リアウイングがない! プジョー「9X8」は2台体制でFIA世界耐久選手権に参戦
くるまのニュース / 2021年7月8日 19時10分
プジョーは2021年7月6日、2022年のFIA世界耐久選手権(FIA WEC)でのデビューを目指し、最新世代のハイパーカー「プジョー9X8」を発表した。
■レースのためのデザイン
プジョーは、2022年のFIA世界耐久選手権(FIA WEC)でのデビューを目指し、ハイブリッド・パワーユニットを搭載し、全輪駆動を採用した最新世代ハイパーカー、プジョー「9X8」を2021年7月6日に発表した。
プジョー9X8は、1992年と1993年にル・マン24時間レースで勝利を飾ったプジョー「905」と、2009年にフランスのクラシックレースで優勝したプジョー「908」の直接的な後継者で、同ブランドの最新の耐久レーサーである。
このあたらしいプロトタイプは、グローバルなモータースポーツの世界で長年にわたって成功を収めてきたプジョーが、ひとめでそれとわかるブランドの強力な個性を備えたコンペティティブなマシンを提供していくことを意味しているという。
同プロトタイプはブランド主導のプロジェクトであり、ネオ・パフォーマンスというビジョンに基づいて開発された。ネオ・パフォーマンスのビジョンとは、プレミアム・スポーツの血統と、卓越したスタイリング、効率性、そして将来のロードカーに引き継ぐことのできる技術的な知見を組み合わせたものである。
●外観とエアロダイナミクス
プジョー9X8のフォルムとエアロダイナミクスは、プジョー・スポールのテクニカル・ダイレクター、オリビエ・ジャンソニ氏の下で働く開発エンジニアと、プジョー・デザイン・ダイレクターのマティアス・ホッサン氏が率いるデザインチームの協力が結実したともいえる出来栄えだ。
彼らのアプローチは、FIA(Federation Internationale de l’Automobile)とACO (Automobile Club de l’Ouest)が策定した、耐久レースの主要カテゴリーであるLMP1の後継となるLMH(ル・マン・ハイパーカー)のレギュレーションに基づいているという。同クラスは、エアロダイナミクスに関するあたらしい技術規則が適用されたことで、自由度を拡大。革新的なマシンを生み出すことができるようになり、デザインチームの貢献度がさらに高められた。
プジョーのエンジニアとデザイナーは、この機会を最大限に利用し、創造的なプロセスのもと既成概念からの脱却を果たしたまったくあたらしいジャンルのハイパーカーを生み出したのだ。
プジョー9X8のネーミングにある「9」の文字は、ブランドアイコンとなったプジョー「905」(1990年から1993年)とプジョー「908」(2007年から2011年)という、近年の最高レベルの耐久レーシングカーに採用されているネーミングが継承されたという。
そして「X」は、プジョーハイパーカーの全輪駆動技術とハイブリッド・パワートレインを意味し、モーターレーシングの世界におけるブランドの電動化戦略を体現。「8」は、208、2008、308、3008、5008、そして先日、このハイパーカーを製作したエンジニアやデザイナーの手によるPSE(PEUGEOT SPORT ENGINEERED)の名を冠した最初のクルマとなった「508 PSE」に至るまで、プジョーの現在のモデル名すべてに使われているサフィックス(接尾語)である。
■いまにも飛びかかろうとする大きな猫を描いたスケッチから着想
プジョーのデザイン・ダイレクターであるマティアス・ホッサン氏は、次のように述べている。
「9X8はあくまでプジョーであるゆえに、オリジナルのスケッチは、いまにも飛びかかろうとする大きな猫を描いたものでした。
プジョー9X8の全体的なラインはブランドのスタイリングキューを表現しており、そのスリークでレーシー、かつエレガントなフォルムは感情とダイナミズムを刺激します」
2022年のFIA世界耐久選手権(FIA WEC)でのデビューを目指して開発された最新世代ハイパーカー「プジョー9X8」のリアデザイン
●パワフルなブランド・アイデンティティを醸し出すデザイン
9X8のフロントとリアのライティングシグネチャーは、3本の爪のようなストロークで構成されており、プジョーのロードカー同様のトレードマークとなっている。また、ブランドのあたらしいライオンヘッドロゴは、マシンのフロントとサイドにバックライトで表示。ボディとコックピット内のセレニウム・グレーとクリプトナイト・アシッド・グリーン/イエローのコントラストは、508と508 SWで導入された、あたらしいPEUGEOT SPORT ENGINEERED(508 PSE/508 SW PSE)のカラースキームが反映されている。
さらにデザイナーは、9X8のインテリアにも細心の注意を払ったという。マティアス・ホッサン氏は次のようにインテリアのデザインについて強調した。
「コックピットは、これまでのレーシングカーは機能的なだけで、ブランドのアイデンティティを持たないものでした。ですが、わたしたちは特別なアプローチを取りたかったのです。
われわれのカラースキームとプジョーのインテリア・スタイリング・シグネチャーであるi-Cockpitを組み合わせることで、9X8のコックピットは独自の雰囲気を醸し出し、車載カメラで撮影してもそれがプジョーのマシンであることがひとめでわかるようになっています」
エクステリアでは、彫刻的なホイールが、すっきりとしたシャープな構造のサイドの面とバランスのとれたラインに貢献。ウィングベントによってタイヤの上部は露出しており、完璧にインテグレートされたサイドミラーによって空気の流れが妨げられることなくマシンの上を通過するようになっている。
プジョーCEOのリンダ・ジャクソン氏も「わたしはプジョー・デザインとプジョー・スポールのチームを知っており、彼らは常に質の高いイノベーティブな作品を生み出していることも知っています。しかし、それでも9X8には率直にいって圧倒されました。とにかく素晴らしいのです。その革新的で流れるようなラインが、パワフルなブランド・アイデンティティを醸し出しているのは見事というほかありません」と、コメントした。
●リアウイングがない!
