19台限定でイゾ・リヴォルタ復活! ザガートの原田則彦氏が「GTZ」のデザインについて語る
くるまのニュース / 2021年5月10日 8時10分
熱狂的なカーエンスージアストたちの間で、いまなお語りつがれるブランド「イゾ・リヴォルタ」。この半ば伝説となったブランドが、ザガートの手によって蘇った。イタリア在住のレポーター野口祐子が、プロジェクトの中心人物であるマレッラ・リヴォルタと、ザガートのチーフデザイナー原田則彦氏から直接ブランド復活の経緯を伺った。
■「グランツーリスモSPORT」で復活したイゾ・リヴォルタとは
Writer:野口祐子(NOGUCHI Yuko)
Photographer:Luca Danilo Orsi
2017年、Play Stationのゲームソフト「グランツーリスモSPORT」に突如現れたIso Rivolta(イゾ・リヴォルタ)「ヴィジョン・グランツーリスモ」。イゾ・リヴォルタといえば、1964、1965年にル・マン24時間レースのクラス優勝を果たしたイゾ・リヴォルタ「A3C」の勇姿が思い出される。
A3Cは、1963年のトリノショーのイゾ・リヴォルタのブースでデビュー。当時ベルトーネに在籍していたジウジアーロがデザインし、フェラーリのエンジニアとして「250GTO」などのエンジン開発に携わったジョット・ビッザリーニが車両全体の開発を担当、そしてシボレーのエンジンを搭載しイタリアとアメリカの融合のプロジェクトということで話題を呼んだクルマだった。
イゾ・リヴォルタは、1939年に暖房器具や冷蔵庫などの熱交換器機製造会社を買取ったことからスタートする。戦後、オーナーのレンツォ・リヴォルタの決断でバイク、スクーターの製造に取り掛かり、その後クルマの製造にまで拡大していく。
先ずは小型車「イセッタ」が誕生した。時代の流れをうまく察したこのバブルカーは大人気を呼び、海外製造ライセンス契約もおこない、BMWでは16万台という生産台数の大ヒットとなった。
その後、グランツーリズモのクラスに参入し、1962年「IR300」を発表。そこから派生したスポーツタイプのA3Cはレースの世界で大活躍。(因みに同時に発表した「A3L」は後の「グリフォ」に続いていく)。
ル・マン24時間レースで好成績をあげ、多くの人に感動を与えたイゾ・リヴォルタは、続いてF1の世界にもウイリアムズのチームで参戦という実績を作った。50年代から70年代はモータースポーツの世界に多くのカーメーカーが夢を抱いて参入していた時代。イゾ・リヴォルタも創設者、レンツォ・リヴォルタの夢をのせて多くのストーリーを生んだ、イタリアのカーメーカーのひとつである。
ところが時代の流れには逆らえず、「IR300」、「IR340」、「グリフォ」、「Fidia」、「Lele」、「Veredo」と数々のモデルを発表しつつも経営難に陥り、残念ながら1974年倒産。その後1990年代に一度グリフォ復活の噂があったが実現せず、イゾ・リヴォルタの復活を耳にする事はなかった。
●プレステ4でイゾ・リヴォルタが蘇った
2017年、「グランツールーリスモSPORT」に登場した架空のクルマ、イゾ・リヴォルタ「GTZ ヴィジョン・グランツーリズモ」。写真はモックアップ
