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ランチア「デルタ」の面影ゼロ! 日本に3台輸入されたザガート「ハイエナ」とは

くるまのニュース / 2021年3月29日 19時10分

ザガートがランチア「デルタHFインテグラーレ」をベースとして製作した「ハイエナ」が、オークションに登場。1990年代に日本では正規で3台のみ販売されたハイエナの現代の評価額をレポートする。

■芸術家のアイデアスケッチから誕生したスペチアーレ

 COVID-19の影響によりオンライン限定とされた「OPEN ROAD FEBRUARY」オークションは、同社の北米本社および欧州本社の双方から出品がおこなわれ、そのアイテム数は自動車だけでも108台に及んだ。

 今回VAGUEが注目したのは、2021年2月の「PARIS」オークションに出品がアナウンスされつつも、諸般の事情でキャンセルとなったものが、スライド的にこちらで出展された1台だ。

 ランチア「デルタHFインテグラーレ」をベースに、カロッツェリア・ザガートがアルミニウム製ボディを組み合わせた2座席クーペ、ランチア「ハイエナ・ザガート」である。

●1994 ランチア「ハイエナ・ザガート」

 ランチア・ハイエナ・ザガートは、1980−1990年代ランチアの最高傑作とも称される「デルタHFインテグラーレ」がベースだ。その起源は、イタリアでは非常に名を知られていた芸術家ナーニ・テデスキ(Nani Tedeschi)の描いた、躍動する猛獣ハイエナがクーペに「モーフィング」してゆくかのごときスケッチに端を発したものとされる。

 このスケッチに感銘を受けた、オランダのランチア正規代理店「ルッソ・サービス・オランド(Lusso Service Holland)」の経営者ポール・コートは、アンドレア・ザガート会長との協議の席をセッティング。テデスキ氏のスケッチに示された獰猛なスタイルのクーペを、ザガートのマネージメントのもとに具現化することになったという。

 こうしてザガート主導のプロジェクトとなったハイエナは、日本では「エヴォルツィオーネ」のペットネームも添えられた当時最新のデルタHFインテグラーレから、そのプラットフォームを流用。全長4mにも満たないコンパクトなボディは、アルミニウムに一部樹脂製パーツも併用したものであった。

 そのスタイリングは1950年代末のフィアット「アバルト750GTザガート」を思わせる、イタリア製ベルリネッタの魅力を体現する一方で、インテリアはダッシュパネルからコンソール、ドアのインナーパネルに至るまで現代的な総カーボンファイバーで構成され、オリジナルのデルタに較べ150kgダイエットしていると謳われていた。

 また、エンジンについても点火系およびインジェクション、バルブタイミング、フューエルプレッシャー、ターボのブースト圧を変更などにより、スタンダードでも250ps、顧客の要望によっては300psまでチューンが可能とされ、本格的なライトウエイトスポーツを目指した。

インテリアはダッシュパネルからコンソール、ドアのインナーパネルに至るまで現代的な総カーボンファイバーとなっている(C)2020 RM Sothebysインテリアはダッシュパネルからコンソール、ドアのインナーパネルに至るまで現代的な総カーボンファイバーとなっている(C)2020 RM Sothebys

 ハイエナ・ザガートは1992年1月の「ブリュッセル・モーターショー」にてデビュー。一説によると、ザガートではアルファロメオES30系「SZ/RZ」に次ぐビッグプロジェクトとなることを期待して、ランチアとともに500台の生産を可能とする体制構築に務めていたとされる。

 しかし、ランチアが属するフィアット・グループの支援が期待していた規模のものとはならなかったことから、生産計画は大幅に縮小。結果としてワールドプレミア時のリリースでは「ザガート生誕75周年を記念して75台の製作予定」と発表された。

 さらに不運なことに、インテリアを構成するカーボンファイバーの製造過程にもトラブルが発生したことから、結局24台がラインアウトしたに留まったといわれる。

 ただし、同時代のV8フェラーリにも匹敵するプライスが敬遠されてしまったのか、オーダーは予想以上に少なく、24台で断念せざるを得なかったのが実情とする見方もあるようだ。

 ちなみにわが国においても、当時ザガートの日本総代理店を名乗り、日本輸入車組合(JAIA)にも所属していた「ザガート・ジャパン」が1580万円の正札で販売。3台のハイエナが正規輸入されたといわれている。