プジョー・スポールのWECプログラム・テクニカル・ダイレクターであるオリビエ・ジャンソニ氏は次のように説明している。
「あたらしいル・マン・ハイパーカーのレギュレーションは、性能の向上を平準化するために策定されています。この新レギュレーションのもと、9X8を設計することは情熱的な経験でした。というのも、わたしたちには、マシンのパフォーマンス、とくにエアロダイナミクスを最適化するために、常識にとらわれない方法を自由に探ることができたからです。
レギュレーションでは、調整が可能な空力デバイスはひとつだけと規定されており、リアウイングについては規定されていませんでした。わたしたちの試算とシミュレーションにより、リアウイングがなくとも高いパフォーマンスが可能であることがわかりました」
さらに、ステランティスのモータースポーツ・ダイレクターであるジャン-マルク・フィノ氏は以下のように述べている。
「プジョー9X8にリアウイングを付けないことは、大きな革新的なステップです。われわれは、この機能をなくすことができるほどのエアロダイナミクスを達成しました。でも、どうやってとは聞かないでください。できる限り秘密にしておきたいと思っていますから!」
■ル・マン、それはプジョーの実験室
2020年9月に耐久レースの新クラス「ル・マン・ハイパーカー」への参戦が発表されて以来、パリ近郊のベルサイユにあるファクトリーでは、9X8の開発に情熱が注がれている。そして予定通り、PEUGEOT HYBRID4 500KWパワートレインを構成する内燃機関であるリアに搭載された500kW(680ps)の2.6リッター90度V型6気筒ツインターボエンジンは、2021年4月からベンチでマイレージを重ねてきたという。
2022年のFIA世界耐久選手権(FIA WEC)でのデビューを目指して開発された最新世代ハイパーカー「プジョー9X8」のパワートレイン
フロントに搭載された200kWのモーター・ジェネレーター・ユニットと7速シーケンシャル・ギアボックス、そしてバッテリーは、ベンチテストの検証スケジュールに沿って組み立てられた。このパワフルで技術的に洗練された高電圧(900ボルト)高密度バッテリーは、プジョー・スポールとトタルエナジーズの子会社であるサフトによる共同開発だ。
ジャン・マルク・フィノ氏は、次のように説明している。
「われわれが必要とするエネルギーについての目標は、完璧な信頼性と完璧なコントロールです。ル・マンは、ピットインの回数で勝敗が決まる、もはや24時間のスプリントレースになっています。新型ハイパーカーの優れたエネルギー効率は、ロードカーの世界でもまもなく見られるであろうことを予感させます。このことは、パワートレインからエアロダイナミクスに至るまで、あらゆる面で超高効率の達成に貢献しなければならない、9X8のパッケージの作業に基本的な影響を与えました」
9X8は、空力的、機械的、電子的な効率性に加え、耐久レースの世界におけるプジョーの広範なエンジニアリングの専門知識を披露することになる。そして過酷なレースとして知られるル・マン24時間レースで走行する5400kmの距離は、F1のフルシーズンの走行距離に近いため、効率性と信頼性の両方が重要となるのだ。
●なぜプジョーはル・マンにチャレンジするのか
どうしてル・マンに参戦するのか、リンダ・ジャクソン氏がその理由を説明した。
「プジョーが耐久レースに参加するのは、スポーツとしての側面だけではありません。耐久レースは、わたしたちに極限の実験室を提供してくれるモータースポーツであり、だからこそ、ル・マンとの結びつきが強いのです。
レーストラックでの結果よりも重要なのは、24時間という極限状態のなかで、わたしたちの技術や研究成果を証明する機会を与えてくれることです。ル・マンは、われわれが現在開発しているロードカーの燃料消費量、ひいてはCO2排出量を削減するためのハイブリッドシステムや技術を検証するための競争的な環境を提供してくれます。
プジョー・スポールのチームは、自分たちの研究が市販車に反映されているのを見て、誇りに思っています。わたしたちの顧客にとって、ル・マンは、わたしたちのクルマの品質を証明する実験室なのです」
なお、2022年のFIA世界耐久選手権には、2台のプジョー9X8が参戦する予定となっている。
●プジョー9X8テクニカルデータ
クラス:ル・マン・ハイパーカー(LMH)
ボディサイズ:全長5000mm×全幅2080mm×全高:1180mm
ホイールベース:3045mm
パワートレイン:PEUGEOT HYBRID4 500KW (全輪駆動)
リアドライブトレイン:500kW(680hp)、2.6リッター90度V6ツインターボ、ガソリン内燃機関+7速シーケンシャルトランスミッション
フロントドライブトレイン:200kW電動モータージェネレーター+1速減速機
バッテリー:プジョー・スポール、トタルエナジーズ、サフトの共同開発による高密度の900ボルトバッテリー
燃料と潤滑油 :トタルエナジーズ
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