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なぜ佐川急便の軽貨物EVは中国生産車? 商用EVで日本メーカーが消極的な理由

くるまのニュース / 2021年4月24日 14時10分

佐川急便が導入を予定する電気自動車の軽貨物車は、製造については中国の自動車メーカーがおこない、日本に輸入するかたちをとります。商用車のEVを日本メーカーが積極的に新車開発をおこなわないのはなぜなのでしょうか。

■ ドライバーの希望が考慮された佐川急便のEV軽貨物車とは?

 佐川急便が発表した軽貨物EVが、自動車業界はもとより、ユーザーを含めてさまざまな業界で大きな話題になっているようです。

 その理由として、佐川急便と共同開発したベンチャー企業がファブレス企業であること、車両は中国メーカー製であること、そして日本でも商用車を中心に乗用車にもEVシフトの波が一気に押し寄せてくるかもしれないという不安と期待だと筆者(桃田健史)は考えます。

 まずは、佐川急便の車両の詳細について見てみましょう。

 車両寸法は、全長3395mm×全幅1475mm×全高1950mmの2人乗りで、最大積載量は350kg。満充電での航続可能距離は200kmで、最高速度は時速100kmとしています。

 また、ドライバー自身、そして周囲のクルマや歩行者への配慮から、予防安全機能として、衝突被害軽減ブレーキ(前進)、後退時被害軽減ブレーキ、バックソナー(赤外線センサー)、バックアイカメラなどを標準装備としました。

 そのほか、商用車ならでの装備として、運行データや車載データを通信によってクラウドで集約、解析するシステムも構築しています。

 さらに、軽貨物を乗車するドライバー約7200人に向けたアンケートを実施し、その結果をもとに車内でドライバーが快適に運転や作業をするためのさまざまな工夫が施されています。

 それによると、改善して欲しい、または新設して欲しいという箇所は、運転席では「室内灯」(全体の13%)、「パックアイモニター」(12%)、「収納」(11%)、「サイドミラー」(10%)、「シート」(6%)と続きます。

 一方、荷室については、「収納」(13%)、「室内灯」(11%)、「荷室間間仕切り」(9%)、「サイドドア」(9%)、「荷室の高さ」(6%)となりました。

 こうした指摘を考慮して、前席では広めのシート幅、助手席にパソコンやお弁当などが置けるテーブル、センターボックスにふたつのUSBポート、そしてドアポケットやドライバー席上の部分など収納スペースを拡充しています。

 荷室では、室内灯を複数設置して明るさを増し、また充電時にはUV除菌装置をタイマー稼働させて翌日には車内を清潔にすることが可能となるほか、荷室自体の設計で積み下ろし作業負担が軽減される工夫もみられます。

 最初にこの話が公になったのは2020年6月16日で、佐川急便とベンチャー企業のASFが小型電気自動車の共同開発と実証試験を開始することを合意するとの発表がありました。

 ASFの設立も同じく2020年6月であり、主要な株主には大手商社の双日の名前があるファブレスメーカーです。

 ファブレスメーカーとは、工場を持たない技術開発と商品企画をおこなう企業のこと。ASFは、台湾の台湾プラスチックグループから資本支援と、バッテリー材料の供給も受けるといいます。EV関連技術については日本のEVベンチャーであるFOMMからの技術協力も得ています。

 さまざまな企業と連携したうえで、製造については中国の自動車メーカーがおこない、日本に輸入するかたちをとります。

 物流事業者による商用EVといえば、ヤマト運輸がドイツのストリートスクーター社と共同開発した小型EV車を2030年までに約5000台導入することを明らかにしているほか、日本郵便では三菱「ミニキャブ・ミーブ バン」を2020年度末までに都内を中心に1200台導入しています。

■ESG投資に対する見解の違い?

 このように、海外生産、または海外メーカー、さらに日系でも基本設計が10年近く前のモデルなどが物流向けのEVの主流となっているのですが、なぜ日系メーカーがこうした分野で積極的に新車開発をおこなわないのでしょうか。

 そもそも、日本はもとより、世界各国の物流事業者が近年、一気にEVシフトに動き出した背景には2010年代後半から表面化したESG投資の影響が強くあります。

佐川急便で採用されることになったEVの軽貨物車(提供:ASF株式会社)佐川急便で採用されることになったEVの軽貨物車(提供:ASF株式会社)

 ESG投資とは、「従来の財務情報だけではなくEnvironment(環境)、Social(社会)、Governance(ガバナンス)要素を考慮した投資」(経済産業省)のことで、端的にいえば、
ESG投資は企業の株価を動かす大きな要因となっています。

 そうしたなか、事業の中核が輸送車を運用することである物流事業者にとって、EVシフトは株式市場に対してもっとも分かりやすい企業メッセージであるといえます。

 そのほかにも、営業車などで多くの車両を日常的に活用する大規模な企業でもEVシフトを模索する動きが加速しています。

 こうした社会状況を踏まえて、電力事業であり、EVなど電動車向けの充電インフラ事業を担う東京電力が中心となり、「電動車活用推進コンソーシアム」を2020年5月11日に立ち上げています。

 立ち上げ初期の企業メンバーには、すべての国内大手電力企業、トヨタ、日産、ホンダ、三菱などの自動車メーカー、NTT、日立、そのほか金融関連企業など40社以上が名を連ねています。

 コンソーシアムの中核を担う東京電力 EV推進室にも直接取材しましたが、「運営委員会のなかに作業部会があり、そのうちのひとつとして、車両仕様を共通化したEVについて、参加企業からヒアリングしたうえで自動車メーカーに提案していきます」と説明します。

 車両のサイズでは「軽自動車サイズのEVが現実的」という声が挙がっているそうです。

 交渉先の具体的なメーカー名は明らかにされていませんが、たとえば日産と三菱が量産化に向けて共同開発中の軽EV「IMk」が候補であると考えるのが自然だと思います。

 こうした動きと並行して、佐川急便やヤマト運輸は各社が独自規格の小型商用EVを開発し、早期の実用化に移行しているという状況です。

 このほか、直近でEV関連での規格共通化の動きといえば、2021年4月1日に設立された、一般社団法人「電池サプライチェーン協議会」があります。

 現時点、車載向けリチウムイオン二次電池市場は中国が過半数を占め、それを韓国が追いかけ、日本は世界第三位に甘んじている状況です。

 物流事業者の間で先行導入が進む商用EVですが、今後は日系自動車メーカーが電池の日本メーカー製の電池使用を含めたオールジャパン体制へとシフトする可能性があり、その動向から目が離せないと思います。

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