■希少な“ヴェルデ・ザガート”のハイエナ、約1920万円で落札

 ランチア・ハイエナ・ザガートは、その誕生直前まで同じザガートが生産し、実はドア上部のフレームやAピラーも共用していたといわれる「アルファロメオSZ(ES30系)」と比べると、ランチアらしく穏当かつ上品なスタイリングといえよう。

 またコンパクトなサイズ感も相まって、視界に飛び込んだ瞬間の印象は決して強いものではないのだが、今回RMサザビーズ「OPEN ROAD FEBRUARY」オークションに出品されたハイエナは、極めて希少な「Verde Zagato(ザガート・グリーン)」が持ち前の個性を品よく引き立て、ほかのクルマから際立つ個性を醸し出している。

●1994 ランチア「ハイエナ・ザガート」

全長4mにも満たないコンパクトなボディは、アルミニウムに一部樹脂製パーツも併用したものであった(C)2020 RM Sothebys全長4mにも満たないコンパクトなボディは、アルミニウムに一部樹脂製パーツも併用したものであった(C)2020 RM Sothebys

 しかし、この個体でもっとも重要かつ魅力的なトピックは、新車として1994年に製作・デリバリーされたのち、今回のオークションに委託した現オーナーに至るまでの来歴がすべて判明していることだろう。

 現オーナーとは元来の友人である初代オーナーは、ドイツにおけるこのモデルのプレゼンテーション会場で、この個体を含む2台のハイエナを新車で購入したという。

 スタンダードでは、筆文字っぽい「Hyena」のレターが入れられる左右リアフェンダーに「Elio Zagato(エリオ・ザガート)」と「Gianni Zagato(ジャンニ・ザガート)」のサインがあるのは、そのイベント会場でふたりのザガート本人たちによって描き込まれたからである。

 このグリーンのハイエナは、のちにフランクフルト在住の弁護士が購入。さらに2017年10月、オランダに拠点を置くディーラーを介して現オーナーが入手したことによって、3人目の個人所有者となった。

 製作から27年を経たこのハイエナだが、現状での走行距離は9000kmにも満たず、カタログ写真を見る限りでは、内外装も新車に限りなく近いコンディションを保っている。

 新車時に車両とともに渡された、オーナーズマニュアルや価格表付きの販売パンフレットなどのドキュメントに加えて、2組のキーセット、ツールキット、ジャッキ、専用ボディカバーも添付。加えて、これまでの車検ドキュメントも備わっている。

 さらに2015年10月におこなわれた、燃料ポンプとタイミングベルト交換を含む主要サービスの請求書、スターターモーター交換を含む2017年12月の主要サービスの請求書など、これまでドイツ国内でおこなわれたメインテナンス/サービスの請求書の一部も添付されたという。

エンジンについても点火系およびインジェクション、バルブタイミング、フューエルプレッシャー、ターボのブースト圧などが変更された(C)2020 RM Sothebysエンジンについても点火系およびインジェクション、バルブタイミング、フューエルプレッシャー、ターボのブースト圧などが変更された(C)2020 RM Sothebys

 一世紀以上にも及ぶ名門ランチアの歴史においても、もっとも偉大なモデルのひとつであるデルタHFインテグラーレのシャシとドライブトレインを、名門ザガートが1台のスーパースポーツとして昇華させた真にレアなクーペであるハイエナ。

 さらに、ベース車両であるランチア・デルタHFインテグラーレ自体が、今や最終期の「エヴォルツィオーネ」であれば1000万円超えが当たり前の大人気車となっているにもかかわらず、RMサザビーズ欧州本社は16万−20万ユーロという、かなりリーズナブルともとれるエスティメートを設定した。

 ところが、オンライン限定の競売ではビッド(入札)がなかなか進まなかったのか、締め切り前3時間の段階でも、最高額は11万ユーロ。そして、入札終了までに19件のビッドがあったものの、落札価格はオークショネア側に支払われるコミッション込みでも14万8500ユーロ、日本円換算で約1920万円に留まった。

 おそらくはこの個体そのものと思われる「ヴェルデ・ザガート」のハイエナ・ザガートを、昨2020年に日本国内のさる専門ディーラーが「欧州ストック情報」として提示した際に「車両本体価格:3280万円+消費税」のプライスタグを掲げていたことを思えば、相当に安価になったという印象も否めない。

 しかし、売り手にとってはシビアな評価も、買い手にとってはお買い得になる。それもまた、オークションの醍醐味なのであろう。

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