悲劇を繰り返さない為に 池袋暴走一審判決を受け考える高齢ドライバー問題 「ドラレコ」活用も対策に有効?
くるまのニュース / 2021年9月4日 16時10分
東京都豊島区東池袋で2019年4月19日に発生した、いわゆる“池袋暴走事故”の裁判で、旧通産省工業技術院の元院長 飯塚幸三被告の一審判決が2021年9月2日に出ました。悲惨な事故を繰り返さないために、クルマ側とドライバー側で今後はどのような対処が望まれるのでしょうか。
■池袋暴走事故で禁錮5年の実刑判決
池袋で2019年4月19日にクルマが暴走して母親と子どもひとりの死亡と9人が重軽傷を負ったいわゆる“池袋暴走事故”の裁判で、過失運転致死の罪に問われていた飯塚幸三被告(90)に対する判決が、2021年9月2日に東京地裁でいい渡されました。検察の禁錮7年の求刑に対して、禁錮5年の実刑判決となりました。
飯塚被告の弁護側は、クルマ(プリウス)は購入から約10年が経過し、経年劣化による電子部品等の不具合の可能性が考えられ、飯塚被告のアクセルとブレーキの踏み間違いによる運転ミスではないと一貫して無罪を主張してきました。
事故を起こした車両については、トヨタは2021年6月21日、当局の申請に基づく調査協力の結果、車両の異常や技術的な問題は認められなかったというコメントを出していました。裁判ではこうした技術的な検証が重視されたと思われます。
池袋暴走事故をきっかけとして、高齢ドライバー問題についてテレビや新聞、雑誌、ネットニュースでさまざまな報道があり、多くの人がドライバーの立場として、または歩行者の立場として“明日は我が身”という意識を持つようになったのではないでしょうか。
今回の判決を受けて、改めて高齢ドライバーの事故対策について考えてみたいと思います。
クルマの安全技術には大きくふたつの考え方があります。ひとつは、事故が起こらないように予防する安全技術、もうひとつは、万が一事故が発生した場合の衝突安全技術です。
池袋暴走事故では、当該車両の車体前部が大破しましたが、衝突安全技術によって乗員の生命は守られました。
しかし、誠に残念ながら、当該車両と接触した自転車で通行中の親子おふたりの命を守ることはできませんでした。
一方で、予防安全技術については、当該車両は高度な運転支援システムの本格的な市場導入される前の世代のモデルでした。
国は近年、池袋暴走事故など高齢ドライバーによる交通事故防止の一環として、サポカー(セーフティ・サポートカー)という“概念”の普及につとめています。
具体的には、いわゆる自動ブレーキである衝突被害軽減ブレーキや、アクセルとブレーキの踏み間違い防止装置など、高度な運転支援システム(ADAS)を搭載した車両を指します。
平成31年警察白書によると、死亡事故の人的要因として、75歳未満のドライバーでは安全不確認が全体の26%、また前方不注意が25%と高い割合を示しています。
一方で、75歳以上の場合、操作ミスが30%ともっとも多い要因となっています。操作不適のうち、ハンドルの操作ミスが17%、またアクセルとブレーキの踏み間違いが5.4%を占めています。
こうした統計から分かるように、加齢による体力の衰えなどから、運転に対する認知・判断・操作が三位一体をおこなうことが難しくなる場合があり、最悪のケースとしてドライバー自身や、他のクルマや歩行者を巻き込んだ重大事故につながりかねないのです。
技術の進歩が目覚ましいサポカーですが、前述のとおりあくまでも概念であり、自動車メーカーや各モデルによって、高度な運転支援システムの種類や性能に差があるのが実状です。
早ければ2022年度には、運転免許でサポカー限定が導入されますが、これはあくまでも任意であり、仮に最新システム搭載のサポカーだからといって、クルマの予防安全技術を過信した運転は禁物です。
■ドラレコなどで運転の実態を認識することも有効か?
サポカーは新車、または年式のかなり新しい中古車を対象としているため、経済的な理由などから、現在使用しているクルマからサポカーに買い替えることが難しい人もいるでしょう。
そうした古いクルマを今後も使い続けるうえで、家族や地域の人たちが日頃から高齢ドライバーを見守ったり、状況によっては危険な運転に対する注意喚起をする必要もあるかもしれません。
例えば、高齢ドライバーが運転を継続することについて、自分自身でどう考えているか、さらに家族はどう見ているかをドライブレコーダーの映像から実際の運転状況を把握することも有効です。
ドライブレコーダーの映像で運転状況を判断することも可能
また、自主的に運転する条件を限定する方法もあります。例えば、福井県がおこなっている限定運転や、福岡県警による補償運転があります。
具体的には、夜の運転は控える、朝夕の通勤通学時間帯は交通量と人流が増えるので運転を控える、近くのスーパーや病院など決まった行き先として運転する、または運転する場合は可能な限り助手席に家族が同乗するといった条件付けを、自主的に決めることで、事故のリスクを抑える方法です。
こうした、さまざまな対応策を考えたり、または実際におこなったうえで、運転免許を更新するかどうか、または自主的に免許取り消しを申請する免許の返納をおこなうべきかを、個人や家庭の事情、そしてお住いの地域での公共交通や移動サポートの現状を踏まえて、じっくり考えるべきだと思います。
運転免許は住民票やパスポートのように申請するだけで取得できるものではなく、学科と実技の試験によって運転するに十分な知識の能力があることを証明することで得られる国家資格です。
クルマを運転することは、ドライバーが社会に対して自己責任を持つことを意味します。
池袋暴走事故が高齢ドライバーのみならず、すべてのドライバーにとって安全運転を考えるための教訓になることを祈ります。
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