「ジープ」にしか見えないアルファ ロメオがあった! 「マッタ」の数奇な運命とは
くるまのニュース / 2021年7月5日 12時10分
アルファ ロメオが第二次世界大戦後に軍用車として生産した「1900M」、通称「マッタ」の誕生から70年を記念して、その歴史を振り返る。
■まるでジープのようなアルファ ロメオはこうして生まれた
2021年は、数多くの自動車史上に冠たる名作、あるいはエンスージアストの記憶に残るクルマたちが、記念すべき節目の年を迎えることになった。
アルファ ロメオの完全戦後型モデル「1900 ベルリーナ/スプリント」のパワートレインを流用したジープタイプ多目的ビークル「マッタ」こと「1900M」もその1台だ。1951年のデビューから、今年で70周年を迎えた。
今回は、われわれVAGUEでもその誕生にまつわるストーリーを紹介することで、自動車の歴史の陰でひっそりと、しかし確たる存在感を示す1台への敬意を表したい。
●イタリアの国策として誕生した「1900M」
アルファ ロメオ1900Mが生み出された訳は、1971年の「アルファスッド」誕生と同じ要因が絡んでいる。それは、この時代のアルファ ロメオが事実上の国営企業だったことが、重要なバックグラウンドとなっていたのである。
第二次大戦前から、モータースポーツへの過大な投資などによって、経営ひっ迫状態が慢性的なものとなっていたアルファ ロメオ社は、時のファシスト政権の強い意向もあって1934年から国営公社「イタリア政府産業復興公社(I.R.I.)」の傘下に入る。
大戦後には、自動車製造や造船、航空機製造、鉄道開発まで含む重工業全般を集約したI.R.I.の持ち株会社「フィンメカニカ(Finmeccanica S.p.A/現レオナルドS.p.A.)」が、アルファ ロメオの実質的な親会社組織となっていた。
そしてフィンメカニカ首脳陣が、イタリア国軍に納入する車両は国営企業であるアルファ ロメオが受託するべきと考えたのは、しごく自然の成り行きといえるだろう。
1900Mの名が示すとおり、メカニカルコンポーネンツの供給源となったのは、アルファ ロメオが戦後初めて新規開発したミドル級セダン「1900」だった。
一方、末尾の「M」は「Militare(ミリターレ=軍)」の頭文字。第二次大戦中に世界の戦場にて活躍し、1943年のイタリア無条件降伏・連合軍参入後は、イタリア軍にも配備されたアメリカの「ジープ」の影響を受けたものとされる。
1949年の北大西洋条約機構(NATO)軍設立に伴い、1950年にイタリア防衛省がおこなった、軍および警察用多目的車両の入札に参加することが開発の目的だったのだ。
フレームは、このクルマのために新規開発された閉断面の鋼鉄製ラダー。リアアクスルは、この類いのクロスカントリーカーでは一般的なリーフリジッドながら、フロントアクスルは1900ベルリーナと同じ、ダブルウィッシュボーン式の独立懸架とされた。
車体サイズは元祖ジープや最初期の「ランドローバー」に近いもので、ホイールベースは2200mmで、全長3520mm×全幅1575mm×全高1820mm(ソフトトップ込み)であった。地上高は20.5cmで、走行可能な最大水深は70cmとされた。
●高度なDOHCエンジンを搭載したクロスカントリーカー
このあたりのスペックは、お手本であるジープやランドローバーと大きくは変わらないのだが、アルファ ロメオ1900Mには当時の常識を覆すトピックがあった。それは、アルファ ロメオが第二次大戦後に初めて開発したベルリーナ(セダン)「1900」用の直列4気筒DOHC(!)1884ccエンジンを搭載していたことである。
このツインカムエンジンは、悪路走行時に必要な低速トルクを得るため、1900ベルリーナの80psから65psにディチューンされていた。それでも、元祖ウィリスMBジープの2.2リッターSV(サイドバルブ)4気筒エンジンが約60psだったことを思えば、300cc少ない排気量で同等以上のパワーを得ていたことになる。
加えて、最低地上高をより稼ぐために障害となる、クランクケース下のオイルパンを排除。レーシングカー譲りのテクノロジーであるドライサンプの潤滑方式を採用していたことも、特筆に値するトピックといえよう。
この高度極まりないエンジンに、副変速機つき前進4速のトランスミッションを介して、通常は後2輪、または、トランスファーレバーの作動で全4輪を駆動。最高速度は105km/hをマークするかたわら、50度の坂を上る登坂能力も兼ね備えていたと謳われていたのだ。
■「1900M」は、ミッレ・ミリアで優勝していた!
