「EVシフト」なぜプレミアムブランドで先行するのか? 価格面だけではないその理由
くるまのニュース / 2021年5月18日 17時10分
米GM傘下のキャデラックが、SUVタイプの電気自動車(EV)「リリック」を発表。このほか欧州のプレミアムブランドからも新型EVが続々と登場しています。世界的なクルマ電動化のなかで、なぜプレミアムブランドのEV化がいち早く進んでいるのでしょうか。
■高級EV続々登場! ハマーに続きキャデラックも
またしても、プレミアムな新型EVが登場しました。
米GMのプレミアムブランド、キャデラック「リリック」です。2023年モデルとして2022年春過ぎに市場導入され、日本でも発売される見込みです。
ボディ寸法は、全長4996mm×全幅1977mm×全高1623mm、ホイールベースが3094mmというフルサイズSUVで、近年のキャデラックのデザインをデフォルメした近未来感を思い切り盛り込んだ前衛的な雰囲気があります。
駆動方式は1モーターの後輪駆動で、最大出力は255kw、最大トルクは440Nm。搭載するリチウムイオン二次電池の電気容量は100kWhと日産「リーフ」の標準モデル(42kWh)の2倍以上ですが、車体重量は2545kgと重いことなどから、満充電での航続可能距離は482.8kmにとどまります。
GMといえば、リリックに先行して発表したGMC「ハマーEV」はアメリカでの市場導入が2023年前半からにもかかわらず、トップモデルの3モーター式のエディション1はアメリカ現地価格10万5595ドル(1ドル108円換算で1145万円)の初期の予約予約分はすでに完売しています。
リリックやハマーEVは、GMが独自開発したEVプラットフォーム「アルティウム」を使い、リチウムイオン二次電池は韓国のLG化学がアメリカ国内で生産します。
アルティウムについては、ホンダはGMと協業し、2024年モデルとして2023年春過ぎにホンダとアキュラで大型プレミアムEVをアメリカで市場導入することを明らかにしています。
そのほか、欧州のプレミアムブランドでは、ベントレーが2026年までにプラグインハイブリッド車(PHV)とEVにして、2030年には完全EV化。ボルボも2025年までにグローバルで新車50%をEVにして2030年には完全EV化します。また、それらよりひと足早く、ジャガーは2025年に完全EV化へ移行します。
■欧米プレミアムブランドの完全EV化 背景には何がある?
近年、世界各地でカーボンニュートラルに対する政府や企業の動きが加速して、クルマの電動化も一気に進み始めています。
その中で、大手自動車メーカーは当面の間、マイルドハイブリッド、ストロングハイブリッド、プラグインハイブリッド、EV、そして燃料電池車(FCV)など幅広い電動化ラインアップで対応しようしている一方で、欧米プレミアムブランドの完全EVシフトが目立つようになってきました。
その背景には、技術面や法律面、そしてマーティング面など、さまざまな要因が考えられると思います。
日産「リーフe+」。
まず、法律面では、欧州で進む企業別平均燃費(CAFE:カフェ)の厳格化、さらに米カリフォルニア州でのZEV(ゼロエミッションヴィークル)や中国のNEV(新エネルギー車)などの規制強化が大きな要因です。
一部のプレミアムブランドは販売台数によっては規制の直接的な影響を受けない場合もありますが、今後は各種規制の網が全ブランドにかけられる可能性も高く、プレミアムブランドとしては今がEVシフトへの最終決断するタイミングなのだと思います。
技術面では、プレミアムブランドの車種ラインナップが一般的にボディサイズの大きいクルマが多く、そのボディサイズ自体がEVシフトへのプラス要因となります。
EVでは満充電での航続距離を稼ごうとすると、搭載する電池の容量を大きくする必要があり、そうなると電池のコストがかさみます。
ホンダの三部敏宏社長は先日のオンライン記者会見で「現在搭載しているタイプのリチウムイオン二次電池では、電池パックでみて電気容量1kWhあたり100ドル(1ドル108円換算で1万800円)を切るのが限界」と話しています。
現状では1kWhあたり、125ドルから150ドル(1万3500円から1万6200円)だと推測され、リーフの上位グレード「リーフe+」(62kWh)での電池コストは84万円から100万円となり、車両価格全体の1/4から1/5にまで及びます。
こうしたコストがプレミアムEVの場合、ブランドイメージによって新車販売価格をある程度引き上げて電池コストを吸収することが可能になるのです。
そうした価格帯の値付けを、プレミアムブランドのユーザーは心理的に受け入れることができるのだと思います。
また、マーケティング面では、テスラの影響が極めて大きな要因です。
プレミアムブランドにおけるEVセグメントを、テスラに独り占めされている状況に対して、旧来からのプレミアムメーカーは自社の将来に対して強い危機感を持つようになりました。
各社と意見交換すると「正直、まさかここまでプレミアム市場のユーザーがEVを受容するとは想定していなかった」という声を数多く聞きます。
こうした、法律、技術、そしてマーケティングにおいてEVを取り巻く環境に変化が生じていることで、販売台数規模が少ないプレミアムブランドを中心にEVシフトが一気に進んだのではないでしょうか。
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