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「EVシフト」はなぜエコに繋がる? 電動化加速の背景にある様々な事情とは

くるまのニュース / 2021年4月23日 9時10分

昨今の自動車産業では、ガソリン車から電動車に代わるいわば「脱ガソリン車/電動化」が進んでいます。一般的には電気自動車(EV)が主流となることで、エコな社会になるという印象がありますが、本当にEVが普及することはエコに繋がるのでしょうか。

■急速に増える電動車、その背景とは

 世界中で電気自動車(EV)をはじめとする電動車が増えつつある昨今、果たしてガソリン車の時代から本当にエコロジーな社会になっているのでしょうか。

 今でこそ一般常識となっている「地球温暖化」という言葉ですが、この言葉が広く知られるようになったのは1980年代頃のことでした。

 二酸化炭素やメタン、亜酸化窒素といった化学物質が温室効果をもたらすことは19世紀には知られていましたが、1970年代頃まではむしろ「地球寒冷化」が問題視されているなど、温暖化が進行していることは一般にはそれほど知られていません。

 しかし、1990年代以降、地球全体の気候が温暖化しつつあることは学術界でもほぼ合意のこととなり、国家間を超えた対策が必要であるとして、気候変動枠組条約締約国会議(COP)などの国際会議が定期的に開催されることになりました。

 1997年に京都で開催されたCOP3、すなわち第3回気候変動枠組条約締約国会議で採択された通称「京都議定書」は、温室効果ガスの削減目標を規定したものとして、現在でも広く知られています。

 温室効果ガスは、おもに化石燃料を燃焼させることで発生します。その代表的な例が、ガソリンや軽油を燃焼させることでエンジンを動かし、動力とするクルマです。

 1960年代以降急速にモータリゼーションが進行した日本では、多くの国民が移動の自由を手に入れたその裏で、光化学スモッグなどの公害に悩まされました。

 そうした経験を持つ日本人は、クルマが環境に少なからず悪影響を与えるものであることは直感的に理解していたといえるでしょう。

 京都議定書が採択されたのとほぼ同じタイミングで、「21世紀に間に合いました」のキャッチコピーとともに、世界初の市販ハイブリッド車であるトヨタ「プリウス」が発売。その後、ハイブリッド車が急速に普及し、エコカーの代名詞となりました。

 プリウスに搭載されたのはニッケル水素バッテリーでしたが、より高性能なリチウムイオンバッテリーが開発されたことで、クルマの電動化はさらに加速します。

 そして、2009年には三菱「i-MiEV」が世界初の量産型電気自動車として登場。さらに翌2010年には日産「リーフ」が発売されることになります。

 2010年代に入ると、すでに世界最大の自動車販売市場へと成長した中国の政策によって、世界中の自動車メーカーの電動化が加速。

 ガソリン車に比べて、電気自動車(EV)やプラグインハイブリッド車(PHV)に対して巨額の補助金を助成することで、中国の都市部ではこれらの電動車が急増します。当然、中国市場を稼ぎ頭としていた世界中の自動車メーカーが電動化へシフトします。

 また、2015年に米国で発覚したフォルクスワーゲンのディーゼルに関する不正問題によって、それまで電動化には比較的慎重だった欧州の自動車メーカーも、電動化へ巨額の投資に舵を切ることとなります。

 このような世界情勢のなかで、日本は世界でももっとも電動化の進んだ国のひとつとして、環境面への影響や国民意識の変化などが注目されています。

■必ずしもエコとは言えない電動車、なぜ推進?