アルファ ロメオ1900Mは「51年式偵察車両」として正式採用されたことから「AR(Autovettura da Ricognizione=偵察車両)51」の名のもとに、イタリア陸軍に納入。生来の目的である偵察のほか、牽引車両などにも重用されることになった。
後世に撮影されたオフィシャル写真
また、翌1952年には民生用モデルにあたる「AR52」も追加され、警察/軍警察(カラビニエリ)や消防署などに採用されたほか、農業用動力車としても使用された。さらに、戦後アメリカ軍から大量放出されたジープによって、ヨーロッパ大陸で新たに生まれた購買層である、4輪駆動車でクロスカントリー走行を行うことをスポーツとして楽しむ顧客や、アウトドア的なファッションとして使用するユーザーにも、ごく一部ながら販売されたといわれている。
●ニックネーム「マッタ」の由来は?
ちなみに、このモデルが一般的に「マッタ(Matta=狂った、常軌を逸したの意)」のニックネームで呼ばれたのは、「どこでも走る」と大々的に謳われた当時の広告コピーが原因ともいわれている。
たしかに同じアルファ ロメオでも、第二次大戦中のイタリア軍が使用していた「6C2500コロニアーレ(Coloniale)」は、同時代の超高級ツーリングカー「6C2500トゥリズモ」の車高を上げ、簡素なオープンボディを組み合わせた後輪駆動車であり、それに比べたら、モダンな4WDの1900Mはまさしく「どこでも走るクルマ」と映ったに違いない。
さらに、アルファ ロメオが歴史上初めて、スポーティではないクルマを一般向けに販売したことについて、古くからのアルフィスタ(アルファ ロメオ愛好家)は「スキャンダル」と評価。これも「マッタ」というニックネームの要因となったのは間違いないだろうが、それでもイタリア発のジープ型多目的クロスカントリーカーとして、一定の評価は得ることができたようだ。
●マッタが短命に終わった理由とは
ところが、同じ1951年にイタリア最大の自動車メーカー、フィアットから同様の多目的ビークル「カンパニョーラ(Campagnola)」が登場したことで、アルファ ロメオ1900Mシリーズの行く末には暗雲が立ち込める。
戦後フィアットの最上級ベルリーナ「1900」から流用した、1901ccの直列4気筒OHVのガソリンないしはディーゼルエンジンを搭載し、車体構造もアルファ ロメオ1900Mより格段とシンプルだったカンパニョーラは、軍隊でのヘビーデューティな使用環境には適していると判断された。
そのうえ、イタリアの戦後復興には欠かせない存在であった巨大コングロマリット、フィアット・グループとの関係を良好にしておく必要性もあったことから、すでに1951年に採用されていたアルファ ロメオと並行して、1954年からフィアット・カンパニョーラもイタリア国軍およびNATOに正式配備。結果として、アルファ ロメオ1900Mにとって代わるかたちとなった。
●伝説の都市間ロードレース“ミッレ・ミリア”で大活躍
AR51は、生産開始の翌1952年までに1921台がラインオフ(ほかに2012台説や2054台説もあり)され、軍に配備された。そして、民生用としてマーケットの拡大が期待されたAR52も、1954年ごろまでにわずか154台でフェードアウトを余儀なくされてしまった。フィアット・カンパニョーラが1974年に2代目へと移行し、1987年まで生産されたことを思えば、いささか寂しいといわざるを得ない。
しかし1900Mマッタには、いかにもアルファ ロメオらしい素晴らしいエピソードがあることを、ここに特記しておきたい。
当時としては市販スポーツカーでさえも珍しかったDOHCエンジンを搭載した高性能車らしく、1952年の「ミッレ・ミリア」軍用車カテゴリーに2台体制でワークスエントリーした「1900M-AR51」の1台は、アントニオ・コスタ中尉/フランチェスコ・ヴェルガ准尉組のドライブにて、堂々のクラス優勝を果たしたのだ。
当時のイタリアにおけるもっとも重要なレース、ミッレ・ミリアに、軍人のドライブによる軍用車部門があったことにまず驚かされるが、この勝利もまた、まさしく「マッタ」と呼ぶべきエピソードであろう。
ちなみにこの時の1900Mマッタは、同じく2台体制でエントリーしていた宿敵フィアット・カンパニョーラよりも40分以上早く、ブレシアのゴールに到着を果たしていたという。
* * *
2016年に、アルファ ロメオ初のSUV「ステルヴィオ」がデビューした際、当時の報道ではその祖先として1900Mの存在も取り上げてはいたものの、詳細が深く掘り下げられるまでには至らなかったようだ。
しかし「マッタ」こと1900M-AR51/52は、誕生から70年を経ても語り継がれるに相応しい、伝説のアルファ ロメオだったのである。
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