フェラーリ「296GTB」の下剋上的な速さを検証! フィオラーノ ラップタイム BEST10
くるまのニュース / 2021年7月24日 19時10分
全世界をセンセーションに巻き込んでいるフェラーリの新型車「296GTB」。どうしてセンセーションを起こしているのかといえば、自社テストコース「フィオラーノ」にて、1分21秒という量産ピッコロ・フェラーリの歴代最速ラップタイムを計上したからだ。そのタイムがいかに凄いタイムであるのか、フィオラーノ ラップタイム ベスト10を発表しよう。
■フェラーリだけがラップタイムを発表できる跳ね馬の聖地
前世紀以来フェラーリは、ニューモデル、ことにミッドシップモデルがデビューするたびに、フィオラーノにおけるラップタイムを誇らしげに公表するのが、フェラーリでは恒例となっているが、それではこれまでのストラダーレ・フェラーリが計上してきたラップタイムはどれほどのものなのか。そもそもフィオラーノとはどんな場所なのか。
今回VAGUEではそれらの疑問について、調査してみた。
フィオラーノテストコースを眺める
●伝説のテストコース、フィオラーノとは?
「ピスタ・ディ・フィオラーノ(Pista di Fiorano:フィオラーノ・サーキット)」は、フェラーリ・マラネッロ本社工場の敷地内、かつては果樹園だったという土地を利用し、1972年に開設された。
フィオラーノとは、マラネッロ隣町の地名。同じフェラーリ本社敷地内であっても、サーキットのある区画の行政管区は「フィオラーノ・モデネーゼ」になるからという。
1周2.976kmのコースは、当時F1GPが開催されていた世界各国のサーキットを再現できるようデザインされたとのことで、立体交差やヘアピン、低中速コーナーが連続する、なかなかの難コースとなっている。
F1ではFIA公式の合同テストをのぞくテストランが、事実上の禁止となってしまった現在ではもはや見られなくなってしまったが、かつてはシーズン前からここでフェラーリF1マシンたちが精力的にテストをおこない、のどかな田舎町であるマラネッロ/フィオラーノの街中に、素晴らしいサウンドが響き渡るさまが風物詩となっていた。
この伝説的なテストコースでは、当然ながらフェラーリの市販ストラダーレのテストランもおこなわれ、デビュー時にはフェラーリ社自ら、あるいは自動車メディアによって計上されたラップタイムが公表されることもある。
これからその歴代ベスト10を、カウントダウン形式で紹介しよう。
2019年デビューの「F8トリブート」
●第10位/「F8トリブート」:1分22秒50
長らくフェラーリの屋台骨を支えてきたV8「ピッコロ・フェラーリ」の、おそらくは最後の1台になると目されている「F8トリブート」は、2019年にデビュー。約4年という比較的短命に終わった「488GTB」の、実質的な大規模マイナーチェンジモデルである。
V8ツインターボユニットは488GTBから50psアップの720psをマークし、空力面でもリファインが施された。
ちなみに、488GTBのタイムは1分23秒00だったことから、パワーアップや細部のリファインによって0.5秒のアドバンテージを得たことになる。
2012年デビューの「F12ベルリネッタ」
●第9位/「F12ベルリネッタ」:1分22秒40
このコースの名を冠した「599GTBフィオラーノ(日本では599)」の後継モデルとして、2012年にデビューしたFR駆動のV12ベルリネッタ。
F140系V12エンジンは、599はもちろんエンツォも凌駕する740psをマーク。7速DCTとの組み合わせで、驚くべき速さを実現した。
2002年デビューの「エンツォ・フェラーリ」
●第8位/エンツォ・フェラーリ:1分22秒30
2002年、フェラーリ「F50」に続く「スペチアーレ」第4弾として誕生。純粋主義的なF50が、絶対的な動力性能ではマクラーレン「F1」に敵わなかったことから、当初から大排気量・大パワーを前提として開発されたという。
660psを発生するF140系V12エンジンに、スペチアーレでは初となるパドルシフト式6速シーケンシャルMTを採用。カーボンファイバー製モノコックと組み合わせたエンツォは、間違いなく21世紀初頭における世界最速スーパーカーであり、のちに登場するフェラーリの「ベンチマーク」として、長らく立ちはだかることとなった。
2017年デビューの「812スーパーファスト」
●第5位/「812スーパーファスト」:1分21秒50
2017年に初公開された、現行における量産フェラーリのフラッグシップ。「F12ベルリネッタ」をベースに大規模なブラッシュアップを施したモデルで、自然吸気V12エンジンは800psに到達した。
1960年代の超豪華フェラーリ「500スーパーファスト」にオマージュを捧げた名を持つにもかかわらず、「F12tdf」で初採用された後輪操舵システムを進化させた「バーチャル・ショートホイールベース2.0システム」など、速さへの探求はホンモノであった。
2018年8月デビューの「488ピスタ・スパイダー」
●第5位/「488ピスタ・スパイダー」:1分21秒50
488シリーズのハードコアモデル、「488ピスタ」のスパイダー版として2018年8月に初公開された488ピスタ・スパイダーは同着の第5位。
車重はベルリネッタより100kgアップの1380kgとなったが、フェラーリは0-100km/hの加速タイムが同一の2.85秒と公表。その自信たっぷりの数値を裏づけるように、フィオラーノでのラップタイムも後述するベルリネッタ版と変わらないものとなった。
■現状における最速はスペチアーレではない!
