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AMGも道を譲るロールス・ロイス「コーニッシュ」のクルーザーのような乗り味とは

くるまのニュース / 2021年9月20日 8時30分

「クラシックカーをいま、実際に運転してみたらどうなのか?」という、素朴な疑問に答えるテストドライブ。記念すべき第1回目は、かつて「世界最高級パーソナルカー」と称されたロールス・ロイス「コーニッシュ」、しかも、希少なクローズドクーペを真夏の昼下がりに試乗してみました。

■クラシックカーに乗ってみた! 1980年型ロールス・ロイス「コーニッシュ」

 ロールス・ロイス(R-R)コーニッシュは、1967年に「シルヴァーシャドウ・マリナー・パークウォード製ドロップヘッドクーペ/スポーツサルーン」の名で、姉妹車であるベントレー「Tマリナー・パークウォード製ドロップヘッドクーペ/スポーツサルーン」とともにデビューした。

 もともとの車名が示しているように、車体構造がモノコック化された新時代のR-R製超高級4ドアセダン「シルヴァーシャドウ」に、専用の2ドアクーペ/コンバーチブル型ボディを与えたもの。傘下のコーチビルダーである「マリナー・パークウォード」によって製作された少量生産のパーソナルカーだった。

●新車価格は同時代のスタンダードサルーン“シルヴァーシャドウ”の二倍以上!

 そののち1971年モデル以降は、V型8気筒OHVエンジンが従来の6230ccから6747ccに拡大されるなどのアップ・トゥ・デートを受け、新たにドロップヘッドクーペ/スポーツサルーンともに、そしてベントレーもともに「コーニッシュ」のペットネームが与えられることになる。

 コーニッシュでは、一般的にクローズドボディ版は「クーペ」と呼ばれるのだが、メーカーとしての正式呼称は、あくまでも古き良き英国車の伝統にしたがった「スポーツサルーン」。その名にふさわしく、後席も2名の大人がゆったり乗車できる仕立てとなっている

 また外観については、一見したところではスティール製のスタンダードボディを持つ量産4ドアセダン「シルヴァーシャドウ」に似ているようにも感じられる。しかし実は、名門コーチビルダー「マリナー・パークウォード」の熟練工が手叩きのアルミパネルから組み立てるという、馬車時代から綿々と受け継がれた手法にこだわって、1台1台を丹念に手作りしている。

 端正を極めたスタイリングに加えて、製作作業にはシルヴァーシャドウの2倍ほどの工程と製作期間を要したといわれる、ハンドメイドの逸品である。

 その成り立ちを思えば当然のことながら、当時の販売プライスは、同じロールス・ロイスでも一定数が量産されたシルヴァーシャドウの2倍以上に相当。同じくマリナー・パークウォードにて受注製作されていた最高級リムジン「ファントムVI」に近いものとなっていた。

 生産数が限定され、価格もきわめて高価だったコーニッシュながら、1970年代の欧米におけるポップカルチャーにも影響を及ぼすヒット作となる。

 そしてそののち、1975年ごろにベースとなるシルヴァーシャドウが「シルヴァーシャドウII」へと進化したのに伴い、大型バンパーやラック&ピニオン式のステアリング、より高度になった空調システムなどの大規模なマイナーチェンジが施されたものの、シャドウ系のように「II」が車名に添えられることはなかった。

 R-Rコーニッシュのスポーツサルーンは、アップデートされたのちの1981年までに、わずか1108台のみが製作されたという希少車。なかでもビッグバンパーの後期型は、生産期間がコンバーチブルより15年も短いぶんだけ生産台数も少ない。

 そんな貴重な1台を、今回は「ワクイミュージアム」の創業者、R-R/ベントレーの分野では世界的なコレクターとして知られる涌井清春氏から借り出し、テストドライブの機会を得たのである。

■ロールス・ロイスの本分はドライバーズカーだった!

