クルマの原価はいくら? 新車200万円なら原価は約45万円? 複雑なクルマの価格事情
くるまのニュース / 2021年7月4日 16時10分
巷では、商品の売値ではなく原価にこだわる人を「原価厨」と呼ぶことがあります。一方でクルマは「家の次に高い買い物」ともいわれる高額商品ですが、クルマの原価とはどれくらいなのでしょうか。
■200万円の新車なら原材料費はいくら?
新車であれば少なくとも100万円以上、高額なものだと1000万円を優に超える「クルマ」は、多くの人にとって人生でもっとも高額な買い物のひとつであるといわれています。
そもそも、なぜクルマはそれほど高額なのでしょうか。
2020年、日本でもっとも売れたクルマはホンダの軽自動車「N-BOX」です。
N-BOXは、ベースグレードで142万8900円となっていますが、実際の乗り出し価格は170万円前後になることが多いようです。
近年、全般的にクルマの価格が上がっているとはいえ、N-BOXの新車価格は決して高いほうではなく、新車市場のなかではむしろ安いほうです。
新車の価格は、100万円台から1000万円以上、なかには億単位のものも存在するなどまさにピンキリです。
1億円を超すような「ハイパーカー」は別格にしても、都内を走れば1000万円以上のクルマに遭遇することは珍しくないほど、高級車が多く走っています。
ただ、「クルマ」という枠組みから外れて考えてみれば、100万円以上のものを買うというのは、多くの人にとって、人生でもそれほど多くはないことでしょう。
では、なぜクルマはこれほど高額になるのでしょうか。
ごく単純化すると、クルマの新車販売価格は、製造原価(クルマそのものをつくる費用)+販売管理費(クルマを販売するために必要な費用)に大別することができます。
製造原価は、さらに原材料費や開発費、工員の人件費などに、販売管理費は広告宣伝費や販売員の人件費などに細分化することができます。
自動車業界では、製造はメーカー、販売はディーラーがおこなうという「工販分離」が一般的となっています。
そのため、ディーラーはメーカーから新車を卸売価格で購入することになるわけですが、当然のことながら、その価格は厳重に秘匿されています。
ただ、ヒントがないわけではありません。ある自動車メーカーの幹部は「海外では卸価格が公開されている場合もあり、日本でもそれと大差ない」と打ち明けます。
そうした情報を総合すると、多くの場合、ディーラーはメーカーから75%前後の卸価格で購入しているようです。
つまり200万円の新車であれば、ディーラーの粗利益は50万円ほどであり、そこから販売管理費などを引いたものがディーラーの利益となります。
では、150万円で卸売をした新車を製造するのに、メーカーはどれほどのコストをかけているのでしょうか。
一般的に、工業製品の原材料費率はどんな製品でも30%程度に集約されるといわれています。
つまり、新車価格が200万円、卸価格が150万円の新車は、45万円程度の原材料費で製造されていると考えることができます。
あくまで参考程度ですが、コンパクトカーの車重と近しい、1000kgの鉄鋼を購入した場合、現在の相場では約5万円前後です。
そこに電子部品やインテリアパーツの原材料費などを考慮すると、45万円程度という数字は妥当なようにも見えます。
ここまでを整理すると、新車価格200万円のクルマの場合、50万円がディーラーの得る利益(粗利)となり、45万円が原材料費となり、残りが105万円ということになります。
仮にクルマの原材料費が45万円だったとして、一般の人が45万円分の原材料でクルマを作ることができないのは明らかです。
クルマの製造には、莫大な費用によって建設された生産設備が必要です。また、そもそも新型車の開発には、非常に多額の研究開発費用もなくてはなりません。
新規工場の建設は1000億円規模の超大型プロジェクトになることも多く、主力車種であればその研究開発費用も数百億円規模になるといわれています。
そして何より、それらを実際におこなうための多くの人の人件費も必要です。
これらの途方も無い費用を1台あたりに転嫁したものが残りの105万円の内訳といえます。
■実は自動車業界のシステムは100年前から変わらない?
個々人の価値観や懐事情によって感じ方は千差万別ではあるとしても、それでも、「クルマは高い」と感じる人は多いかもしれません。
いくら内訳を細かく説明されても、500万円の軽自動車はまず売れないように、価格は需要側のニーズによっても決定されるものです。
つまり、現実的には販売価格に合わせて原材料費や人件費、販売管理費などを調整することのほうが多いといわれています。
もちろん、単純に原材料費を下げたり、研究開発や製造の人件費を下げたりしては、品質の低下を招いてしまいます。
品質を下げずに製造原価を下げることに、多くの自動車メーカーは苦心しているのです。
そのひとつの答えが「大量生産」で、いまからおよそ100年前、フォードは大量生産システムを導入したことで、それまで一部の富裕層のものであったクルマを大衆化させることに成功しました。
基本的に、製造量を増やせば増やすほど、製品ひとつあたりのコストを下げることができます。
北米で人気の日産新型「パスファインダー」の生産風景
一方、ユーザーニーズに合わせたバリエーションも必要であることから、できるだけ部品を共有化しつつ、エクステリアやインテリアなどのデザインで差別化を図るということが求められます。
近年多くの自動車メーカーが採用しているプラットフォームの共有も、大きくいえばこうした考えのもとに成り立っています。
ただ、こうした大量生産システムを基礎として成立してきた自動車産業も、CASE(Connected, Autonomous, Sharring, Electrified)の時代となり、見直される必要があるとの指摘も出ています。
単純な価格競争だけでは、メーカーもユーザーもいつか疲弊してしまいます。
「高くてもこのクルマを買いたい」と思ってもらえるようなクルマづくりが、今後ますます求められていくことでしょう。
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