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なぜデマが拡散された? 「並行輸入ができなくなる」 SNS拡散で見えた自動車文化の情報網とは

くるまのニュース / 2021年3月17日 7時10分

SNSなどにおいて「法改正により、今後並行輸入車の登録ができなくなる」といった情報が拡散されました。結論からいえば、それは誤解に基づく偽情報(デマ)であり、正しい情報ではありません。なぜ、このような情報が拡散されたのでしょうか。

■なぜデマは広まった?その経緯とは

 2021年3月9日頃から「法改正により、今後並行輸入車の登録ができなくなる」というそんな情報がSNSを中心に拡散されましたが、それは正しい情報ではありません。
 
 では、なぜこのような情報が出回ることとなったのでしょうか。

 SNSなどにおいて「法改正により、今後並行輸入車の登録ができなくなる」といった情報が拡散されました。

 結論からいえば、それは誤解に基づく偽情報(デマ)であり、正しい情報ではありません。

 ことの発端となったのは、3月9日に自動車総合技術機構が発表した「審査事務規程の一部改正に係るパブリックコメントの募集について」というプレスリリースです。

 これは「審査事務規程の一部を改正し、並行輸入自動車の事前審査書面等を明確にすることなどで、より一層的確で厳正かつ公正な審査業務の実施を図ること」に対するパブリックコメント(一般からの意見)を募集するという趣旨のものでした。

 この発表をうけて、一部の自動車愛好家や、自動車の並行輸入業者の関係者と思われる人物が過敏に反応しました。

 火種となったと思われるSNSの投稿(現在は削除されている)によると、今回の法改正を説明した概要資料にある「資料については、原則、自動車製作者等から発行されたものに限ることとします」という一文を引用しています。

 ここでいう「資料」とは、並行輸入されたクルマが技術基準などに適合しているかを証明するための書類であり、「WVTAラベル」や「FMVSSラベル」、「CMVSSラベル」などがあります。

 欧州や北米などで販売されているクルマのほとんどは、こうしたいずれかのラベルがあらかじめ貼付されているため、日本で公道走行するのに必要な騒音基準や保安基準の適合が証明されることから、登録を比較的スムーズにおこなうことができます。

 しかし、クラシックカーや希少なメーカーのクルマなどには、そうした「ラベル」が貼付されていないことも多く、改めて各種試験をおこなう必要があり、煩雑な手続きとコストがかかることになるのです。

 SNSで拡散された内容を要約すると、次のようになります。

「今回の法改正によって、今後『ラベル』のないクルマを登録するためには『自動車製作者等(自動車メーカー)から発行された』資料を貼付しなければならなくなるが、クラシックカーに対してメーカーが資料を発行するかは定かではなく、そもそも消滅したメーカーは資料を発行することができないため、事実上クラシックカーの並行輸入登録ができなくなる」

 この内容が飛躍し、「今後並行輸入車の登録ができなくなる」や「政府による自動車文化潰し」といったよりセンセーショナルな内容へと発展したものと思われます。

 こうしたデマの拡散をうけて、自動車総合技術機構では3月15日に「審査事務規程の一部改正(並行輸入自動車の事前審査書面等の明確化等について)に係るパブリックコメントの募集に係る補足説明について」という内容のプレスリリースを発表しました。

 その冒頭では「(今回の改正について)誤った認識に基づくご意見が多数寄せられております」としたうえで、上述のような意見に対して丁寧に解説をしています。

 とくに、旧車(クラシックカー)については、「技術基準等の適用日以前に製作された、いわゆる旧車(クラシックカー)等、技術基準等が適用されない並行輸入自動車の取扱いは何ら変更しておりませんので、今までどおりとなります」と、強い表現で説明しています。

■クルマを愛するがゆえに起こってしまった?

 今回の法改正は、一部の並行輸入業者が証明書類を偽造したことが原因であると、3月9日付のプレスリリースに明記されています。

 その背景には、これまで「ラベル」などによる技術適合審査がそれほど厳格ではなかったという実態があるようです。

 つまり、今回の法改正はそうした証明書類の「原本を提出する」といった、極めて当然の内容を実行することが目的であり、並行輸入車を排除するといったものではありません。

 では、なぜこのようなデマが拡散されることとなったのでしょうか。今回の様子を見ると、「誤解に基づく情報の発信」→「インフルエンサーによる拡散」という、インターネットにおける典型的なデマ拡散の構造があったことがうかがえます。

 ここでいう「インフルエンサー」とは、並行輸入業者や自動車ジャーナリスト、元レーシングドライバーといった人々です。

 ただ、これらの「インフルエンサー」のほとんどは、一般的な「有名人」ではありません。

 そのため、今回のデマ騒動は多くの一般人の関心を集めることはなく、あくまで一部の愛好家や関係者が中心となったものでした。この点が、芸能関係のデマなどとは異なっているといえます。

日本では国内未発売モデル専門やクラシックカー専門などさまざまな業者が存在する(画像はイメージ)日本では国内未発売モデル専門やクラシックカー専門などさまざまな業者が存在する(画像はイメージ)

 そもそも、騒動の発端となった自動車総合技術機構のプレスリリース自体、一般的なニュースとして扱われるような性質のものではありません。

 そのため、一部の人間があくまで「仲間」に向けて発信した内容が、並行輸入車を扱う中古車販売店や、自動車愛好家たちのネットワークのなかで拡散され、耳目を集めることとなったのだと見ることもできます。

 クルマは古くから熱意ある愛好家が多いカテゴリーであり、クラシックカーだけを見ても市場規模はかなりのものといわれています。

 SNSが発達する以前から、そうした愛好家たちは専門のショップ(中古車販売店)や、イベントなどで出会った仲間を中心に情報共有をおこなっており、それがSNSの登場によってより強固なネットワークとなったと考えられます。

 もちろん、悪意の有無にかかわらず、デマの拡散に加担してしまった人々は、その行動を省みなければなりません。

 自分自身がいわゆる「有名人」ではなくても、特定の人々へ強い発信力を持っている場合があることを自覚することも必要でしょう。

 一方、今回のデマ騒動の深い部分には、日本が長年培ってきた自動車文化の強固なネットワークという側面も見ることができるのではないでしょうか。

※ ※ ※

 繰り返しになりますが、ほとんどの場合において今回の法改正は大きな影響を及ぼしません。

 むしろ、悪質な並行輸入業者が駆逐されるという点で、健全な自動車文化の育成に寄与するものととらえることもできます。

 クルマを愛するがゆえに拡散されてしまったともいえる今回のデマですが、そうした熱量がより正しい方向へ進むようにすることが、愛好家たちに求められているといえるでしょう。

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