディスプレイ(ナビ画面)でDVDやTVを見ることを推奨しています。自動運転が終了した際に運転の主体がシステムからドライバーに切り替わるのですが、そのときにディスプレイにアラートがでることから、素早く対応できるためとしています。
また、DVDやTVを視聴することは、一般的には「ながら運転」として禁止されており、2019年12月には罰則が強化されました。
そのため新型レジェンドでは、周囲のクルマや交通違反の取り締まりをおこなう警察官に対して自動運転車であることを識別してもらえるよう、自動運転車用のステッカーを貼付する対策も施されています。
■どんなことができる? ホンダセンシング エリートの特徴とは
ホンダセンシングエリートの開発においては、安全性と信頼性をもっとも重視し、実際の走行シーンでのシチュエーションを想定しながら、約1000万通りのシミュレーションを重ね、それと同時に高速道路を約130万キロ走行して実証実験を重ねてきたといます。
ホンダセンシング エリートの機能には、どのような特徴があるのでしょうか。
ひとつ目は「ハンズオフ機能」です。
ハンズオフ中の新型「レジェンド」
高速道路や自動車専用道で、渋滞追従機能付アダプティブクルーズコントロール(ACC)と車線維持支援システム(LKAS)が作動中に一定の条件を満たすと、ドライバーがハンドルから手を離した状態でもシステムが運転操作を支援。
車線内の走行や前走車と適切な車間距離を保ちながら追従する機能や、ハンズオフ走行中に、ドライバーがウインカーを操作すると、システムが車線変更にともなう加減速、ハンドル操作などをアシストする機能も搭載されます。
さらに注目すべきは、DVDやTVを視聴可としている「トラフィックジャムパイロット(渋滞運転機能)」です。
ハンズオフで走行中に渋滞に遭遇すると、一定の条件下でドライバーに代わってシステムが周辺を監視しながら、アクセル、ブレーキ、ステアリングを操作。
システムは先行車の車速変化に合わせて車間距離を保ちながら同一車線内を走行、停車、再発進をおこないます。
そのときドライバーは前方を注視する必要がなくなり、ナビ画面でDVDやTVの視聴、目的地の検索などのナビ操作をすることが可能となりました。
また、ドライバーがシステムからの操作要求に応じ続けなかった場合、左車線へ車線変更をしながら減速・停車を支援する「緊急時停車支援機能」も搭載されています。
トラフィックジャムパイロットにおいてハンズオフ機能が終了し、システムからのドライバーへと運転の主体が切り替わったときに応じなかった場合、警告音を強め、シートベルトに振動を加えるなど、視覚、聴覚、触覚によってドライバーに操作をするように促します。
それでも、ドライバーが操作要求に応じ続けなかった場合はハザードランプとホーンで周辺車両への注意喚起をおこないながら減速・停車し、路肩がある場合は左側車線に向かって減速しながら車線変更を支援します。
ハンズオフ走行を可能とする国産車はレジェンド以外にも存在します。それが、日産「スカイライン」とスバル「レヴォーグ」です。
スカイラインは、ハイブリッド車に「プロパイロット2.0」を搭載。高速道路でナビ連動ルート走行中の車線変更と分岐の支援や、同一車線内でのハンズオフ機能を可能としました。
レヴォーグは、2020年10月にフルモデルチェンジした2代目モデルに「アイサイトX」を採用。高速道路において時速50km以下の渋滞時にハンドルから手を放して走行できる機能や、料金所手前で時速20km程度まで減速する機能などを搭載しています。
また、両車ともに新型レジェンドと同じく緊急時停車支援機能も備わりますが、スカイラインもレヴォーグも高度なレベル2を実現したモデルであり、運転の主体はドライバーにある点が新型レジェンドと異なるところだといえます。
その一方、新型レジェンドはごく少数しか販売されないモデルであることや、スカイラインもハイブリッド車のみでガソリン車に対応していません。
対する新型レヴォーグは、エントリーグレード、中間グレード、最上級グレードの各グレードにアイサイトX搭載モデルが用意されており、ユーザーの選択肢が広いのが特徴です。
搭載モデルと非搭載モデルの価格差も、レジェンドでは前述のように約350万円違いますが、レヴォーグの場合は約38万円と、メーカーオプションでナビゲーションを設定するのとさほど変わらない価格で装備することができます。
少数のユーザーにきめ細やかな対応をするホンダ、ゆったりとした移動を提供するべくハイブリッド車のみに設定する日産、お求めやすい価格で幅広く普及につなげるスバルと、先進安全技術に対して三者三様の考え方があるといえそうです。
※ ※ ※
ホンダのフラッグシップであるレジェンドは、常に時代の最先端の技術を取り入れてきました。今回レベル3の自動運転を可能にした世界初のシステムを搭載したことは、ホンダが目指す事故ゼロ社会の実現に向けた非常に大きな一歩だといいます。
技術進化の象徴という側面があるホンダセンシング エリートですが、やはり普及が進まないことには事故ゼロ社会は実現できません。
ホンダが取り組んできた安全技術として、エアバッグや衝突被害軽減ブレーキなどがありますが、そういった新技術を投入する際は搭載する台数も少なくコストが高いという課題もあります。
自動運転レベル3は将来的に必ず必要とされる技術となる可能性を秘めており、今後普及することによってコストが下がっていくことが期待されます。
また、ホンダが実用化したことで、ほかのメーカーもレベル3の技術開発を加速することが考えられ、自動車メーカー全体として、より安全で事故のない自動車社会の実現が求められる時代になってきたといえるのではないでしょうか。
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