さて、2017年にPlay Station「グランツールーリスモSPORT」で復活を遂げたイゾ・リヴォルタ。新モデルはイゾ・リヴォルタと同じミラノで生まれた老舗のカロッツェリア・ザガートがデザインを担当。フロントには懐かしいグリフォ(鷲獅子、鷲の翼と上半身とライオンの下半身を持つ伝説の生物)の姿が堂々と輝いでいた。
このグリフォのマークを見て当時を知る人は、ル・マン24時間レースでの活躍を思い出したことだろう。そしてその時代に生まれていなかった若者もその姿に魅了されたのか、プレビュー数は1億5000万回を超えたという。こうしてヴァーチャルの世界ではあるが、イゾ・リヴォルタの存在が、世界中の多くのファンの目に触れることになった。
そして、その3年後となる2020年、実物のイゾ・リヴォルタGTZが、ザガートのデザインにより蘇った。エンジンは60年代のグランツーリスモと同様に、アメリカのシボレー「コルベットZ06(C7)」のエンジンを搭載。660psの6.2リッターV8により、最高速度315km/h、0−100km/h加速3.7秒を達成した。そしてザガートが誕生した1919年の数字に因んで、19台生産と発表されるに至った。
■創業者の孫がイゾ・リヴォルタを復活させた
さて、このイゾ・リヴォルタGTZ誕生にあたり、なくてはならない人物がいる。
それは、イゾ・リヴォルタの創設者、レンツォ・リヴォルタの孫にあたるマレッラ・リヴォルタだ。彼女は1996年にザガートの株主となり、以降ザガートの経営に携わっている。
その彼女が、イゾ・リヴォルタGTZのアートディレクターとしてプロジェクトの指揮をとったのだ。
今回、直接マレッラ・リヴォルタに話を伺う機会を得ることができた。
イゾ・リヴォルタ創設者レンツォ・リヴォルタの孫のマレッラ・リヴォルタ
ベージュのセーターにピンクのマフラーとピンクのパンツ。彼女はいつも洗練された出立で現れる。まず、初対面の殆どの人は彼女の透き通るようなブルーの瞳に吸い込まれてしまうだろう。そして聴く人を飽きさせない、力強い彼女の語りにも魅了されるだろう。
「私は女性というより、男性的といわれるの。」と自らもいうように、決断力、行動力といったリーダーに必要な要素をすべて備えた女性だ。
彼女が生まれた時には祖父のレンツォは既に亡くなっており、父のピエロもクルマの世界とは別の仕事に携わっていたので、家のなかではあまりイゾ・リヴォルタに纏わる話はしなかったようだ。大学に通う頃に周りからイゾ・リヴォルタの話を聞くようになり、そこで初めて祖父が起こしたイゾ・リヴォルタの数々の偉業を知ることになったそうだ。
彼女はアメリカの大学を卒業後、仕事の関係でアンドレア・ザガートと出会い、1996年、カロッツェリア・ザガートの株主のひとりとなった。
●ブランド復活の環境は整った
手前がイゾ・リヴォルタ「A3C」、その奥にイゾ・リヴォルタ「GTZ」’(2020年)
「カロッツェリア・ザガートの経営者として、もっと前にイゾ・リヴォルタの復活のクルマを開発することでもできたのでは?」との質問に、彼女は次のように答えた。
「ブランドを蘇えさせるということは、とくに自動車の世界では簡単なことではないのよ。時代の状況を察知すること、軸となるしっかりとしたコンセプトを立て、それに沿って綿密なプログラムを立てることが重要。それに伴うエネルギー、勿論大きな投資もしなくてはならないでしょ。
過去、投資家や情熱家が昔のブランドを蘇えらせようといくつかのクルマが復活したけれど、プロトを出してその後、続いている話はあまり聞かないと思わない?