 電動車、とくにEVが今後普及するかどうかについては、現在でも多くの議論がなされています。

 個人レベルでいえば、すでに成熟した技術であり社会インフラも整っているガソリン車と比べて、EVはまだまだ活用方法が限定されているといわざるを得ません。

 逆にいえば、一定の条件が整っている人であれば、EVによって大きなメリットを得られるのも事実です。

 このように、個人レベルの話で議論すると、最終的には「それぞれの事情による」となってしまうので、あまり意味のある議論にはなりません。

 一方、社会全体のレベルで見ると電動化はメリットを生んでいるのでしょうか。

 日本自動車工業会によると、2008年の電動車(HV/PHEV/EV/FCV)の国内販売台数は10万8518台でしたが、2018年には148万2231台と約14倍に成長しています。

 全国地球温暖化防止活動推進センターが発表した、同時期のクルマなどによる運輸部門の二酸化炭素排出量を見ると、2008年度が23億1600万トンだった一方で、2018年度は21億400万トンとおよそ10%の減少が実現しています。

 およそ10年の間でクルマによる二酸化炭素排出量は着実に減少していることを見ると、電動化が進んだことは、環境へも一定の好影響を与えたといえるでしょう。

 しかし、電動車が販売台数にして約14倍に増えているのにもかかわらず、二酸化炭素排出量は1割程度しか減少していないと考えることもできます。

 さらに、排出量が低下した背景にはガソリン車の技術向上による分も含まれていることを考慮すると、電動化の影響はさらに小さいともいえます。

 また、ガソリン車に比べて、電動車は製造時の二酸化炭素排出量が多いという指摘もあります。

 欧州自動車メーカーでは主流になりつつある考え方として「ライフサイクルアセスメント(LCA)」というものがありますが、これはクルマの生産から使用、そして廃棄までを含めたすべての時間軸を考慮した上での環境への影響を測るというものです。

 例えば、電動車が増えることによって、バッテリーも同時に増えることになります。

 しかし、化学物質を多く含むバッテリーの廃棄コストは、金属中心のエンジンに比べて高額です。

 また、電動車の増加とともに増える電力使用量に対応するために、火力発電所で大量の化石燃料を燃焼させることになれば、社会全体で見てエコロジーとはいえません。

 このように、視点によっては、電動車はガソリン車に比べて、すべての面で環境性能に優れているとはいえないのが事実です。

 ではなぜ、日本をはじめとする多くの国が電動車の増加を支援する政策を出しているのでしょうか。

 個々の国によって事情は異なりますが、ひとついえるのは、技術革新のポテンシャルです。

 たしかに現時点では、市販が始まってから100年以上の歴史を持つガソリン車と、10年から20年程度の電動車では技術の成熟度が異なります。

 しかし、逆にいえばそれは電動車にまだポテンシャルがあることを示しています。電動車、とくにEVの弱点である航続距離や充電インフラについては、時を追うごとに改善されていくことでしょう。

航続距離や充電時間、インフラなど課題は多いが着々と向上している航続距離や充電時間、インフラなど課題は多いが着々と向上している

 もうひとつ、とくに日本にとって電動化を進めなければならないのは、エネルギー安全保障という観点です。

 産油国でない日本は、ガソリンの元となる原油のほぼ100%を輸入に頼っています。

 さらにいえば、そのうちの8割以上が中東地域からの輸入です。日本は資源に乏しい一方で、世界第3位の電力使用国でもあります。

 そのため、古くから原子力発電所の設置を進めてきましたが、2011年の福島第一原子力発電所事故によって、新規の原子力発電所を設置することは事実上難しくなっています。

 したがって、今後も原油の中東依存は続くと思われますが、それにはさまざまな政治リスクがともないます。

「国家百年の計」という言葉があるように、100年単位で考えるならば、国としては早くから電動化を推進する必要があるといえます。

 現在にわかに過熱している電動化推進は、政治や金融を含めたさまざまな要素が複雑に入り組んでおり、単にエコロジーを目指したものとはいえません。

 われわれは、そうした背景を理解しつつ、ひとりのユーザーとして個々の事情に合ったクルマを選ぶのが正解なのかもしれません。

※ ※ ※

 現実的にいえば、急にガソリン車が無くなることはないでしょう。一方で、10年単位で見れば、緩やかに電動化が進むことは確実です。

 ガソリン車と電動車のどちらを選ぶかというのは個人の好みの問題です。しかし、それ以前に、次世代に向けて地球環境を守っていくことはすべての人々に与えられた責務であることを忘れてはいけません。

 現在の電動化論争はそういう意味で、すべての人が考えなければならないことだといえるでしょう。

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