 R-Rコーニッシュ・クーペといえば、映画「華麗なる賭け(原題Thomas Crown Affair:1968年公開)」にてスティーヴ・マックイーンが演じた主人公、大富豪のビジネスマンでありながら趣味として犯罪を楽しむ男、トーマス・クラウンの愛車として登場したマルーンのクーペを思い出す人もいるだろう。

ひとたび走り出してしまえば徹底的にエレガント、しかも力強く加速してゆくひとたび走り出してしまえば徹底的にエレガント、しかも力強く加速してゆく

●ドライバーズカーとしてのロールス・ロイスの魅力に触れる

 劇中でマックイーンが走らせたのは、初期型にあたる「シルヴァーシャドウ・マリナー・パークウォード製スポーツサルーン」。いっぽう今回の試乗車両は最終型のビッグバンパー仕様で、ボディカラーもパールの入ったアイボリーとまったく異なるのだが、実際に目の当たりにすると2ドアR-R独特の高貴な雰囲気がありありと伝わってくる。

 全長約5.2mという雄大なサイズもあって、現代車と比べると小柄なクルマが多いクラシックカーのなかにあっては圧倒的な存在感を見せるコーニッシュだが、それを自ら操るという高貴な体験は、クロームメッキが施された繊細なデザインのドアハンドルに手をかけた瞬間から始まる。

 現代のロールス・ロイスのようなオートクローズ機構こそないものの、「コトッ」というかすかな音とともにドアが閉まると、上質なコノリー社製レザーとウォールナット材に囲まれた空間は、車外とはまったく異なる静寂な世界となる。

 そしてキーをひねって、V8エンジンを始動。ステアリングコラム上に置かれた柔らかいタッチのATセレクターをDレンジに入れてブレーキペダルの力を抜くと、まるで現代のEVのごとくスムーズに車体が動き出す。

 創業以来、20世紀末まで長らく続いたロールス・ロイスの伝統にしたがって、パワーやトルクのスペックは未公表。当時のR-R社では「必要にして充分」と応えていたそうだが、なるほど走らせてみると、彼らのいいぶんが良くわかってきた。

 シャドウII系メカニズムを持つ1970年代のR-R/ベントレーは、低速でスロットルを踏んだ直後の初動がやや過敏に反応することでも知られるが、そのレスポンスにだんだん慣れてくると、アルミ軽合金製V8エンジンから発せられる「ルルルルル」という心地よいハミングとともに、2トンを大きく超える巨体をスイスイと加速させてゆくことができてくる。

 ひとたび走り出してしまえば、しめたものである。たとえスピードが上がってもV8エンジンが必要以上に声を荒げることはなく、徹底的にエレガント、しかも力強く加速してゆく。またコラム式の3速ATの変速マナーがスムーズなことも相まって、現代の東京都内、あるいは高速道路でも流れを充分にリードできる速さを備えているのだ。

 そして、クラシックR-Rの苦手分野と思われがちなハンドリングについても、マイナーチェンジでラック&ピニオン式とされたこの個体では、かなり正確性を増している。

 1960年代までのロールス・ロイスを操るときのような、下側から捧げ持つような送りハンドルではなく、いわゆる「10時10分」あたりで積極的にステアリング操作をおこないたくなるくらいにはシャープ。たゆたうクルーザーのごとき乗り心地ながら、独特のドライビングの楽しみを享受することができる。

 ただ唯一、ブレーキのみはABSが普及する以前のものなので、パニックブレーキ時には絶対的制動力が意外に優れた4輪ディスクブレーキをロックさせてしまうこともあり、いつでもスムーズに停車するには少しだけ習熟が必要となるかとも思われるが、いずれにしても「走る・曲がる・停まる」という自動車にとって重要な要素は、40年前のクルマとしては非常に優れていると断言してもよいだろう。

 なぜかわが国では「ロールス・ロイス=ショーファードリヴン向けのクルマ」と思いこまれてしまっているようだが、もともとロールス・ロイスといえば20世紀初頭の「シルヴァーゴースト」の時代から、コーチビルダーが架装するボディの大半がオーナードライバー向け。むしろ、歴代ファントムのリムジン(あるいはセダンカ・ド・ヴィル)ボディ架装車両のみが、ショーファードリヴン向けに特化したものだったとも考えられる。

 さらに第二次大戦後に登場した「シルヴァードーン」、「シルヴァークラウド」から最新の「ゴースト」に至る量産サルーンたちも、基本はオーナードライバーを想定して開発されたものであり、まして2ドアのコーニッシュはオーナー自らがドライビングを楽しむために生み出されたクルマだったはずである。

 だから、今回のテストドライブでR-Rコーニッシュの「走りの資質」が高いことを今いちど確認するという目的が果たされて、いたく満足している筆者なのである。

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