なぜ愛知県豊橋市は「輸入車の聖地」と呼ばれる? 世界トップクラスの自動車貿易を誇る理由とは
くるまのニュース / 2021年7月2日 17時10分
愛知県豊橋市は人口およそ38万人の中規模都市ですが、日本のゲートウェイ(玄関口)としてトヨタやスズキ、三菱のクルマがここから輸出されるほか、フォルクスワーゲングループやボルボ、プジョー、シトロエン、Jeepやフィアット、メルセデス・ベンツなど世界各国からクルマが輸入されていて、日本を走る輸入車の2台に1台が豊橋に入ってくるといいます。なぜ豊橋は「輸入車の聖地」といわれるような場所になったのでしょうか。
■2020年の三河港の自動車輸入台数はおよそ16万台
日本には数多くの輸入車が走っています。
上位はメルセデス・ベンツ、フォルクスワーゲン、BMWなどのドイツブランドですが、米国、フランス、イタリア、スウェーデンなど多彩な国々のクルマが輸入されています。
最新のデータによると、昨年2020年の輸入車登録台数は、29万7313台(出典:日本自動車輸入組合。乗用車のみ)。新型コロナウイルスの影響もあり、対前年比91.3%と1割近く落ち込みましたが、ここ数年は多少の増減はあるが30万台前後で推移しているということです。
国産車は、登録車と軽自動車を含めると2020年はおよそ460万台。つまり、全体のおよそ6%が輸入車という計算になります。
輸入車は当然、海外から日本へ輸入されますが、日本のどこにクルマが陸揚げされるのでしょうか。
じつは輸入車の大半が集中して陸揚げされる都市があります。それが愛知県豊橋市です。
豊橋市にはフォルクスワーゲングループジャパン(VGJ)の本社もあり、日本で販売される輸入車ブランドの多くがここ豊橋の港を経由して、日本各地へ出荷されています。また陸揚げされる港も、渥美半島に位置する田原市から内陸部の豊橋市と豊川市、そして蒲郡市まで及んでおり、それらの港湾エリア全体で三河港と呼ばれています。
三河港を管轄する豊橋市の「みなと振興課」によると、2020年の三河港全体の自動車輸入台数は16万933台(名古屋税関 豊橋税関支所発表の台数速報値)。直近1年間の輸入車登録台数全体と比べると、およそ55%が三河港で陸揚げされているのがわかります。
では、なぜ豊橋を中心とした三河港が輸入車の一大拠点となったのでしょうか?
歴史をたどると、1988年に三河港・神野地区でプジョーの輸入がはじまったのが最初になります。
以降、1990年にはメルセデス・ベンツ日本、1991年にはフォルクスワーゲングループジャパン(VGJ。当時はフォルクスワーゲンアウディ日本)、同年にローバージャパン、1993年にフォード、1997年にはポルシェや日本GM、1999年にジープ、2002年にジャガー、2004年にはボルボ、2007年にダッジ、2011年にフィアットグループ、2013年にマセラティジャパンと続きました。
1993年には台数、金額ともに日本一となり、2020年には台数ベースで16万933台、金額ベースで5722億8800万円と、28年連続で日本一の座を確保しています。ちなみに2位は千葉県の千葉港で、4万7942台/2200億920万円、3位は茨城県の日立港で、3万478台/1604億4660万円となっています。
豊橋市みなと振興課は「日本列島の中心地であり、需要が望める大阪へは200km圏内、東京には300km圏内と、比較的アクセスが良いことが挙げられます」とコメント。
VGJは、1992年に本社を東京から豊橋市に移転しました。その理由は「日本の中央に位置しており、全国のディーラーへの輸送に適した場所であることと、専用埠頭を確保できたことで豊橋に拠点を置きました」とのことです。
VGJ専用埠頭の横にあるモータープール。白いフルボディカバーは工場出荷時に被せられ、ボディを傷などから守る
VGJの陸揚げ施設は1992年から本格稼働したそうで、いまではテクニカルサービスセンターや中央部品倉庫、トレーニングセンターといった施設を備えています。
ちなみにテクニカルサービスセンターは、ディーラーに出荷される前の型式完成検査から最終検査までおこなっており、出荷前の点検と品質チェックを兼ねた検査態勢を敷いています。そして、トレーニングセンターでは全国のディーラーに勤務するメカニックが集まり、車両整備などの研修施設として利用されているそうです。
■日本の中央に位置するという場所的な利便性の高さ
ところで、フォルクスワーゲングループジャパンだけでなく、他の輸入車ブランドも三河港を拠点にしています。メルセデス・ベンツ日本もそのひとつです。
メルセデス・ベンツ日本の豊橋新車整備センターには2014年10月から併設されたデリバリーコーナーがあり、オーナーは自身の新車をここで受け取り、ドライブして帰ることも可能だ
同社は1990年から三河港を拠点にしており、当時は「候補地を選定しているなかで、日本の中央に位置し東名高速道路などへの便利なアクセスなど、物流拠点として優れた立地であり、また行政による積極的なインフラの整備もあったことで拠点に選びました」(メルセデス・ベンツ日本広報部)と、やはりアクセスが良いことで他の輸入車ブランド同様、三河港を選んだといいます。
メルセデス・ベンツ日本は三河港だけではなく、1992年から茨城県の日立港も陸揚げ拠点として利用を開始しました。
日立港にした理由ですが「販売台数が大きく伸びたことで整備能力を強化するために、日立港も拠点として利用し始めました(同)」ということです。また、各港の近くには陸揚げされた車両を検査・整備する新車整備センターも設置しています。
2010年にメルセデス・ベンツ日本は三河港から一度撤退しましたが、2011年の東日本大震災を機に、2014年に再度三河港での輸入を再開。いまでは三河港と日立港を併用していますが、「首都圏を含む東日本エリアは日立港、三河港は西日本と、区分けして利用しています(同)」ということです。
* * *
輸出国がドイツだと、車両はおよそ40日間かけて専用船に積まれて日本へ到着します。
VWやメルセデス・ベンツ、BMWやアウディなどのドイツブランドでも、ドイツ本国だけに工場があるわけではなく、南アフリカやオーストリアなどにも工場があるため、世界各国からこの豊橋に向けて専用船がやって来ます。たとえば2019年に生産が終了したVW「ザ・ビートル」は、遠くメキシコから太平洋を超えて来ていました。
遠くの国からやって来て、新車整備センターで厳重なチェックを通し、ようやく手元に届いた愛車だということを考えると、喜びもひとしおではないでしょうか。
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