私はイゾ・リヴォルタの孫として、この名前に傷つける事はしたくなかったの。心の準備、そのほか、確実な環境が整うまで待っていたかった。
数年前にPlay Station『グランツーリスモSPORT』の話が来て、仮想の世界のなかでイゾ・リヴォルタがグリフォのマークを付け参加することになったの。今まで眠っていたイゾ・リヴォルタへの世間の反応を知るためにもね。
その結果、世界中にファンの存在を確認することができて、確かな手応えを感じることができたのよ。ファンの心を目覚ませることができたの」
彼女はこれで環境は整ったと判断し、実車製作を決断する運びになったという。
実車はヴァーチャル上のアグレッシブなイゾ・リヴォルタと違い、イゾ・リヴォルタのコレクターをターゲットにプロジェクトを開始することとなった。
コンセプトはエレガントと同時にスポーティであること、無駄なものを排除したシンプルなラインであること、そしてクルマ全体にハーモニーがあること。
60年代のイゾ・リヴォルタのレトロなテイストを、新しいイゾ・リヴォルタGTZに取り入れることになった。祖父のレンツォは大のスピードファン。彼のコンセプトはレースにも参加可能な公道を走るGTカーを作ることだった。そして彼はその夢を見事にル・マン24時間レースのクラス優勝で果たした。そんな彼のスピリットはサーキットで果敢に戦ったイゾ・リヴォルタA3Cにある。プロジェクトはこのA3Cを中心に始まった。
■原田則彦氏、19台中12台が売約済みの「GTZ」のデザインを語る
25年以上ザガートのチーフデザイナーとして活躍しているのは、日本人の原田則彦氏だ。今回、原田氏にもこのプロジェクトについて語って頂いた。
●受け継がれたイゾ・リヴォルタのDNA
マレッラ・リヴォルタ(左奥)と原田則彦氏(右)
「マレッラから、A3Cの雰囲気を出来るだけ再現するようにいわれましたが、もともと、A3Cはとても現代のロードカーでは再現不可能な、驚異的に低いプロポーションがハイライトなクルマです。
また、レースカーとして仕立てられたせいもあってか、即興的に作られたように見える部分も多かったのです。しかし、60年代当時の最先端の技術が盛り込まれており、弾けるように奔放で、成長過程の自動車の持つ溌剌さが見る人を圧倒する、魔力的なクルマです。
これは、たやすい事では達成できない、難しい仕事になると初めから感じていました。何よりも、自然と美しいと感じられるデザインで無くてはならず、私は、育ち盛りの少女が、その雰囲気や身のこなしはそのままにし、さまざまに経験を積み、立派な成熟した大人の立ち振る舞いを習得した美しい女性に成長した様なイメージを目指すことにしました。
つまり、60年代と現在のギャップをポジティヴなものとして自然に捉えてゆこうと思ったのです」
そしてマレッラは、最後にGTZを前に笑顔で次のように語ってくれた。
「ノリ(原田氏)は、誰よりもザガートのことを理解しているデザイナー。絶対の信頼のもと、私の要望をすべてこのクルマに取り入れてくれたわ。
祖父が考える新生イゾ・リヴォルタはまさにこういう形になると思う。とても満足しているわ」
この難しいプロジェクトは、ザガートのスピリットを誰よりも把握し、マレッラの人となりをよく理解している原田氏だからこそできた作業だろう。
イゾ・リヴォルタ「GTZ」の1号車
コロナ禍のなかで誕生したイゾ・リヴォルタGTZ。人の行き来もクルマの行き来もできない。そんなカスタマーが実車を実際に見る機会が無かった時期にも関わらず、すでに、スイス、アメリカ、イギリス、日本、フランスなどから12台の予約が入っており、現在4台目を製作中とのことだ。
イゾ・リヴォルタのDNAが、マレッラを通してしっかりとこのクルマに受け継がれた。GTZの第1号車がザガートから旅立つ時、彼女の目から涙がこぼれ落ちたという。このような感動は彼女にとっては初めてのことだった。
残念ながら彼女が生まれた時には、すでに祖父はこの世にいなかった。彼のスピリットを現代のイゾ・リヴォルタに取り入れるという作業はリヴォルタ家の一員として非常に責任が重かったという。
このクルマを作る過程において、彼女はイゾ・リヴォルタの歴史をもう一度紐解き、クルマに対する祖父の情熱を感じ、想像のなかで祖父との会話や旅が出来たのではないだろうか。そして自分の体のなかにもイゾ・リヴォルタのDNAがしっかりと受け継がれいることを確信したに違いない。
各業界で女性の進出が目立つ今日この頃。しかし自動車業界の経営陣の女性はまだまだ少ない。マレッラのような女性の活躍はこれからの自動車業界にとって、重要なのではないだろうか。イゾ・リヴォルタの次の展開も楽しみだ。
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