トヨタは電動SUVをなぜ共同開発? スバルと実現した環境面だけじゃない新型EV「bZ4X」の狙いとは
くるまのニュース / 2021年4月20日 7時10分
トヨタは「上海モーターショー2021」で、新EVシリーズの第一弾となるクロスオーバーSUV「bZ4Xコンセプト」を世界初公開しました。トヨタとスバルが共同開発したbZ4Xコンセプトとは、どのようなモデルなのでしょうか。
■トヨタの新EVシリーズ「bZ」始動! 第一弾はクロスオーバーSUV
トヨタの環境車に対する考え方は「選んでいただく」、「普及してこそ」であり、そのためにさまざまな電動車をラインナップしていることにあります。
1997年にハイブリッド車(HV)、2012年にプラグインハイブリッド車(PHV)、2014年に燃料電池車(FCV)を市場導入、その数は累計1700万台を超えています。
しかし、EV(電気自動車)に関しては、1990年代に「タウンエースバンEV」や「マジェスタEV」、「RAV4 EV」。2012年には「iQ」をベースにした「EQ」を限定100台で発売した後は次の一手がなかなか出てきませんでした。
そんなことから、「トヨタはEV化に出遅れている」といった報道が一人歩きしてしまったわけですが、2021年の上海モーターショーで「トヨタbZ」を発表。その第一弾となるクロスオーバーSUV「bZ4Xコンセプト」がお披露目されました。
筆者(山本シンヤ)は残念ながら現地に行っていませんが、発表された映像や画像、そしてこれまでトヨタの電動化について見て、聞いてきたことをベースに解説をしていきたいと思います。
EVシリーズ名の「bZ」は「Beyond Zero(ゼロを超えて)」ですが、豊島浩二チーフエンジニアの言葉をお借りすると「ゼロエミッションだけでなく新たな価値をプラス」という想いが込められているようです。
つまり、環境に良いのは当たり前で、その先にある、クルマとしての魅力を高めたシリーズというわけです。この辺りは「クルマをコモディティ化させない」という豊田章男社長の想いが反映されているように感じます。
余談ですが、トヨタ車で「BZ」の名を掲げるのはこれが最初ではなく、1951年に発売されたトラックに使われています。
このbZシリーズはEV専用プラットフォームを用いて、ユーザーニーズに応じた大きさ、スタイルのモデルが予定されていますが、それぞれの得意分野を持つパートナー(BYD、ダイハツ、スバル、スズキ)と共同で開発されているのが特徴です。
今回のbZ4Xコンセプトはスバルとの共同開発モデルで、そう遠くないタイミングでスバルブランドから兄弟車の発表が予定されているそうです。
個人的にはスポーツカーとEV、「生きる歓び」と「生きる価値」の両方が生まれて来ることに、両社の関係性の強さをより実感した次第です。
では、トヨタのbZ4Xはどのようなモデルなのでしょうか。
開発コンセプトは「アクティビティHUB」としており、これを筆者なりに解釈すると、さまざまなライフスタイルをサポートする存在というイメージのように感じました。
エクステリアはホイール周りのクラッディングからクロスオーバーテイストを感じるものの、ダイナミックさと実用性を両立させたフォルム、グリルレスに薄いヘッドライト、シンプル造形のフロントマスク、短い前後オーバーハングを活かし4輪の踏んばりを強調したスタンスなどから、セダンに代わる新たなニュースタンダードといった印象も受けました。
EVだからといって先進的すぎず、トヨタだからといって保守的すぎない絶妙なデザインは納得です。
筆者はこのカタチを見て、2017年12月に開催した「トヨタ・電動化普及に向けたチャレンジ」で複数のデザインモックアップのなかのメイン級のモデルを思い出しました。つまり、「あの時点でコンセプトはほぼ固まっていた」と納得したのです。
インテリアは低めのインパネやコンソール回りに集約された操作系、初代「オーリス」を思い出す一体化されたセンタークラスターとセンターコンソール(フライングバットレス!?)などに加えて、メーターバイザーレスでステアリング上方にレイアウトされたメーターと異形ステアリング、そしてダイヤル式のシフトセレクターなどが採用されています。
そのなかでも、異形ステアリングはステアリングバイワイヤーの採用により可能となったそうです。