フェラーリ・ストラダーレが聖地「ピスタ・ディ・フィオラーノ」におけるフェラーリ・ストラダーレのラップレコードBest10。いよいよここからは、上位5台を紹介しよう。
2018年3月デビューの「488ピスタ」
●第5位/「488ピスタ」:1分21秒50
フィオラーノにおける市販フェラーリ・ストラダーレのラップタイム第5位は、488GTBをベースとするハードコア版として、2018年3月のジュネーヴ・ショーで世界初公開された488ピスタだ。
カーボンファイバーの大胆な使用や、内外装のスパルタンな仕立てにより488GTBから約90kgのダイエットを果たしたとともに、V8ツインターボエンジンは50psアップの720psとしたことで、812スーパーファストや488ピスタ・スパイダーと同一の1分21秒5をマークした。
なぜか細かい数値は公表されないものの、おそらく3台のラップタイムに微小な差はあるとは思われる。それでも、きわめて興味深い結果となったといえるだろう。
2015年デビューの「F12tdf」
●第3位/「F12tdf」:1分21秒
2015年末に発表、F12ベルリネッタをベースとする799台のみが生産されたハードコアモデル。「バーチャル・ショートホイールベース」と称する後輪操舵システムを初めて採用した市販フェラーリであるとともに、V12エンジンは780psまでスープアップされた。
先鋭的な空力デバイスや電制システムにアシストされているとはいえ、古典的なFRでこれだけのラップタイムをたたき出したのは、やはり驚くべきことと思われる。
F12シリーズの改良版812スーパーファストのハードコア版「812コンペティツィオーネ」はすでに発表済み。しかもフィオラーノに隣接して新設された「GTスポーティング・アクティビティ」部門施設をワールドプレミア会場としたにもかかわらず、現時点ではラップタイムについての発表はなされていないようだ。
2021年デビューの「296GTB」
●第3位/「296GTB」:1分21秒
このほどデビューした296GTBのラップタイムは、現時点での第3位となった。
高度なプラグインハイブリッド・システムを持つことで、車両重量はF8トリブートよりも大幅に重い1470kg(メーカー公表値)となってしまったものの、電動モーターとの組み合わせで得られた830psのパワーや、最新鋭のエアロダイナミス/ヴィークルダイナミクスの効力は絶大のようで、F8トリブートより1.5秒、488ピスタより0.5秒も速いことになる。
フェラーリでは296GTBをF8トリブートの後継モデルとは見なしていない旨を言明しているそうだが、これだけの速さを誇るスーパーカーをF8シリーズの下位モデルに置くとは考え難く、いずれは事実上の代替わりとなるのではないかと思われる。
2012年デビューの「ラ・フェラーリ」
●第2位/「ラ・フェラーリ」:1分19秒70
2012年、エンツォ以来10年ぶりとなる真正スペチアーレ。エンツォ時代のサーキット専用モデル「FXX」のノウハウを注ぎ込んだ800psのV12エンジンに、フェラーリがF1GPのノウハウを生かして開発してきたハイブリッドシステム「HY-KERS」から、電動モーターの163psが加わった結果、システム総計963psというパワーを獲得した。
車体はもちろん高度なカーボンモノコックで、車両重量は1255kg(メーカー公表値)。フェラーリ・スペチアーレらしく、ロードカーとしては最上級のエアロダイナミクスも追求された結果、長らくフィオラーノにおけるタイトルホルダーの地位に君臨した。
2019年デビューの「SF90ストラダーレ」
●第1位/「SF90ストラダーレ」:1分19秒
2019年6月、まさにフィオラーノで発表されたSF90ストラダーレは、現時点における最新スペチアーレにして、フィオラーノにおける最速のストラダーレとなった。
車体構成は、アルミ合金とカーボンファイバーを組み合わせてスペースフレームを構成するという新しいもの。そしてV8ツインターボ+プラグインハイブリッド・システムがもたらすシステム総出力は、ラ・フェラーリを大きく超える1000psに到達した。
しかし、F1由来の比較的簡易なKERSシステムを採用するラ・フェラーリと比べると、本格的なプラグインハイブリッド・システムが与えられたSF90は、あくまでスペックシート上の数値ながら、300kg以上も重い1570kgとなってしまった。
それでも、前輪もモーター駆動となることでトラクション性能が向上したためか、ラ・フェラーリを大幅に凌駕するラップタイムを計上するに至ったようだ。
* * *
ちなみにF1マシンまでも含むと、現役チャンピオンだった時代のミヒャエル・シューマッハ氏が2004年に「F2004」とともにマークした55秒999が、このピスタ・ディ・フィオラーノにおける歴代ベストラップとのことである。
古いとはいえF1マシンの速さに驚かされるいっぽうで、今後このタイムに肉薄するようなストラダーレが誕生するのか否か、興味と期待が尽きないところである。
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