近い将来 ガソリン車は消えてなくなる!? これからクルマは本当にEVだけになるのか
くるまのニュース / 2021年5月19日 11時10分
最近の報道を見ると、あと10年か20年かで世界中が電気自動車(EV)で埋め尽くされるというような論調が目立つ。極端な報道だと、近い将来ガソリン車はすべて淘汰され、ハイブリッド車も生き残れないというものまである。はたしてそれは本当なのか。モータージャーナリスト大谷達也氏によるEV連載、最終回だ。
■10年後20年後に、クルマはすべてEVになっている!?
EVに関する連載も今回が最終回。第1回では、世界各国で大躍進を遂げているとされるEVが実は各国政府の助成金などを得て販売台数を伸ばしているのであって、しかも新車販売全体に占める比率はまだ2%から7%に過ぎないことを述べた。
続く第2回では日本市場で手に入る代表的な3台のEVについてその長所と短所を解説。既存のエンジン車と同じ利便性を備えたEVがいまだ登場していないことを指摘した。そして第3回では、いろいろと不便なところがあるEVでも、自分のライフスタイルを変えることでその魅力を享受できる可能性があることを示した。
最終回となる今回は、「EVは未来の自動車の切り札となりうるか?」という問いかけに対する私なりの見解について説明するつもりだ。
最近の報道を見ると、あと10年か20年かで世界中がEVで埋め尽くされるとの論調が目立つ。
いま、世界中の多くの自動車メーカーが電動化時代に向けて巨額の投資をおこない、製品を開発したり生産体制を整えているのは事実だ。でも、あと10年か20年でこの世からエンジン車がすべて消え去ってしまうというのは幻想に近いような気がする。
世界エネルギー機関(IEA)は2017年に自動車のドライブトレインに関する技術普及のシナリオを示した。それによると、2040年でもEVが自動車全体に占める比率は15%ほどで、FCVが約1%。残る80%以上は、それがプラグインハイブリッド(PHV)にせよ通常のハイブリッド(HV)にせよ、なんらかのエンジンを積んだクルマになると予測している。
4月15日に世界初公開されたメルセデス・ベンツのフラッグシップEV「EQS」。全長5216mm×全幅1926mm×全高1512mm、ホイールベース3210mmというサイズだ
日本貿易振興会(JETRO)が昨年12月に報じたところによると、「2030年までにEVを少なくとも3000万台に増やす」というEUの発表に対し、欧州自動車工業会は「現実的でない」と批判したそうだ。
なるほど、ヨーロッパ市場でEV比率が7%を越えたといっても、残る93%はPHVにせよHVにせよエンジンを積んだ既存のクルマであり、これに携わる労働者の大半を解雇し、生産設備を大幅に刷新しない限り、EUが示した目標は達成できない。そしてそんなことをしたら、社会が大混乱に陥るのは目に見えている。
おそらく、EVは今後も台数を伸ばしていくだろう。だからといって10年か20年で、いまあるエンジン車がすべてEVに置き換わると考えるのは現実的ではない。私がそう考える根拠は、ここにある。
■クルマの未来はひとつじゃない
EVを爆発的に普及させなければいけないとする考えの背景にあるのは、気候変動問題に関する国際的な枠組みを定めたパリ協定にあるといっていい。
そこには、地球温暖化が後戻りできない状況になるのを防ぐための方策として、
1:世界の平均気温上昇を産業革命以前に比べて2℃より十分低く保ち、1.5℃に抑える努力をする
2:21世紀後半には温室効果ガス排出量と(森林などによる)吸収量のバランスをとる
の2点が掲げられている。ここでとくに重要なのが2で、これをより具体的な目標として示したのが「2050年(つまり21世紀後半最初の年)までにカーボンニュートラルを達成する」というものなのだ。
つまり、パリ協定が定めているのはカーボンニュートラルであって、自動車のEV化ではない。EV化は、カーボンニュートラルを達成するための手段のひとつに過ぎないのである。
ところが、自動車産業界ではいつの間にか手段と目的が入れ替わり、100%EV化することが正義であるかのような主張がまかり通るようになった。これに拍車をかけたのが、電動車とEVの区別もつかない大メディアで、一部のポピュリズムに走った政治家がこの動きに連動して「エンジン車の販売禁止」を掲げはじめたというのが私の見立てである。
ただし、私自身はそれほど短期間にすべての自動車がEVに切り替わるとは考えていない。
なぜなら、前述のとおり自動車産業界の体制がそれほど短期間には変わらないというのが理由の第一。さらには、充電施設をどうするのか、大量のバッテリーの製造に必要なエネルギーと資源をどうやって確保するのか、などといった課題も、急速なEVシフトが難しいと考える理由のひとつである。
こうした世界的な情勢に対し、日本の自動車産業界は冷静な姿勢を貫いてきたが、それでも沸き起こる「EV化に乗り遅れた日本の自動車産業界は衰退の一途を辿る」との報道に耐えきれなくなったのか、先ごろ、トヨタとホンダが相次いで電動車の将来計画を発表したことはじつに興味深い。
トヨタは4月19日、上海ショーで新EVシリーズ「TOYOTA bZ」を発表、その第1弾となる「TOYOTA bZ4X」コンセプトを世界初公開した。トヨタは2025年までにEV15車種、新ECシリーズTOYOTA bZは2025年までに7車種を導入するという。
ここでトヨタは「HV/PHV/EV/FCVという電動車のフルラインアップ化を推し進め、さまざまな選択肢を用意」すると言明。
一方のホンダは「2040年までに北米、中国、日本でEVとFCVの販売比率を100%にする」と宣言して話題を呼んだが、これを発表したホンダの三部敏宏新社長は記者の質問に対して「話がぼけるのでEVとFCVと言っただけで、ほかの技術的可能性は否定しない」と言明。「100%EV化ではない」との考えを示した。
4月23日におこなわれたホンダ社長就任会見での三部敏宏新社長のスピーチでは、「先進国全体でのEV・FCVの販売比率を2030年に40%、2035年には80%、2040年にはグローバルで100%」を目指すという内容だった
* * *
30年ほど前、私は大手電機メーカーの研究所で光記憶デバイスの開発に関わっていた。
当時は、電子情報の大容量記憶装置として光記憶デバイスがもっとも有望視されていたのだが、その後の30年間で光記憶デバイスの座はハードディスクに奪われ、続いて半導体メモリー(SSD)に奪われた。さらにはインターネット通信が高速化し、手元に大容量記憶装置を置く必要さえ消え失せてしまった。
これだけの大変革が、たったの30年間で起きたのだ。したがって、自動車のドライトレイン技術に関しても、今後様々な研究開発や発明がされても不思議ではない。大切なのはカーボンニュートラルであってEV化ではないのだ。だから、未来の自動車がEVに一元化されるという予想に、私は異論を唱えたい。
「未来はひとつじゃない」。それが、このEV連載の私なりの結論である。
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