この形状からするとロックtoロックは相当小さいように感じますが、どのような運転感覚を実現するのか気になるところです。
ちなみにメーター内にはステアリング支援の作動ランプ、ステアリングコラムのドライバーモニタリングカメラ、そしてセンターコンソール右側にあるアドバンスドパーキングのボタンなどから、2021年4月8日に発表されたばかりの最新の高度運転支援システム「アドバンスド・ドライブ」が装着されているのは間違いないでしょう。
さらにセンターコンソール左側のサイドブレーキスイッチ付近には「エコペダル」のようなスイッチも確認できます。
フロントシートはトヨタのほかのモデルにも採用されている「スポーティシート」を装着。リアはロングホイールベースを活かし、Dセグメントセダン並みの足元や頭上スペースを確保しているといいます。ヒップポイントやリアドア形状から予測すると乗降性も高そうに感じます。
■電動化を得意とするトヨタと優れたAWD技術を持つスバルがタッグを組む
パワートレイン・プラットフォームに関しては、「トヨタとスバルで共同開発したe-TNGAを採用」、「スバルと共同開発した新AWDシステムを採用で、電動車ならではの素早いレスポンスを活かした安全で気持ちの良い走りと高い走破性を実現」というのみで、具体的なアナウンスはありませんでした。
以前、筆者はトヨタとスバルに共同開発EVの話を聞いたことがありますが、次のようなヒントを教えてくれました。
上海モーターショー2021で世界初公開されたトヨタ「bZ4Xコンセプト」
両社で開発をおこなうプラットフォームは固定部位(人の位置、モーターの位置など)と変動部位(前後オーバーハング、全幅、ホイールベースなど)を決め、複数のバリエーションに柔軟に対応。変動部位もモジュール開発をおこなうことで効率的な開発も可能。
モーターの組み合わせも同様で、フロントに置けば前輪駆動、リアに置けば後輪駆動、前後に置けばAWDとフレキシブルな駆動方式に加えて、出力も複数用意。味付けも自由自在。
bZ4Xコンセプトは前後に独立したモーターを搭載した「ツインモーターAWD」なのは間違いありませんが、電動化の応答性の良さや緻密な制御が可能なメリットを活かし、より高度なAWDに仕上がっているのでしょう。
つまり、電動化を得意とするトヨタと優れたAWD技術を持つスバルが互いに強みを持ち寄ったことで、走りに関しては「心配はいらない」といってよいと思います。
もうひとつ気になるのはバッテリーの話でしょう。今回は「より多くのお客さまが安心して選んでいただけるよう、使用環境を考慮した航続距離」、「冬場でもお客さまに不便を感じさせない航続距離」、「回生ブレーキの活用に加えて、ソーラー充電システムを採用」と発表するも、こちらも具体的なアナウンスはありませんでした。
ただ、2017年12月に開催した「トヨタ・電動化普及に向けたチャレンジ」で、寺師茂樹副社長(当時)は次のように語っています。
「これまでもHV技術で培った技術はEVにも活用できるといってきたものの、残念ながら『電池技術』の課題を乗り越えるストーリーがなかった。
しかし、今回パナソニックとの協業により、我々のなかで欠けていたピースが埋まったことで、電動化シフトの体制が整った」
この言葉を信じると、やはり全固体電池(電解質を個体に置き換えることで高いエネルギー密度と出力特性を可能にする。リチウムイオン電池の2倍以上の性能を持つといわれている)を採用しているのでしょうか。
ちなみにbZ4Xは日本と中国で生産を予定しており、2022年年央までにグローバルでの販売をスタートさせるそうです。
さらに「電動車フルラインナップ化」の一環として、2025年までにEV15車種(そのうちbZシリーズは7車種)を導入する計画です。
このように「石橋を叩いて渡る」どころか「石橋を叩いて壊す」といわれるほど慎重なトヨタの今回の発表は本気であり、電動化に対してより“攻め”の姿勢を明確にアピールしたといっていいでしょう。
しかし、それを声高らかにせず控えめな姿勢を貫くのは、「2030年が来ればわかりますよ」というトヨタの自信の表れだと思っています。
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