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なぜ今「水素エンジン」? トヨタが開発に本腰 モータースポーツで使うワケ

くるまのニュース / 2021年4月24日 11時50分

トヨタがカーボンニュートラルなモビリティ社会実現に向けて水素エンジンの技術開発に乗り出すと発表。「カローラスポーツ」をベースとした競技車両に搭載し、実戦に投入します。なぜ今、水素エンジンの開発に乗り出すのでしょうか。

■なぜ今まで、水素はエンジンの燃料ではなかったのか

 今まで「水素は燃料電池で使う」というイメージだった。多くの人が「燃やすより効率的に有利」だろうと考えていると思う。

 しかし客観的に評価してみると、水素の熱効率は燃料電池用に使っても、エンジンで燃焼させても決定的な差がないという。ではなぜ今までエンジンの燃料として使っていなかったのかといえば、割と単純な理由だったりする。

 それは水素タンクの性能が低かったためです。

「MIRAI」に使われている水素タンクは800気圧。水深8000mと同じ極めて高い圧力で運用されている。この技術が確立されたのは先代MIRAIから。

 かつてマツダやBMWなども水素エンジンを作ってきたが、タンク性能は低かった(ダイビングに使われる空気タンクと同等の200気圧程度というのが一般的)。

 800気圧の新型MIRAIは600km走れる。燃料電池と水素エンジンの熱効率が同じだとしたら、200気圧タンクだと150kmしか走れないということです。

 BMWの多気筒エンジンやマツダのロータリーエンジンだと熱効率も激しく悪いため、新型MIRAIと同じサイズの水素タンクなら、満充填で100km以下しか走れないということになります。

■水素エンジンは燃料電池のライバルに!? 普及するのか?

 トヨタが水素エンジンをモータースポーツで使うという発表を見て「水素エンジンは昔からあった」と知ったか一等賞のようなコメントを出す人もいるけれど、当時の水素エンジンは、ダイビングのタンクを使った焚き火のようなもの。

 直噴技術や超高圧タンク使う最新の水素エンジンとはまったく技術レベルが違う。20年前と状況からして違う。

水素エンジンのイメージ水素エンジンのイメージ

 参考までに書いておくと、従来型MIRAIでレースをやってきた実績で考えれば、800気圧の水素使えばサーキットを60kmくらい走れる。

 400気圧だと30km。200気圧なら15kmしか走れません。マツダやBMWが水素エンジン用として使ってきた水素タンクだと、まったくモータースポーツになど参戦できる水準にない。

 800気圧の水素タンクであれば、燃料電池より20%熱効率が悪くても、初参戦レースになる富士スピードウェイを11ラップくらい走れるし、公道ではないため1200気圧くらい入れたら(新型MIRAIの水素タンク、設計上の耐圧は2400気圧らしい。すごい!)、富士スピードウェイを17ラップ以上走れると思う。十分レースになります。

 ここまで読んで「だったら乗用車の水素エンジンはどうか?」と思うだろう。これについては、総合的に考えると難しいんじゃなかろうか。

 そもそもコスト的に電気自動車より高い。超高圧の水素タンクは圧倒的に高価です。燃料となる水素も電気料金より安くなることなど考えられない。したがって乗用車は電気自動車が主流になる私(国沢光宏)は予想しておく。

 ただトラックなどディーゼルの代替パワーユニットとして水素エンジンを使えるかもしれません。

 生涯走行距離200万km以上になるトラックは、燃料電池だと耐久面で課題が出てくる。確立されたエンジン技術なら多少燃費が悪くても総合的にコスト計算すると甲乙付けがたくなる可能性大。もちろんモータースポーツも面白いと考えます。

 燃料電池にとって手強いライバルの登場となった。もちろん燃料電池だって性能向上させられるし、何より静かという決定的な特長も持つ。

 同じトヨタのなかで切磋琢磨していくことにより、性能も良くなっていくと思う。

 とくにモータースポーツで鍛えると、進化スピードたるや市販車とまったく違う。モリゾウさん(トヨタの豊田章男社長)らしい判断です。

 カーボンフリーという観点でいえば、燃料電池も水素エンジンも同じ。水素エンジンは燃焼で環境汚染物質であるNOxを排出するが、これはアンモニアなどを吹いてやることで解決します。

 国内レースで手応えがあったら、WRCの前走車とかに走らせてもらうと世界に対する良い環境アピールになると思う。何よりエンジン音がクルマ好きにはうれしい。

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